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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪4 夢幻城の泡沫
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永久を願う

 また、雷が鳴った。

「それは僕が、この部屋を密室にした可能性があるって証拠だよね」

 美園さんは、まだ容疑を否定していた。

翔太はそれを、真っ直ぐに受け止めているように見えた。

「ちゃんとした物的証拠って奴を見せて貰わないと、納得できないよ?」

 そうだ。

翔太の推理は、ただ奥川の部屋を密室にしたと言う証拠だけ。

徒に翔太が思い付きを言う訳は無い。

それに理屈も通っている。

だけど、事実と人を繋ぐのが証拠。

それが何一つ無かった。

「吉野君が物凄い高校生だって言うのは良く分かったよ。だけどね。この世はそれだけじゃダメなんだ」

「遺書」

 美園さんの表情が、あからさまに崩れた。

「琴塚次狼さんの自殺によって、今回の事件が計画された。それだけだと、殺人計画を立てる理由にはならないけど、そこにあったアイテムによって、ある事故の本当の真実を知ったから」

 翔太は美園さんを真っ直ぐに見た。

「何が言いたいんだ!」

 美園さんは声を荒げた。

「琴塚次狼さんが残した遺書、美園さんの部屋にあると思ってる」

「本当なの?」



 殺害方法が複雑化すると言う事は、抱えている憎しみもそれだけ深い。

つまらない理由で、手の込んだ殺人を犯す人間はいない。

だから、きっかけとなったものは絶対にあると思った。

事件の発端は、次狼さんの遺書。

だとすると、恐らく渡瀬さんの死の真相について細かく記されていた。

そう考えないと、今回の事件が起こった理由を説明出来なかった。

誰が好き好んで誰も見た事無いような事件を企てる?

そんな事、まず起こり得ないんだ。

だからこそ、絶対的な理由を、俺は殺害方法に見た。

転落死。

渡瀬さんに他ならなかった。

これは。

渡瀬さんに向けた最大のショー。

美園さんは顔を上げ、大雨の降っている窓の外を見た。

雷が強く、鳴った気がした。

まだ、言う事は?

「調べさせてもらっても良いか? 君の部屋を」

 倉田さんは、美園さんの返事を待った。

美園さんは背を向けたままだった。

倉田さんは待つのも程々に、戻って来た刑事に捜索を頼んだ。


「待って下さい!」



 流石だったわ。

翔太君。

何度昇天したか、途中から分からなくなった。

「手紙は見せられない」

「……犯行を認めるのか?」

 雷が鳴った。

美園さんは、ただ天井を見上げた。

大きく息を吸い、吐く時間が長く感じたのは、私自身がきっと、美園さんの言葉を待ちきれないでいるから。

「……参ったな。降参だ」

 琴塚次狼さんが残した遺書を捨てなかったのは、美園さん自身の懺悔でもあるから?

