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ELEMENT2018冬号  作者: ELEMENTメンバー
テーマ創作「贈り物」
4/13

ボディーガード(作:奈月ねこ)


再来週は私の誕生日。友達は誕生日プレゼントをくれるけど、彼氏なしの私には貴金属はきっとないわね。だからって訳じゃないけど、一年に一度の自分の誕生日に、自分へのごほうびを買ってもいいわよね。


 私は自分に言い訳をして、デパートの貴金属売り場に来た。


 たまには高級店に入ってみようかしら。見るだけなら無料ただだし。


 私は普段なら入らないようなブランドの高級店に足を踏み入れた。


「いらっしゃいませ」


 さすがに店員も洗練されてるわね。一回りしてから出ようかしら。


 私はショーケースの前へと行った。


「何かお探しでしょうか」


 自分へのごほうびなんて恥ずかしいわ……。どう言ったら……あ、そうだ。


「友達へのプレゼントを探しているんです」

「それでしたら、こちらのネックレスなどいかがでしょう。今月入ってきた新しいデザインのものなんです」

「そうなんですか」


 やっぱり自分で指輪を買うっていうのもね……ネックレスが妥当かしら。あら、これ素敵なデザインだわ。


「これ、見せていただけますか?」

「かしこまりました」


 店員さんが高級そうなビロードのうつわにネックレスを出して見せてくれた。


 素敵だわ~。でもきっと高いのよね。というか、値段が表示されてないって……どうしよう。聞いた方がいいかな。


「あの、このネックレスはおいくら……でしょうか」

「はい、こちらはダイヤモンドなどもあしらっておりますので、25万円になります」


 に、25万円!? 自分のごほうびにしても、友達のプレゼントにしても高すぎるわよ!


「あの……」


 ドンッ


 いきなり私の背中に衝撃がきた。と同時に私は前のめりになってしまい、ネックレスを入れた器が床に落ちた。


 パリン


 え? 何今の音。まさか……


 私がネックレスを見るとものの見事に割れていた。


 きゃああああ! 25万円のネックレスが!


 私は私の背中に衝撃を与えたもの・・を見た。黒ずくめの集団だった。男たちはそのまま店を出ようとしていた。


「ちょっと待ちなさいよ!」


 私は頭にきて呼び止めた。すると、黒ずくめの男たちの中から一人の男性が出てきた。


「お嬢さん、何か?」


 品のよい男性だった。だが、私は頭に血が上っていて、周りが見えていなかった。その怒りのままに彼に言葉をぶつけた。自分にぶつかった人を指差して言った。


「その人が私にぶつかったせいで、ネックレスが割れたじゃないの! どうしてくれるのよ!」

「お、お客さま!」


 私を止めたのは店員さんだった。


「お客さま、ネックレスのことはよろしいですから……西園寺さま、失礼しました」


 店員さんは男性に向かって深々と頭を下げた。


 え? どういうこと?


「お嬢さん、うちの者が申し訳ない。ネックレスはこちらで弁償させていただくよ」

「さ、西園寺さま、そのようなことは……」


 またしても店員さんが悲鳴のような声をあげた。


 一体この人は……とそこで私は周りをみると、彼を囲むように黒ずくめの男たちがいることに気がついた。


 ま、まさかヤクザ!? に、逃げなきゃ! ってどこへ!?


 私は完全に混乱していた。そんな私を見て男性は笑いながら、名乗ってくれた。


「私は西園寺さいおんじ 恒彦つねひこ。本当に申し訳なかった。そのネックレスを買うご予定でしたか? でしたら代わりといってはなんですが、他のものでよろしければ、弁償として贈らせていただきますので」


 ……つまりそれって無料ただでネックレスが手に入るってこと? いやいや、こんな見ず知らずの人に買ってもらうわけにはいかないわ。


「いえ、壊れたネックレスを弁償していただければ構いませんので。失礼します」


 私はなんとか言い切ると、その場を逃げ出した。いや、逃げ出そうとした。逃げられなかったのは、男性に腕を掴まれてしまったからだった。


 や、やっぱりヤクザ!? こ、殺される!?


