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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪7 蛍火館の性悪
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黒の殺人予告

こんばんは。

少し時間が経ってしまいましたが、怪7アップさせて頂きます。

今回から、1行ずつの改行をさせて頂こうと思います。

今後しばらくはこれで行こうと思いますので、ご了承下さい。


それでは、長くなるのもあれなので、本編をどうぞ。

 この世に裁かれるべき悪は、幾つあるのだろうか。

恐らくはそこまで多くは無いのだろう。

世界に規模を拡大するならば、数え切れないのかもしれない。

……しかし、特にあの東洋の島国は、何れ腐敗するのかもしれない。

今はまだ表面化されてはいない。

だが、弁解の余地の無い憎しみが種を蒔かれれば、それが連鎖を生むというものだ。


 それを全て、消す。


 スマホが着信を告げる。

ここにも呪われた被害者が1人。

声の主は、まだ迷っているのだろう。

健気に性善説を信じて止まないと言うわけか。

だが、周りの人間は、悉く悪だったのだ。

だから落ち着かせるように、告げる。


 そう。あなたになら、出来る。


 常夏の南島は、人で溢れかえっていた。

鼻をつく日焼け止めの匂いは、向こうには無い文化。

ふと、ビーチボールが足元に転がって来た。

日本人だろうか、申し訳無さそうに駆け寄って来る。

そんな彼女に、ボールを投げ返してやる。

お礼を言い走り去る彼女に手を振った。

電話は既に切れていた。

覚悟を決めたのかどうかは分からない。


 さあ、頑張りたまえ。


 こちらも、準備をさせて頂くとしよう。

眩く光る、太陽のような。



 痛ってー!

男子バレー部の強烈なジャンプサーブを顔面でブロックし、俺はのた打ち回った。

くそー体育で出しゃばらなくても部活で出しゃばれってんだ全く。

やべー鼻血出てる。

「あのバカ」



 鈍臭さに溜息をつきながらも、隣のコートでスパイクを決めると、周りの女子生徒から賞賛の声が挙がる。

そんな中あたし、鮎川由佳は溜息をついていた。

 このどんくさくてやる気が欠片もない、私の幼馴染がいくつもの事件を解決してるなんて、普通は思わない。



 一生懸命に掃除をする振りをし、由佳の様子を伺う。

学校が終わると同時にゲーセンに逃げ込み、学生の一時の楽しみを堪能していたらあろう事かアイアンクローのまま学校まで連れ戻された。

そして現在夕暮れの教室でこの有様。


もう良いだろ? 晩飯の材料買いに行かないと姉ちゃんが。


「へー? ゲーセン行ってた奴が、材料を買いに行く? へー?」

駄目だ掃除は逃げられない!

「まあ、もう充分綺麗になったから、帰ろっか」

 助かった。掃除のやり残しを見つけられなくて。

正直、教壇の下とかどうでも良い所はやってない。

「お二人とも、まだいらしたんですね」

 苦笑いしながらやって来た華音ちゃんに、俺達はどちらからとも無くそっぽを向き合った。



 私は、つい最近この高校へ転校した。

前の学校で、奇妙な噂を聞いたから。

兄さんが殺人者と言う、奇妙な噂を。

どう言う事だろうか。

以前、久遠正義と言う指名手配犯に出会った。

容姿と声は、私でさえ兄さんと思った。

けれど、その人ではない、噂。

私は兄さんが死んだ事しか聞かされていない。

だけど、どうして死んだのか。

噂は本当なのか。

翔太さんと由佳さんなら、何か知っていると言う思いだけで、無理を言って転校させて貰った。

勿論、その事はお2人には言っていない。

兄の通っている学校に通ってみたかったと言って誤魔化してしまった。

私は、入院している間の事を知らない。

だけど、翔太さんは何度も兄のお墓参りに来て下さっている。

正面から話してはくれないと思う。

「麻雀ファイ○倶楽部」

「ああ!?」

 お2人は、控えめに言って長年付き合ってきたカップルのように見える。

由佳さんが翔太さんに(プロレスの技だろうか?)技をかけているけれど、他の異性にはやらない。

素で接する事が出来るのは、心を許しきっている証拠だと思う。

 転校先で、分かった事があった。

ここでも、やっぱり噂があるらしい。

兄さんが殺人者だと言う、許せない噂。

翔太さんから聞けないなら、由佳さんからは聞けないだろうか。

 ……直ぐに無理だと悟る。

多分だけど、由佳さんは翔太さんが本当に辛くなるような事をするような人には見えないから。

……転校して来て早速無理かもとネガティブになる。

けれど、メールや電話で聞き出せるとは思えなかったから。

「あいがー。吉野翔太って人探しでんだげんども」

 突然の大声に驚き振り向くと、帽子を深く被った配達員の人が立っていた。



 どこの方言か分からないが、男は手に持ったダンボールの箱を俺に渡してきた。

「こでおどどげものさぁ」

 誰が?