麻紀奈さん(話をしてから、下の名前で呼んでいる)は、言えたら良かったのにと言っていた。

それはつまり、言えない事情があったからだと気付いてしまった。

あの時に。

そう考えれば、美園さんが。

渡瀬さんの事故の真相を知ってどんな気持ちになったのか。

翔太君から犯人こそ聞かされはしなかったけれど、分かってしまったから。

「美來に手向ける最高のショーが、まさかこんな短時間で台無しになるなんて」

 美園さんは、笑顔で翔太君を見た。

犯行を否定する笑顔ではなく、憎しみが出るのを抑える笑顔。

一瞬の表情を私は見逃さなかった。

翔太君に向けられたものではなく、きっと、殺した4人に向けられたもの。

「そう。俺が4人を殺した」



「でも、どうして!」

 麻紀奈さんの問いに、美園さんは震えていた。

「……知ってるだろ? 俺と美來が婚約してたのを」

 麻紀奈さんは声を震わせ、返事をした。

あたしも言えたら良かったのに……。

麻紀奈さんの言葉を、あたしは思い出した。

胸が締め付けられそうだった。

「美來が事故死したのを聞いて、俺は我を失いそうになった」

 多分、美園さんだって気付いている。

だけど、美園さんの心は、もうここには無かった。

「でも美來の死は、そんな次元の話じゃなかったんだよ!」

 雷の音を掻き消す憎しみが、声となって芯を揺らした。



「あたし達、鏡のようだって思わない?」

 そうかな……。

美來から結婚しようと言われ、指輪を用意したがプライドを喪失した夜、美來はそんな事を唐突に言った。

彼女はいつだって唐突だった。

潔いと思ったし、だからこそ惹かれたのかも知れなかった。

「イニシャルだってほら?」

 美來は紙にmwと書き、鏡に映した。

美園渉。

ああ確かに。

言われて初めて納得する。

そしていつの間にか、話に惹きこまれて行くのだ。

いつも。

「でもそれが、美園美來か、渡瀬渉になっちゃうのは、何か残念だね」

 残念ではないと思うが……。

ほら。

美來と渉で良いじゃん。

「美來を渉……か。良いねそれ!」

 美來をじゃ無くて……。

強引に巻き込んで行く、強烈な魅力。

美來を中心に、夢幻城だって纏まっていると思った。

「じゃあ、嫌?」

 それでいてこうして甘えるのが絶妙だった。

嫌な訳が無かった。

未来にキスで応えた。

そんな幸せは、泡沫に消えた。

事故ならと割り切れるものなら、とうにそうした。

だけど、美來がそんな俺を見てどう思うかが、生きる糧となった。

しかし2ヶ月前に、真実を知った。

泡沫は、憎悪となって全てが崩れた。



 雷は、いつまで轟くのか。

握り拳を握った美園渉は、静かに怒りを纏っていた。

「美來は俺の名前で呼び出された。世良の奴が唆して、美來に過酷な労働を一人でやらせていた」

「そんな!」

「そんな事一言も……」

「俺にさえも一言も愚痴を零さずにね。 ……美來の事だ。彼女にとっては何て事は無いレベルの仕事だったんだろう」

 渡瀬美來は、それだけ圧倒的なものを持っていたんだと直ぐに分かった。

「だがそれが奴らを更に煽る結果となったわけだ」

 振り返った美園渉の表情は、絶望に満ちていた。

この世界の全てが憎い。

それ程の事が起こった。

吉野君が犯罪を防ぎたいと思う理由が、少しだけ分かる気がした。

「その先、聞きたい?」



 是非、と私はすかさず答えた。

犯罪は、何故起きるのか。

殺人は、何故起こってしまうのか。

これだけの殺人計画を、何故立てるまでに至るのか。

その全てを。

私は殺人をしたいとは思わない。

けれど、誰だってそうだと思っている。

だからこそ、殺人を止める為には、犯罪者の心理を理解しなければならない。

だから翔太君が欲しいのだ。

「桜庭さん、君を司会に選んで良かった」

 光栄だった。

美園さんの事情は、私の都合で何としても聞きたい。

翔太君達にも聞かせてあげて欲しい。

これから、絶対必要になるから。

「でも、これ以上は言いたくない」

「あたしも、聞かせて下さい」

 意外だった。

麻紀奈さんなら聞きたいと言うと思ったけれど、由佳ちゃんがそれを、どうして聞きたいのか。

私にとってはありがたい申し出だったけれど。

何かあったのかしら?

「美園さん。あたしも聞かせて欲しいです」

 麻紀奈さんは泣いていた。

彼女もまた、美園さんと同じく、いつからか心の時が止まってしまっていた。

でも、時間の中でしか人は、生きる事が出来ないから。

本当は一定の時を規準に留まっていたい。

それは記憶と言う機能があるから。

だけどただ前に、進まざるを得ないから。

そんなジレンマ。

「俺も、聞かせてくれねえか」

「二度とそんな事を起こさせない為にも、頼む」



 楓は愉悦しながらも、理性的に動いていたのかもしれない。

過去には戻れない。

だから、前に進まざるを得ないから。

だから美園さん。

俺も聞かせて欲しい。

美園さんは天井を見ているのは、涙が出ないようにしているからだろうか。

「結果的に美來はプールに突き落とされて殺された。 ……吉野君。1つだけ、推理とは違う事実があるんだ」

 1つだけ?