 私の顔が強ばっていたのだろう。男性は笑いながら言った。


「もしかしてヤクザだとか思ってます?」

「!!」


 私は自分の考えを言い当てられて、ビクッとした。


「違いますから。彼らはただのボディーガードですよ」

「え……」


 私は恥ずかしさで赤くなってしまった。


「す、すみません。でも、あの、あなたに買ってもらう理由はありませんので……」

「それでは私の気がすまないんですよ。この店でなくても、他の店でもいいので気に入ったものを言ってください」

「いえ、ですから……」


「恒彦様、そろそろ……」

「ああ、わかったよ」


 私たちの会話を遮ったのは、一人の黒ずくめの男だった。


「お嬢さん、これが私の連絡先。必ず連絡してください」


 男性は紙切れを私に渡すと、去っていった。私は店員さんに聞いてみた。


「あの、今の人って……」

「西園寺さまと仰って、政治家の家系なんですよ。西園寺公彦さまをご存じではありませんか?」

「え? あの、元総理大臣の……?」

「はい、今の方はそのお孫さんに当たります」


 ええ~! なんだかまずい人と関わった気分。とにかく帰ろう。


「お騒がせして申し訳ありませんでした。失礼します」

「はい、またのご来店をお待ちしております」



 あ~あ、自分へのごほうびが……。でもまあ、25万円のネックレスは買えないし、かえってよかったかも。



 一週間後、私の前にあの男性が現れた。


「連絡してくれませんでしたね」

「ど、どうしてうちがわかったんですか!?」

「すみません。調べさせていただきました」

「あの、ネックレスならもういいですから」

「そういう訳にはいきませんよ。何か別のもので弁償させてほしい」

「ですから……」


 私はあることを思い付いてしまった。これならきっと彼も引かざるを得ないだろう。


「わかりました。でしたら一つお願いを聞いていただけますか?」

「ああ、なんだい?」

「その人です」

「え?」


 私は宝石店で唯一彼に話しかけた黒ずくめの男を指差した。


「彼を貸してください」

「……え……」


 ふふん、これで諦めるでしょ。


「彼でいいのかい?」

「え?」


 ま、まさか……


「彼でよければ一日貸し出すよ」

「恒彦様!」

山下やました、一日彼女の護衛を」

「……かしこまりました」


 えええ! それでいいわけ!?


美智子みちこさん、山下をよろしく」

「はあ」


 彼らは帰って行った。山下さんを残して。彼は深々とため息をついた。


「で、どこへ行きたいんだ?」

「……山下さん、さっきと随分雰囲気が違いますね」

「恒彦様は雇い主だ。丁寧に接するのは当然だ。だが、恒彦様の命令だから仕方がない。どこへ行くのか決めろ」

「わかったわよ! じゃあ銀座!」


 こうして山下さんと私はデート(?)することになってしまった。でも、飾らない彼を私は好ましく感じていた。


 デートも終盤に差し掛かった時だった。横断歩道を渡り終えた時、子供が赤信号に変わりそうな横断歩道を渡ろうとした。とそこへ左折した車が突っ込んできた。


「危ない!」


 私は叫ぶより先に体が動いていた。私は子供を庇ってうずくまった。とその時だった。体がふわりと宙に浮いた気がした。山下さんが私と子供を抱えて、横断歩道を渡りきっていた。


「山下さん……」

「あんた、危なっかしいな……」

「だって子供が……」


 子供は無事に母親へと引き渡した。


「あの、ありがとうございました」

「……いや、今日はあんたの護衛だからな」


 心なしか山下さんの顔が赤くなっているように見える。夕日のせい? それとも……。


「そろそろ帰った方がいい」

「え、はい」


 私達はぎこちなく帰路についた。


「今日はありがとうございました」

「いや、俺も休暇をもらったようなもんだしな」


 二人で笑いあった。


「じゃあこれで」

「はい、さようなら」


 彼は帰って行った。何だろう『さようなら』の一言が胸に突き刺さる。まさか……。私はモヤモヤとした気持ちを抱えて仕事をしていた。そしていつもの帰り道。家に着くと、黒塗りの車が停まっていた。私が車の横を通ろうとすると、車のドアが開いた。


「西園寺さん……?」

「やあ、美智子さん、誕生日おめでとう」

「あ、ありがとうございます」


 そういえば誕生日だった。色々あって忘れてたわ。


「私からプレゼントを贈らせてほしい」

「い、いえ、いただけません」

「見てから決めてもいいんじゃないかな?」

「え?どういう意味……」


 車の中から現れたのは山下さんだった。


「山下さん……」

「あ、美智子さん、その……ボディーガードは必要ないか?」

「え?」

「だから……俺と付き合ってほしい」


 山下さんは真っ赤だ。私は彼が可愛く思えてきて、最近の胸のモヤモヤの原因がわかった。


「よろしくお願いします」


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