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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

遊園地の道化

作者: べべ

 

 

 はぁ……暇でございますね。



 なんとも、なんとも、如何いかんともしがたい。

 暇というのは、生きとし生ける者全てに特攻性を持つ、致死の毒薬にございます。

 その上遅効性。気づいた時には精神が摩耗し、人格が大きく荒んでしまう。


 なんと悲しい!なんと恐ろしい毒なのでしょう!!


 あぁ、あぁ、それもこれも全て、あぁ、全てにおいて!この『裏野ドリームランド』がすたれたそのになってしまったのが原因起因でございましょう!!


 ワタクシは悲しい!

 数年前までは、子供たちが喜びと希望に満ち溢れた笑顔で園内を走り回っていたというのに!

 その両親もまた笑顔、笑顔、笑顔!

 我が子の喜びを受けその幸せを数倍にも膨れ上がらせ、互いの人生が歩む道は間違っていなかったと顔を見合わせまた笑う!

 そんな幸せな、あぁ、あぁ、まことまことな幸福の渦中にここはあったというのに!


 なにがいけなかったのでございましょう。


 なにが!なにがあったのでございましょう!


 気づけばその幸せの声は少しずつ少しずつ減っていき……あぁ、あぁ、やがてまばらになって行きました。

 まるで、保育園で最後に迎えを待つ園児のような心境。

 まるで、夕焼けの中で揺れるブランコのような心寂しさ。


 あぁ、あぁ、どうして、あぁ、あぁ……



      ◆  ◆  ◆



 ワタクシは小さくため息をつき、隣に座っておられる御方おんかたの頬を撫でます。

 その御方は、ここ日本においてはありえぬ造形美にて彩られた、異国の御仁。

 屈強な肉体、赤褐色の肌。

 美麗な容姿、そして……憤怒の形相。


 感じる手触りは、人智の成せる御業にて作られし芸術。すなわち人工物。

 妻に裏切られた怒りのあまりに、全てを食い潰さんと暴走した狂人。そう設定付けられた者。


 それは、一国一城の主。


 ブラスネルフェ王。


 あぁ、彼の御方の狂宴をいかにして皆々様にお伝えし、いかにして恐怖を味わっていただくかが、ワタクシの命題にして使命……なすべき仕事にして存在の全てにございました。


 『裏野ドリームランド:ホラーキャッスル「怒りの王城」』


 若くして国を統べた王が、狂い逝く様を描いた……人の業こそ真の恐怖と嘲る、怪異の城。

 あぁ、あぁ、物言わぬ王よ。

 貴方様もまた、報われぬ思いでございましょう。


 何度も何度も。


 何度も何度もなんども何度も何度もナンドも何度も何度も!!


 裏切りの王妃を油に漬け!


 静止をかける家臣を穿ち!


 我が血を引いていなかった王子を売りさばき!


 恐怖に怯える民から搾り取り!


 食う、食う、ただひたすらに食う!


 やがてその身は豚よりも醜く肥え、かつての美麗は失われ。


 女を調達しては、地下で唯一の運動をこなす……


 あぁ、あぁ、あぁ、あぁ。

 繰り返す、繰り返す。繰り返すおぞましき恐怖の物語!!


 やがて王は民に討たれ……呪いの言葉と共に客を見送る。

 呪いあれ、あぁ呪いあれ。

 そのような物語を、ただ延々と繰り返した王よ。

 廃れた園に放置され、憤怒のままに捨て置かれた王よ。


 貴方様にとってこの結果は、耐え難き屈辱で終わったのでしょうか?


 それとも……このような凶事を繰り返す地獄から、逃れたという安息で終わったのでしょうか?


 王よ、あぁ、あぁ、王よ。

 ワタクシは、少なくともワタクシは……救われてはおりません。


 なぜゆえに天はワタクシという存在を生み出したのでございましょう?


 なにゆえに、王と同じ存在に留めていてくださらなかったのでしょう?


 王城という地獄にて、お客様を導く語り部。

 飄々と王を嘲り、舞いおどける演者。

 全ての呪いを笑い、全ての絶望を楽しむ作り物の道化師!




 ワタクシも、そのままに捨て置けばよろしかったというのに!!




   ◆  ◆  ◆




 何故ワタクシは、この狂った王城で1人、意思という物を持ってしまっているのでございましょう!?


 奇跡?


 怨念?


 遊園地の怪異?


 くだらない!あぁ、あぁ、誠にくだらない!!

 そんな事の為に、世界はワタクシを生み出したのでございましょうか?


 時折迷い込む若葉を恐怖の根幹に陥れるためだけの存在に?

 噂という非現実の模範的解答として?


 『廃れた遊園地の城に生きる、狂った道化師』としての存在定義などと、あぁ、あぁ、美しくない嬉しくないやりたくない!!


 ミラーハウスの中にいるアリスとのお茶会は?

 アクアツアーの中に潜む怪獣との激闘は?

 子供たちと仲良くメリーゴーランドに乗る夢物語は?


 それら全ては許されないのでございましょうか!?


 お客様をおもてなしし、磨き上げた道化の芸を見てもらい、拍手喝采をいただける希望はないのでございましょうか!?