……まさか。

殺人事件は、転落死と。

首吊り?

……そうか。

転落死が世良さん。

そして首吊り死体は3人……。

「次狼さんは殺されたんだよ!」

「何だと!」

「どうしてそれを言わなかった! 証拠さえあれば!」

 倉田さんに向かって、美園さんは大声で笑った。

「言った所で何も変わらないなと美來の時に嫌と言うほど学んだからだよ!」

 肩で息をしている美園さんを、倉田さんは体を震わせ、無言。

「正確には次狼さんの部屋からノートを偶然見つけたそれに全て書いてあった! 勿論美來がこんな事を望んでいない事も知ってる!」

 雷雨はまだ止まなかった。

分かっていても殺人が勝ってしまう何かがある。

分かる。

殺意自体を否定する事は、誰にも出来ない。

「復讐に意味が無くとも愛する女を穢された気持ちは殺してしか晴らせないんだよ!」

 でも、でもさ、美園さん……。

「お前達警察が事故死と判断しなければこんな事する必要無かった!」

 ただの八つ当たりと、責めても美園さんの心には何も響かない。

だけど、1つだけ美園さんの言葉には嘘があった。

「どうして気付いてやれなかった! あの時詳しく調べてればこんな事にはならなかったんじゃないのか!」

 頼む美園さん。


 それ以上自分を責めないでくれ!



 大切な人を殺された。

そしてその事実を知った人さえも殺した。

……大切な人を殺された有村君。

翔太は、犯行動機に有村君を……。

「誰にも気付かれないようにされた! あんただって分かってんだろ!」

「ガキに何が分かる!」

「分かる!」

 有村君だけじゃない。

大切な人を守る時、人が強くなるのだとしたら。

殺されてしまったら?

有村君だけじゃなかった。

……翔太が関わって来た人が、悉く共通の動機を秘めているのは、果たして気のせいなのか。

無意識に楓さんを見た。

花園塔。

夢幻城。

……前回も今回も。

じゃあ、トランプ館にいた理由は?

……本当に偶然?

その愉悦に、何を隠しているの?

楓さん貴女は!

「……分かるさ。大切な人を殺し、事実を知っていた人物さえ口封じに殺した。 ……俺の大切な人だって。だからもう繰り返したくない俺はそう思った! あんたに罪を犯して欲しくないのは美來さんだけじゃないんだ!」

 翔太の言葉を、本当に伝えたかった人は、もういなかった。

「吉野君」

 美園さんは、掴みかかった翔太を抑えた倉田さんに、両手を差し出した。

どうして素直に捕まるのに、あれだけの計画を練り上げたのかを考えた。

殺人を、最後まで実行するため?

……その後は捕まって、どうするの?

あれだけ激しかった雷雨が、いつの間にか嘘のように晴れ上がっていた。

麻紀奈さんは顔を覆っていた。

琴塚さんはやりきれないような表情をしていた。

細貝さんは、ただ目を閉じていた。


 最愛の人に捧げた泡沫の劇。

あたしも。

そしてきっと翔太も。

その心に永遠に刻まれる。

有村秀介君を思い出した。



 ぞろぞろとお客が豪華客船に乗り込んでいく中、美園さんと倉田さんは、私達に見送られ、歩いて行った。

そんな中、美園さんは振り返らずに立ち止まった。

「吉野君、桜庭さん、鮎川さん」

 私達は返事をした。

「……君達が後1年早く来てれば、ここはリーダーが必要無い、理想の場所になってたかもね」


 単位変換が完了した、1つの組織に、ですか?


