見た
次の日、三枝が目覚めると家に森田の姿はなかった。どうやら早朝から働きに出ていったらしかった。
昨日、軽食を広げたテーブルの上に置き手紙がおいてあった。
読むと日没には帰ってくるらしいが、炭鉱の雇い主やその息がかかった者に見つかると面倒なことになるかもしれないので、なるべく外出を控えるよう書いてあった。
「忠告はありがたいが、この町の腐敗具合を見ておきたい。ここに君臨する支配者様のご尊顔でも拝見してくるか」
キィと戸を開けた三枝は顔だけ出してきょろきょろとあたりを見回してから、外へ出た。
ここは労働者たちの居住区だからか、くたびれた印象の男たちが大勢たむろしていた。
トランプを広げて賭け事に興じる者、ベンチに腰かけてうなだれた様子の者、日差しが当たらない物陰で世間話をする者。
みな日々の労働で疲れている印象はあるものの、そこまで劣悪な環境とは思えなかった。
「やはり、いくら仕事がきつくても食べ物や住む所は保障されているからかな」
そこで三枝は何者かに呼び止められた。
「なぁアンタ、見ない顔だが新入りか?」
見ると、ひたいにハチマキを巻いたひげがもじゃもじゃの50代くらいの男性がいた。
「え?まぁ、そんなとこさ」
「じゃあ、ここからまっすぐにいって三つ目の角を右に曲がった所にある町長さん家に行ってきな」
「町長さん?」
「んーだ。新参者はそこで住民登録してもらわないといけないんだぞ」
「そうか、分かった。ありがとうございます」
親切な労働者に礼をすると、彼が言った通りの道順をたどっていくとそれはあった。
このご時世では珍しい鉄筋の建物。労働者の一戸建てより5倍はあると思われるくらいの大きさ。
建物自体は特に特徴的な部分はなく、労働者民家をでかくして少し豪華に飾り付けをした程度だった。
「まるで、ここの支配者であることを主張するがの如くのでかさだな」
巨大な建造物で権力を示したいのか、しかし今日までこの町を運営してきた奴だ。無能ではあるまい。
住民登録すると面倒だから、入らずに遠巻きに観察して、町長さんの顔でも見て帰ろうかな。
物陰に隠れて数分張っていると、そいつはすぐに確認できた。3名の護衛を従えながら、どうどうと大股で家から出てきた。
あいつが町長か。
大きくてぎょろりとした目に大きな鼻に厚ぼったい唇。そしてなにより特徴的なのは左目の下にある横線で入った傷跡。
「背も190以上あるパワータイプっぽいな。傷跡を察するに終末戦争の生き残りか」
三枝が町長の分析を行っていると背後から声が聞こえた。
「今日ってあれだろ。町長が炭鉱を視察する日だろ?」
「あぁ、月に一度のな。まーた町長のダメだしが行われるんだろうなぁ。今日が当番の奴らは運がないな」
なるほど。このまま護衛を従えて、炭鉱の視察か。
「そういや、炭鉱もどんなのか興味があるぞ。ちょっくらのぞいてみっか」
その頃の炭鉱はというと午後休憩であり、つかの間の休息をむさぼっていた。
大半の労働者は少しでも体を休めようとじっとしていたが、森田をはじめとするある集団はそうではなかった。
森田ら6名の労働者はそれぞれ身を寄せ合って陰で何事かひそひそと話し合っていた。
「いいか、あと5分で休憩が終わり、町長がこの炭鉱に来る。そこが勝負の時だ」
力強く森田以外の5人はうなずく。
「森田の護衛は3人、炭鉱の看守は2人。お前らはそいつらの相手をしろ。俺は町長をやる」
「森田さん、そろそろ例の物を出した方が・・・」
「そうだな。時間も近いことだし。井口、吉沢、ディスクを出してくれ」
「はい」
飯田と井口は風呂敷から6人分のデュエルディスクを取り出した。
「いきわたったようだな。全員腕に装着しろ。もう後戻りはできない」
全員がディスクを装着した瞬間に奴が炭鉱に姿を見せた。
町長だ。
「町長おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
右腕にディスクを付けた森田が飛び出した。
「貴様の悪行もここまでだ!!今ここでデュエルを申し込む!」
「ふふっ、面白い。まともなカードが手に入らないこんな僻地でどんなデッキを組んだか、しかと見せてもらおうか」
町長は護衛の一人に目で合図すると、デュエルディスクをアタッシェケースから出させた。
「お前たちはこっちだ!」
森田の仲間たちは護衛と看守の目の前に立ちはだかった。
「でゅえる開始だ!」
同じ場所で同時に6つのデュエルがスタートした。
その頃の三枝はというと、町長を途中で見失って炭鉱にたどり着けずウロウロしていた。