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僕と空き缶  作者: 凪希なぎ
12/12

第11話 完全な死角

いつも通りな時間帯投稿

とうとう10話超えですねー。

これから段々自分でも分からない世界に入って行きます!

 赤月直哉。28歳、男。


 某年某日、とあるアパートで赤月本人の勤務先である中小企業の上司、一宮明正、67歳が階段の下で頭から血を流して倒れているのが発見された。一宮明正は病院に搬送されるも死亡が確認された。犯人は被害者の部下に当たる赤月直哉と見られている。現場検証の結果、階段上階でトラブルが発生、掴み合いになり突き落としたのではないかとの見方が出ている。


 数日後、隅田川の河川敷に身を潜めていた赤月直哉を発見、逮捕に至る。本人は殺人の容疑を以外にも素直に認めたが「金銭のトラブルがあった。詳しいことを話すつもりはない」と供述しており、黙秘を続けている。また、アパートは赤月が暮らしていたアパートだということが明らかになり、一宮を現場に呼んでいたことから計画性があったのではないかとの見方も上がっている。


 赤月直哉をよく知る人物は「真面目で頭脳明晰な人だった。殺人を犯すような人ではない」と証言している。事件の数日前には隅田川のクリーンキャンペーンという清掃ボランティアにも参加、近隣住民からの信頼は厚かった。更に、赤月直哉には恋人がおり、彼の逮捕時「早く帰って来て欲しい」とコメントしている。


 そして、つい先日、今から一週間程前に東京拘置所を脱獄している。警視庁は赤月の足取りを未だに掴めておらず、捜査は難航しているという。特徴として挙げられているのはスラリと高い身長、低い声で爪がとても短く整えられている、とのこと。発見次第通報を願う。




「と書かれたホームページが警視庁に挙げられていたよ。ツイッター等での拡散も著しく広がっているとか。その手のニュースは僕も知っていたんだけど、まさか赤月が此方に来ていたとは」


 紀坂は腕を組んで唸り声を立てた。いつの間にか居なくなった店長を余所に三人は少しの間考え込んだ。何を考えているのかは分からない一同の中で、真っ先に僕が口を開いた。


「その赤月という男は八王子を縄張りにしているって言ってましたが、何か関係があるんですか?」

「あぁ、赤月は以前八王子で暮らしていたカラスなんだ。と言っても、僕は赤月と会ったことはないんだけど。で、八王子を縄張りとして生活していた。だからその間僕と八嶋は隣町の日野市にいたわけ。まぁ、今は赤月が居なくなったから八王子を占拠する形になったわけなんだけどね」

「そしたら、赤月が戻って来たというのはかなり不味いのでは?」

「そうだね、特に何が不味いって相良君、君の顔が知れてしまっているところだよ」


 そう言えばそうだ。あの時は何の緊張感もなくあの男とやり合ってしまった。短刀を持った不思議な人だとは思ったが、まさか殺人犯で脱獄囚だったなんて。って、この話をしてるのは殺人未遂の学生なんだよな?


「ほら、君たち、もうこんな時間だ!店仕舞いにするから帰った、帰った」

「22時閉店でしたね、そう言えば。バイト先なのに忘れてました」


 店長が僕らを急かす。モルゲンは22時閉店だった。毎日此処で働いていたのにも関わらず閉店時間を忘れてしまうなんて。特に片付ける程散らかさず、会議のようなことを2、3時間も続けていた一行は軽く荷物を纏めると外へ出た。


 外は1月の22時というだけあってかかなり冷え込んでいる。イルミネーションも徐々に外されていて、カラスにとって過ごしやすい漆黒になりつつある。前の交差点にも人通りはなく、モルゲンから出て来た僕等だけが突っ立っている。


「折角だし、今度はカラスとして電話を掛けるかもしれないから連絡先を交換しておかないか?相良君も一人では不便でしょ?」

「何が不便だと言うんですか、紀坂さん?」

「ほら、カラスのことをまだあまりよく知らないでしょ?僕や八嶋が力になれることがあるかもしれないじゃないか」

「分かりました。八嶋さんは出会いを大切にされているみたいですし。」


 八嶋さんのワクワクした顔を横目にスマホを取り出す。


「よし、そうと決まれば」


 僕らは連絡先を交換した。今まで誰かの連絡先を電話帳に書き加えることなどなかったからかなり新鮮だった。姓名で分けて登録するのだな、電話帳というものは。そして電話帳の欄に新たに「紀坂涼真」と「八嶋絵美」が加わった。以前から「店長」は入っていた。この人はバイト先の店長だとしか聞かなかったものだからこの名前で登録したんだっけ。今回で名前が「倉川明」と分かったのだからこっちの名前で登録しておいてやるか。