 私はそう聞き返した。

どんな組織でも、基本原理は単純だった。

X人を1つに。

それはここでは無かったが、渡瀬さんと美園さんがいたから必要無かった……って所かしら。

「ありがとう」

 私もありがとうございます。

本当に見たい組織は、時間はかかるだろうけれど、またここに成すから。



 客船に乗り込み、最後の孤島を、美園さんは船から見ていた。

どうか美園さん。

その景色は忘れないで下さい。

心から祈った。

「……由佳ちゃんは」

 麻紀奈さんがあたしの元にやって来た。

「言わない事で後悔しちゃダメよ」

 ……麻紀奈さん。

やっぱりあたしと良く似てる。

麻紀奈さんに会えて良かったと心から思う。

『え?』と麻紀奈さんは聞き返した。


 ……言わなくちゃ気付かない思いはあると思います。


 絶対に気付かせたいプライドがあっても良いと思います。


「そうかも」

 泣かないで欲しかった。

言ってるこっちはかなり恥ずかしかったから。

「ありがと!」

 あたし達は元気に握手した。

船着場から島に上がる階段へ、涙を拭いた麻紀奈さんは元気良く走って行った。



 出港した船を、ぼんやりと見ていたら、力強く肩を叩かれた。

「兄ちゃんただもんじゃねえな!」

「吉野君、本当にありがとう!」

 美園さんは、俺が事件を解決して、本当に救われたのだろうか?

船の方から、こっちを見る人の姿が何人も見えた。


 拍手?


 見ると、細貝さんも俺に向かって拍手をしていた。

……。

「兄ちゃんみたいな人間に、何かせずにいられねえんだと思うぜ」

 ……。

このゲーセンだけは、泡沫にならなければ良い。

そんな願いを漠然と思った。

「さ、後2日! しっかり働いて!」

 あ……やっぱり?

「あ、明日から……ですよね?」

「まさか! 開店準備を全員でやるぞ。今からやれば間に合う!」

 琴塚さんは何故か張り切った様子で歩いて行った。

……マジかよ。

「んじゃあ、俺は明日を楽しみに、たっぷり寝るかな!」

 細貝さんは、俺の肩を思い切り叩き、その場を後にした。

期待されるのは嬉しいけど、痛い。

夢幻城のスタッフ、お客のパワーを呆然と見ていた。

「救えたじゃん」

 え?

振り返った。

由佳だった。

「少しずつ、やってこ?」

 ……。

未来に向かって、歩いて行かざるを得ないから。


 めんどくさいけど、行くか。


 由佳に腹パンをプレゼントされた。

「おーい! いちゃついてないで早く行くぞ!」


 いちゃついてません!


 由佳と声が被った。



「何とも思ってないんじゃなかったのかしら?」

ただのおせっかい。

です。

首を傾げた翔太に、アイアンクローをかましてやった。

……でも、楓さんの口から、そろそろ聞かせて欲しい。

翔太に。

何をさせようとしているのか。



 吉野、翔太。

トランプ館、花園塔、そして夢幻城。

高校生……か。

特異な能力と言うのは、どれだけ隠した所で公になる、と言うもの。

……彼なら、適役、かもしれない。

未来に犯罪が、起こらない世界。

 最後までお付き合い頂き、ありがとうございます。

いかがだったでしょうか。

夢幻城の泡沫。

殺人トリック、ばれないように。

しかしヒントを最初からどばっと出せるように。

少し説明が多くなってしまったかなー。

無駄が多いかなーと、思った部分がありますが、

読み難かったでしょうか(汗


 殺人トリックは、私の場合はですが殺人を最後まで遂行するためのものとして考えています。

それでも防ぎたいと考える主人公の対立関係として犯人像を設定する上で、

最後まで殺人を遂行可能な状況を保ち続ける。

捕まらないようにと言う理屈で犯人側は考えていません。


過去に、犯人が最後に建物を爆破させるような事をしましたが、あれは辛い思い出を全て消し去る、

犯人の気持ちの消去を意図しました。

どうしてこんな奴らを殺して捕まらなければならないんだと思う犯人もいるとは思いますが、

私は捕まりたくないって言う理由でアリバイトリックなんか仕掛けるな!

不可能犯罪なんかやるな! と思っています。


それでは、予定より早くアップさせる事が出来て良かったです。

次回作は『風舟村の再会』です。

お楽しみ下さい。


アップは近日中を予定しております。

それではもう1度、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

この辺りでノシ


2017/08/08 追記

『カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~』に纏めさせて頂きました。

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