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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪8 呪恨館の宿命
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閂の密室

 意外だと思った。

由佳ちゃんが迷わずに拒否してくるなんて思ってはいなかった。

迷った挙句に断ると思っていたけれど。

だから興味を持った。

どうしてと聞いてみた。

計算ではなく、純粋な興味から。

「思ったんです。事件が起こっても、防ごうとしても。どんな時だってあたしは翔太の役に立ててません」

 そんな事は無いと思うけれど、言いたくは無かった。

貴女はいるだけで充分過ぎる程、翔太君にとっての支えになっているなんて。

敗北宣言だったから。

「けど、楓さんの手伝いをしたって、意味が無いんです」

 ……なるほど?

やろうとしている事は分かった。

私が特化しているものとは別の事をやろうとしていると。

私はあくまでネットワークを使用した情報に特化しているだけ。

言ってしまえば人間関係や事実を調べる事は出来る。

それ以外は、翔太君が調べて欲しいといわれれば調べる事は出来るけれど。

恐らくだけれど、由佳ちゃんはそこをやろうとしている。

「だから嫌です」

 ……それがあれば、翔太君にとっての大きな手助けになる。

そして私が何も言えない唯一の答えでもあった。

私は溜息をつき、煙草に火をつけた。

敢えて聞くわ。

由佳ちゃん。

貴女は何をしたいのかしら?



 十字架に貼り付けにされた和久津さん。

雷によって焼かれた樹さん。

柵に串刺しにされたのは一緒にいなかった生方さんだった。

3人の亡骸に毛布を掛け、合掌し、空き部屋を後にする。

まずは生方さんの部屋に行く事にした。

時間が経って証拠が消える可能性もある。

倉田さんから以前に教えて貰った。

犯罪が起こる可能性は華音ちゃんが知らせてくれる。

部屋の扉を開けようとするが、開かなかった。

閂錠のここも鍵が掛かっていた。

それに何故だろうか。

異常な程に扉が冷たかった。

樹さんの扉がぶち破れなかった事実。

しかしここは3階。

1階の窓周辺には足跡が全く無かった。

霧や雷の事と言い、不可能と感じる部分が多過ぎる。

でも、早くしなければ時間だけが経過して行ってしまう。

俺は僅かにある扉の隙間から細いものを入れられる事に気付く。

……考えられるものが限られたが、キッチンにアイスピックがあって良かった(食堂にいた全員にお前が犯人かと言われたが、事情を細かく説明して何とか納得して貰った)。

アイスピックを扉の隙間に入れ、閂ごと上に持ち上げると、アイスピックは曲がってしまったけど何とか鍵だけは開けられた。

扉を開け、中を確認する。

中は窓が開けられているせいだったのだろうか。

暖房が効いているにも拘らずかなり寒かった。

そして中には誰もいなかった。

生方さんが飛び降りた時に犯人がまだ部屋の中にいた可能性は考えられなかった。

空き部屋全てを調べた訳ではなかったし、館の周辺に誰かが潜んでいた可能性だってある。

けど、それなら普通に殺害してしまえば良い。

だから、事件が起こり、樹さんと生方さんが殺された、飛び降りた時に一緒にいたあの中に犯人がいる。

わざわざ呪いに見立ててまで殺害した。

しかし、部屋に特に変わった様子は無かった。

綺麗に整理されたベッド。

鞄から取り出されたであろう荷物。

至って普通の部屋。

両小指を絡め、手を口元に当てる。

睡眠薬が盛られていた昨夜の食事。

その後3人が恐らく殺害、或いは拉致された。

そして俺と華音ちゃんの食事に薬が盛られていた事実。

そして座る順番はバラバラだった事実を考慮すると。

ほぼ確実に犯人以外全員が睡眠薬を飲んでしまった事になる。

そう判断したから華音ちゃんを食堂に残せた。

だとすると。

明らかに不自然なのは綺麗な状態のベッド。

生方さんはこの部屋のどこにいたのか。

分からないけど、最終的に窓から飛び降りた。

一体どうやって。

普通に考えれば閂を開けて出れば良い筈なのに。

この部屋で起こっていた事を思い出す。

確か霧が掛かっていた筈。

引き起こした方法は分からないけど、視界が遮られたからと言って、窓から飛び降りる繋がりが無い。

一体どうやったのかが分からないのであれば、取っ掛かりを何でも良いから見つけ出す。

しかし、疑問が残るのは扉の異常な冷たさ。

だとすると、何かここに残っているのでは無いか。

扉の真上。

床。

隈なく探して見つけた。

部屋の隅に僅かに残っている霜。

ただ窓が開けられた真冬の部屋だけでは残らない証拠。

これを窓から飛び降りる状況に、どうやって犯人が繋げたか。

まだ問題はある。

雷が落ちた部屋の密室。

足跡をつけずにどうやって十字架の磔死体をあの場所に出現させた方法。

そして殺害された3人と犯人に、どのような繋がりがあるのか。

全てを繋げるには情報が少な過ぎる。

そしてリミットは1日。

明日には少なくとも、楓の車がここへ来る。

そして確認しに来た橋は、こちら側から見事に落とされていた。

やはり、まだ何かをするつもりでいるのは間違いなかった。

細かい所を調べなければならない。

歩いていてハッとした。

床のカーペットに黒い足跡がついていた。



 あたしは優子さんみたいに武道に精通してる訳でも無いし、楓さんみたいに人脈とかネットワーク情報に強い訳でもない。

でも、これだけは言える。

役に立ちたい。

だからあたしなりに考えた。

役に立つ為に何をすれば一番良いのか。

翔太は情報を組み合わせる能力と発想力。

皆が持ってる知識が0な代わりに、皆が欲しいと思ってるモノを持ってる捻くれ者。

なら、知識の部分で。

あたしにも出来る事を。

次の事件に向けてなんて凄く不謹慎だけど、それでも翔太の役に立ちたいと願う!

まだ犯罪を防ぐには足りない事が多過ぎる。

あたしも、翔太だってそんな事、分かってる。

その為に、あたしがただのお荷物になってちゃダメだから。

人は変わるかもしれないし、変わらないかも知れない中で。

何もしないで変わらないのは、誰もが嫌だと思ってるって信じたいから。

それをあたしは望んだから。

「……無意識なのね。きっと」

 へ?

楓さんは笑った。

でも嫌味でも何でもなく。

困っているように見えたのは何でだろう。

「何でもないわ」

 そう言うと楓さんは、あたしのお尻を思い切り引っ叩いた。

「なら、私の事は私でやるわ」

 楓さんの事は好きになれないけど、あたしは何故か笑顔だった。

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