と言うより……。

男は爽快なスキップで俺達から離れて行く。

「スキップしてるし……」

「ゆ、愉快な方ですね……」

 知らない人が呼びかけた名前が、たまたま探していた俺だった?

有り得ない。



 さあ。吉野、翔太。

せいぜい、頑張ると良い。



 渡された箱は、大きさに対する重量はそこまででもなかった。

捨てずに家まで持って来たのは、渡すような人物に心当たりがあったから。

「開けるの? 翔太」

 由佳の言葉に頷き、華音ちゃんが箱をただ見ていた。

ガムテープを剥がし、ゆっくりと蓋を開けると、気味の悪い。

その一言しか出て来なかった。

大量の蛍の死骸。

「何ですかこれ……」

 ダンボールに隙間無く敷き詰められた死骸の中に、黒いものが一部だけ見えた。

由佳は……こう言うの、ダメだよなぁと思っていると、華音ちゃんがその黒い物体をゆっくりと引き上げる。

普段の丁寧な仕草。

大和撫子かと思いきや、大胆な事を平然とやって見せるのは、どこか秀介に似ていると思った。

「黒い、ノートですか?」

 由佳はハッとした。気付いたのだろう。

予想した通りだった。

あの配達員は、奴が手配したか。

或いは奴本人だったのかは分からない。

「ノートに心当たりがあるのですね」

 華音ちゃんは俺達を見ていた。



 お2人は神妙に顔を見合わせていた。

表情、状況から考える。

私に言って良いのかどうかを決めかねている?

それとあの配達員の人……。

思い当たる方が1人だけ思い浮かんだ。

久遠正義。

……どうして兄さんに似ているのかと考えてしまうのは、信じたくないから。

似ている事実も。

噂も。

私は聞いた。

「そう。そいつ」

 翔太さんは私からノートを取り上げ、ページを捲った。


 蛍火館の殺人事件を、果たして君は防げるかな?

吉野翔太。


 状況と表情、文章。

さっき黒いノートを見てハッとした由佳さん。

初めて見たのではない反応。

翔太さんは殺人事件を解決したのかな?

漠然と何の根拠もない事が頭に浮かんだ。

事件に関わっただけで、思い当たる節のあるものを送る人はあまりいないと思うから。

「どうするの?」

「勿論行くさ」

 私も連れて行って下さい。

「え?」

「ダメ。危険だ」

 翔太さん達だって危険ですし、今の話から、優子さんには何も言わずに行こうとしているのは汲み取れた。

「ね、姉ちゃんは関係無い! 兎に角ダメ!」

 もう一押しだけど、諦めた振りをしておく。

いざとなったら、こっそりついて行けば良いと思うから。

翔太さんは安心した表情をしていた。

そう言う単純な所は、とても危ないものだけど。

「ダメ。あたしがついて行くから、華音ちゃんは来ちゃ」

 分かりましたと言いながら、気付かれずに行くまでの計画を考える。

「こいつは俺が捕まえるって決めたから」

 でも、疑問が残る。

警察に任せない理由でもあるのだろうか。

私達は、年も環境も違うけど、ただの高校生である事に変わりは無いのに。

「ただの高校生なら、死ぬかもしれない人間を放置しちゃいけないよな」

 ……。

何か理由があるのかもしれないと、今は納得しておく事にする。

同時に、ついて行く事で兄さんに関する噂の事も、何か分かるのかもしれない。

「ただいまー。あー疲れたー」

 優子さんが帰って来た。

お2人は大慌てで証拠隠滅に勤めた。



 久遠正義。

生まれて直ぐに家庭の事情で里親に引き取られた。

家庭での関係は良好。

中学から高校、全ての学問において優秀な成績を収め、アメリカの幾つもの大学への留学を勧められる。

そのまま高校3年からの2年間をアメリカで過ごし、僅か2年で修士課程後期のみならず、様々な分野での学問で優秀な成績を収め、1年前に妻、詩鶴と結婚……。

調べて分かるのはここまで。

欠点など見当たらない、見事なまでの学問の専門家。

それもただの専門家ではない、超がつくほどのエリート。

溜息をつく。

奴に何があった?