 あぁ、あぁ、王よ、王よ……これが、私に対する呪いなのでございましょうか。



 これが、幾度となく貴方様を笑い、おどけ、貶めた道化師への罰なのでございましょうか。

 で、あるならば……なんという重き罰でございましょう。

 ワタクシという存在が、ワタクシとして存在している限り、ワタクシのしたいこと、その全てが許されぬなどと。


 あぁ、あぁ、外に出たい。

 あぁ、あぁ、遊んでみたい。

 あぁ、あぁ、話してみたい。


 城の中を闊歩するだけの人生。

 ワタクシという存在は、それしか許されない。

 城からは出られず、窓から大声で叫んでも何も響かない。


 あぁ、あぁ、あぁ、あぁ。


 もう、もうようございます。

 消えとうございます。

 死にとうございます。


 寂しゅう、寂しゅうございます…………




   ◆  ◆  ◆




 …………ほ?


 今、今、今なにか、何か聞こえてごまいませんでしたか?

 ほら、ほら、ちょ、ちょっと静かに、静かにお願い申し上げます!


 えぇい、うるさいですね!少しそのギシギシを止めてくださ……失礼、ワタクシの関節でございました。


 …………ほ、ほらぁ、やっぱり!やっぱり!


 声が聞こえてございます!

 子供らの声が!

 探検隊ごっこでございましょうか?

 それとも、肝試しでございましょうか?

 

 いえいえ、どちらでもよろしゅうございます!


 あぁぁ、どうしましょう、如何いたしましょう!

 おもてなしの準備が出来てございません、それどころか、心の準備も!

 まさに急転直下!青天の霹靂!

 ワタクシの待ち望んでいたものが、今こうして来てくれた!


 あぁ、あぁ、驚かせないようにしなければ!

 逃げてしまわれてはお話もできません!

 プレゼントの用意は大丈夫、5年前にできてございます。

 お菓子は……流石に無理でございましたが、そこはそれ、お茶会の雰囲気だけでもご一緒しとうございます!


 あぁ、あぁ、どうしましょう。ちょっと覗いてみましょうか!


 あはぁぁ、なんて可愛らしい少年少女!

 年は十の前半程でしょうか?んふふ、リーダーの男の子も、強がっているようであんなに震えて。あぁ、あぁ、思わず抱きしめてしまいたくなります!


大丈夫、大丈夫、ワタクシは怖くない。ワタクシは怖くない!


 深呼吸、深呼吸にございます……そして、そぉっと、回り込んで退路を塞いでっと。

 少し申し訳ございませんが、致し方なきこと故。皆様には後でお詫びいたしましょう。


 さ、さて……では、では、行きますよ?

 あぁぁ、生まれて初めての会話!あぁ、あぁ、生まれて初めての交流!

 感極まって泣いてしまいそう!怪異でなければ間違いなく泣いてございましたね!



 ワタクシは、あえて少し物音を立てます。

 少年たちがビクッと体を震わせます。

 あぁ、あぁ、刺激したつもりはないのですが、緊張状態ですとこれでも大変な恐怖なのですね。

 ですが、いきなり前に出るわけにも参りませんし、我慢していただきましょう。


 皆様が、私を見据えます。

 その顔は引きつり、今にも叫び出してしまいそう。

 あぁ、あぁ、いけません、いけません!

 なにか、何か言ってごまかさなくては!

 えぇと、えぇと、謳い文句、いい謳い文句を……ワタクシの一番言い慣れたご挨拶を!!




   ◆  ◆  ◆



「あぁ!あぁ!世界とはなんと甘美で享楽的であるか!世界とはなんと絶望に満ち堕落に満ちているのか!」


「今宵お客様をご案内いたしますは、かつて滅んだ小さな小さな国の王城。」


「ワタクシ、その城で皆々様を道楽にて楽しませる道化師をしていた者でございます!」


「あぁ、あぁ、名前など!ほほ、失礼、名前などございません!ピエロとでもお呼びくださいませ!」


「さてさて、この城がいかにして歪んだか、いかにして幸せはその指からこぼれ落ちたか!」


「それを、皆様に知っていただきたく!こうして道案内を名乗り出た次第でございます!」


「ささ、扉を開けてくださいませ。」


「是非に、えぇ是非に!楽しんで頂きたく存じます……!」

 

 

 

 

はい、どうも。

ここまで見てくださった方はありがとうございます。

また、最大限の謝罪を申し上げます。


えぇ、これホラーじゃないですよね!!


寂しがりの道化師お化けの物語になってしまいました。

その……えぇと、書いてる内にですね、なんかこの子が1人でもじもじしだしまして。

寂しい寂しいって言い出したんですよ。

でも、心を鬼にしてこの子に狂ってもらうつもりだったんですがその、無理でした。

我が子可愛さってやつですかねぇ(汗)


なので、最後に友達を準備しておしまいです。


その後この少年たちは、なんとか城の呪縛から道化師を救い出し、襲い来る遊園地の怪異を協力して撃退していく冒険活劇にストーリーが分岐しますw

どうあがいてもホラーにならなそうなので、今回はここで筆を置かせていただきましょう。


ほれ、道化師よ。これで満足かい?

そうか、そりゃよかった。


んじゃ、達者にやんなよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ホラー企画のはずなのに楽しくて笑わせてもらいました。 まさかのそっち視点(笑)
[一言] 主旨からは外れているけれども、こんな優しい終わり方があっても良いと思ってしまうお話でした。 キャラに感情が生まれてしまったのならしょうがないです。 囁かれたら応えたくなりますからね。 …
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