 連絡先を受け取った八嶋は何処となくご満悦。紀坂は更に手書きでメモ帳にも写すという几帳面ぶり。僕は連絡先を登録した途端にスマホをポケットに滑らせた。


「よし、それじゃあ帰ろっか。市営ゴミ集積所には気を付けてね。監視カメラがいつ搭載されるかなんて分からないんだから」

「分かってますよ、ありがとうございました」

「またね、相良君!またモルゲン行くね!」

「八嶋さん、ありがとうございます。店長も喜びます」


 僕らはお互いに手を振りながら別れた。僕は一人で紀坂さんと八嶋さんはペア。




 今までのことを少し整理する。まず紀坂涼真と八嶋絵美は味方であるのは確定した。連絡先の交換までしたんだから間違いない。相手に連絡先を教えるなんて敵にはしないし、もしもそれをしたとするならリスキーだ。そして、店長である倉川明は元カラス。つまり元社会不適合者というわけ。今はカフェ経営が軌道に乗ったということもあり脱カラスだそうだ。更に店長は紀坂さんと師弟関係にある様子。店長がカラスだった頃に反国策を練っていたようで、それを紀坂も知っている。


 次に市営ゴミ集積所の監視カメラについてだ。紀坂さんの資料によるとカラス(鳥類)の被害が未だに拡大の一途を辿っていることを見兼ねた八王子市がとうとう監視カメラの設置を試みる、のだそうだ。確かに隙だらけのゴミ集積所だった。だからカラスである僕等も利用していたんだ。勿論、人気のない時間帯に。しかし、監視カメラの設置でライフラインが絶たれてしまう。店長が働くモルゲンの賄いを無いものとすると生活は絶望的だ。何とかしないといけない。そのために先程の反国策を行うという紀坂さん。


 そして、もう一つの問題が赤月直哉だ。先週あたりに脱獄した囚人で八王子市に戻って来ているらしい。脱獄の意図も殺人の意図もはっきりしていないだけに怖い人物ではある。ただ初めて僕が赤月直哉にあった時、確かに執拗な脅しはあったけど悪い人には思えなかった。寧ろ良い人だった。鴉面を届けてくれたり、忠告してくれたり。


 これからの反国策に赤月直哉が絡んで来るとなると少し厄介かもしれない。ただ、赤月はカラスのこと知っていた。もしかしたら協力してくれたりもするかもしれない。まだ可能性でしかないけど、殺人未遂犯がいるんだから殺人犯が仲間にいても差し支えないのではないだろうか。




 僕はモルゲンからアパートへの帰路を黙々と歩いた。時にカラスのことを思い浮かべ、時に早水の笑顔をチラつかせながら。確か早水は22時30分には自宅に戻るはず。そのような話は既にあの時聞いておいたのだ。別にストーカーをしようと言うことではなく真っ当な理由だ。カラスとして被害に遭わないようにするためであったり。


 僕は自室へ繋がる扉を開ける。地獄の日々が口を開けて待っているような扉だ。闇へ続く廊下の電気は点かない。何年も前に給料はスマホの維持代に回している。豆電球もただぶら下っているだけだ。大家さんも僕を見て見ぬ振りしているようで、声もかけて来ない。家賃の滞納だと五月蠅かった過去を思い出してニヤけてしまう。


 僕は早水の帰りを待った。伝えねばならないことがある。紀坂がどうしてカラスになったのか、八嶋とどうやって出会ったのか、そして鴉面を返して来たあの男が何者だったのか。



 待てよ?



 赤月直哉はこの街を縄張りにしているんだよな?



 そしたら、早水がカラスだってことにももう気付いて…………!?



 僕は勢いよく自室を飛び出した。迂闊だった。バイトだからと一人で街に早水を放ってしまった。よくよく考えたら彼女を一人で行動させるのは危なかったんだ。僕の顔を覚えたカラスはどうするか。紀坂や八嶋のように僕の自宅を割り出すに決まっているんだ。その時早水が一緒にいたら彼女の顔まで割れる。何故今になってそれに気付いたんだ。


 完全な死角だった。


 早水が危ない。



 僕は夜更けの街を走ったコンビニのレジ打ちという言葉を頼りにコンビニを探して回ったが、レジ付近に早水の姿は見当たらない。あるのは焦燥感と罪悪感。


「早水……!何処ほっつき歩いてんだ!……くそっ!」






「相良を告発しろ。それがお前の役目だ、早水雪菜」



登場人物

相良修斗 (20)男 カラス

早水雪菜 (18)女 カラス

紀坂涼真 (22)男 カラス

八嶋絵美 (22)女 カラス

金山昌幸 (63)男 無所属

倉川明  (46)男 元カラス

赤月直哉 (28)男 脱獄囚

一宮明正 (67)男 

絞首された教授 男


次回予告 第12話 短刀と戦力

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