あのような事を犯す必要が無い位に、順風満帆だと言うのに。

「拓也さん、どうかしたんですか?」

 ハッとし、私を正面から見ていたのは朋歌さん。

お見合いをきっかけにお付き合いをさせて頂いている女性だ。

いかんいかん。

仕事の合間とは言え、女性と会っている最中に他の考え事など、言語道断と戒める。

何でも無いですと笑ったが、朋歌さんは苦笑いを浮かべていた。

「考え事をしている男性を見るのは、それはそれで楽しいものですよ」

 惜しげも無い恥ずかしい台詞に、舞い上がりそうになるのを堪える。

朋歌さんは、アロマセラピストとしての仕事をしている。

お互い働き盛りで忙しいが、だからこそたまに会える時間をお互いに大切にしている。

今はその関係が、とても心地良い。

だが、そうしていては取り返しのつかない事になってしまうかもしれない漠然とした焦燥感があった。

個人としての幸せか。

万人の平和か。

我ながら大袈裟だと思う。

「さ、そろそろ行きましょう?」

 あまり話せなかった事に申し訳無さを感じ、私は次の埋め合わせをどうしようかを考えながら、久遠の過去を再度洗い直す方法を考えた。



 駅を降りてから、バスに乗り換え、最後は歩いて辿り着くような場所に、予告状の館はあるらしい。

電車を降りた時に、さも当然のように隣にいた華音ちゃん。

当然下りの電車に押し込んだ(不満そうな表情をしていたけど、そんなのは関係無い)。

翔太はただ黙って外を見ていた。

楓さんにもノートが来ていると思ったけど、忙しいからとパスされた。

正直に言うと、ちょっとだけついて来て欲しかったと思った。

久遠正義。

パターナリズム犯罪者。

指名手配犯。

そんな異常者に招待されて、正直怖かったから。



 PC画面をジッと見ていた。

崖の城での事件以降、動きが僅かながらに活発になっているようだった。

一応、武器の密輸に関わる人間を見つけ、拘束に動いたけれど、相手は直ぐに海外を拠点とするようになった。

それだけではない。

動きも封じられていると言っても良い状況。

デスクのノートに視線を移す。


 桜庭楓 忠告をしておく。

吉野翔太君が何らかの依頼をして来た場合、断る事をお勧めしよう。

彼は必要不可欠なピース。

殺しはしない。

……が、君が来ると言うのならその限りではないだろう。


 今度は私、と言う訳ね。

けれど、警察に動かれたくない理由は分かる。

私が出向くと、今回はマイナスに動いてしまうと言う事かしら?

翔太君から聞いた蛍火館。

確か、館華家の別荘として、東北山中に建てられたと聞いている。

財閥であるなら、彼等を知らない者はいないだろう。

けれど、詳しい事は知られてはいない。

噂では、家族間の関係に問題を抱えている事は聞くけれど……。

でも、それが一体なんだと言うのか。

翔太君達と連絡が取れるよう祈る他無かった。

そして、膨大なネットワークを利用し、静かに、そして少しずつ動きを加速させている犯罪を、探り続けよう。

目まぐるしく動く中、全く吸う事も忘れていたタバコに火をつけた。



 時刻は既に夕方になっていた。

俺と由佳は、只管に歩いて目的地を目指していた。

そろそろ着いてもおかしくないのだが、こう言った辺境の地までは地図自体が正確になっていないのかもしれなかった。

このままのペースであれば、きっと野宿も視野に入れなければならないかもしれない。


「あんたと野宿なんて絶対お断りよ」


 とでも言いたそうな由佳の視線に溜息をつきつつ、少しずつ大きくなって来る物音。

この音は……車?

振り返り、遠くに見える黒い車に反射的に両手を振った。

ここまでの道は1本道。

間違い無く館に向かおうとしている住人。

……であって欲しい。

 車はリムジン……では流石になかったが、それにしても高級そうな車だった。

サイドウィンドウが開き、1人の女性が顔を出した。

「この先に何かご用でしょうか?」

 俺達よりも一回り位年上だろうか。

この先にある館に向かう旨を告げると、女性は首を傾げた。

「……どなたかのご招待でしょうか?」

 招待?

どう言う事だろうか?

招待されないと来れないような場所にあるはあるが……。

尚も訝しげな表情で俺達を見ている女性に何と言おうかと思っていると、車の後部座席から声が聞こえた。

「良いではありませんか。雅お姉様」

 雅と呼ばれた女性が振り向くと、後部座席からこちらを見ている……向いている女性がいた。

向いていると表現したのは、目を閉じていたから。

肌と同じ白服の女性は、ただ笑顔でこちらを向いていた。

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