形のない贈り物(作:葵生りん)
「ねぇアナタ。これ、わたしのキモチ」
「ありがとう」
カナちゃんとショウくんは公園でままごとあそびをしていました。
カナちゃんがもじもじしながら差し出したのは、いつものままごとセットのお皿やハンバーグじゃなっくて金色折り紙の箱に赤い毛糸がかけられたプレゼント。
とっても軽くて、振ってみてもなんの音もしません。
「これ、なぁに?」
「わたしのキモチって言ったでしょ?」
(キモチってなんだろう?)
ショウくんがリボンを引っ張ろうとすると「あ、まって。」とカナちゃんがとめました。
「もう。はずかしいから、わたしのいないときにあけて」
「う、うん……」
「カナ、そろそろ帰るわよー」
「はぁい。じゃあショウちゃんまたあしたね!」
カナちゃんはパタパタと走っていくと、ママと一緒に帰っていきました。
「翔太も帰ろっか。あら、その箱はなあに?」
ショウくんのママはショウくんの手の中にある箱のことを聞きました。だからショウくんは帰り道、カナちゃんからもらったのだとママに話しました。
「あはははは、女の子ってやっぱりおしゃまさんねぇ」
ママはそう言って笑います。
家に帰ってからドキドキしながら開けてみると、やっぱりそこにはなんにも入っていません。でもふんわりといいにおいがしました。
それは小学校1年生になったカナちゃんのお姉ちゃんが大事にしている、イチゴの香りのする消しゴムのにおいでした。カナちゃんが欲しがっておねえちゃんと大ケンカしたって聞きました。
「なにが入ってたの?」
「ええとね、きもち?」
ママに聞かれてショウくんは困ってしまいました。空っぽの箱を見てママも首を傾げましたが、イチゴの消しゴムの匂いに気づいてにっこりと笑いました。
「そっか、気持ちかぁ」
ママはショウくんをひざにのせて、一緒になってプレゼントを包み込むように大事に大事に持ちました。
「この匂いもカナちゃんには大事な宝物なんだね。そして宝物をショウくんにわけてくれたんだ」
ママの手のひらも折り紙の箱も、ぽかぽかとあたたかいような気がしました。
ショウくんはお礼の手紙を書くことにしました。といっても、まだちゃんとひらがなが書けないのですが。でもママに書いてもらったお手本の「ありがとう」をマネをして、一生懸命に書きました。
うまくは書けなかったけれど、大事なのはキモチだよとママは励ましてくれました。
そして次の日。
公園でカナちゃんに会えると、ショウちゃんは早速お手紙を渡しました。
「まあ、おてがみ? ありがとう!」
キラキラのシールで飾られた手紙をカナちゃんはとっても嬉しそうに見ていました。
「なんてかいてあるの?」
カナちゃんはひらがなを少しだけしか読めないのです。だからショウちゃんは顔を真っ赤にして、言いました。
「ええと、ええとね、『だいすき』ってかいたんだ!」
「あらあら。ありがとうって書いたはずなんだけど」
少し離れたベンチからそれを見ていたママは、カナちゃんのママと一緒に笑いました。