構築完了
鍵は引き出しに入っていたらしい。
更には1階はあたし達がずっと4人でいた。
ニ尾部さんの部屋に保管されていた合鍵は使えない。
間違い無く引き出しの鍵を使って部屋の扉は閉められた。
翔太はもう方法に気付いているようだった。
手際良く引き出し、机天板のすぐ下に取り付けられている引き出しを外し、奥を見ている。
覗き見ると、L字の釘が打ち付けられていた。
更に引き出しの中には分厚い本とホチキスの針。
「やっぱり……」
「もう分かったのかしら」
楓さんの言葉を、実験すると翔太は返した。
タッカーは無かったが、タコ糸だけでも十分に可能な方法だったため、準備を進めていく。
まずはタコ糸を長めに取り、輪っかにして開けた引き出し、分厚い本に潜らせたタコ糸を、鍵のリングに通す。
輪っかにしたのは最後に引き出しを引っ張るために必要。
後は鍵を部屋の外に出して、引き出しの隙間から通したタコ糸を釘に引っ掛け、もう一端を部屋の外に出すだけの単純な方法。
「本当に、出来るの?」
良く見て。
翔太が引っ張っている紐が引っ張られ、タコ糸に通された鍵が部屋に入ってくる。
こんな方法、どうして思いつくのかは分からなかったが、見ている光景は現実だった。
引き出しに入った後、恐らく分厚い本がストッパー代わりとなり、引き出しを閉めるだけの力になる。
本当に引き出しが閉まった。
「ここでタコ糸の輪を切れば」
引き出しの下からタコ糸の端が出て来て、扉下から出て行ってしまった。
こんな簡単に……。
「同じ状態ね」
楓さんは……もう天国に召されるんじゃないだろうか。
入って来た翔太に自分からお姫様抱っこされに行った。
楓さん翔太が困ってるから止めなさい!
「基本はN。後は色々な組み合わせ。多分、ホチキスの針は万が一のため。引き出しが閉まった時にホチキスが抜けた」
しかし、翔太は釈然としない様子だった。
証拠が多過ぎると。
まるで解かれても良いかのような。
それもその筈。
そもそも犯人がどうやってここまで来たのかが分からないのだから。
繋がったインターネットで警察の応援要請を済ませ、花園塔の過去の事件をひたすら調べていた。
殆どが幽霊騒動関連の話で、2チャンネルが検索結果の大半を占めていた。
リアルな心霊スポットと言う事で、かなり有名になっていた。
そんな事、今はどうでもいい。
思えば気になる事があり過ぎる建物だった。
建物の構造もそうだが、こんな山奥に、たった6部屋の宿泊施設。
更に回りに観光スポットも無い。
幽霊が出る、周りの景色が絶景なのを、今だからこそそこそこお客も来ているが、だからと言ってこんな所に建物を、利益も考えずに建てるものだろうか。
私が気になったのはそこだった。
何と言うか……。
建物の目的が見えなかった。
そんな中、手紙と同じ12年前の記事らしきものをようやく発見した。
エレベーターは7階で止まっていた。
廊下につけられた2階のプレートをジッと見た。
花蓮さん殺害の方法は分かった。
エレベーター内に入り、1のパネルを押す。
信じられない事に、何度目か分からない、呻き声が聞こえて来た。
自分の体を抱く由佳を庇う。
1階のフロアに来ても、その呻き声は大きくなるばかりだった。
ここでも聞こえるのかと思った……ん? 呻き声……じゃない?
「誰かの声? かしら?」
翔太君が唖然としていた。
由佳ちゃんも呆然としていた。
私は苦笑いをした。
声の主は、最上さんだった。
イヤホンをして、タイ○ニックかしら?
を歌っていた。
お世辞にも、下手だった。
私達に気付いた最上さんは鬼の奇声をあげ、イスから派手に転んだ。
「どどどどどどどどどどうしたたたたたたたたのみみみみみんな!」
敢えて何も聞かない方が良いのかしら。
「いやぁ……落ち着かなくて、ちょっと気を紛らわせようと……」
物凄くプレッシャーを感じていた……と解釈したら良いのかしら?
とりあえず、今のは幽霊の仕業ではなかったと言う事。
「最上さん。もしかして、ここに来てからも何回か歌ってましたか?」
歌っていたと言う所に、翔太君のさり気無い気遣いが感じられて好感が持てた。
「……うん。テンション上がったりするとつい……ね」
最上さんに見られた由佳ちゃんは、気まずそうにそっぽを向いた。
……満更でもないって所がまだ可愛らしい。
「そっか……」
ああ。
ついに来てくれたのかしら?
一連の2重不可能犯罪。
幽霊騒動。
そしてエレベーター。
そして、被害者に手紙をわざわざ送り、死体に手紙を添えた理由。
全く。悪魔じみた方法を考え付くもんだ。
「吉野君。とんでもない事が分かったぞ」
走って来る倉田さんから聞いた情報。
……なるほど。
これが動機。
そして考えた仮設を裏付ける、十分な根拠。
……何故だろう。
あの時の気持ちを思い出すのは。
答えは分かりきっていた。
推理して得た結論に。
意味を。
価値を。
まだ見つけられていなかったから。
……だからこんな事してもと言う、後悔だった。
俺にとっては。
だが、まだやれる事があった。
俺は倉田さんにしかお願い出来ない事を頼み、全員がいる食堂へ歩いて行った。
「翔太?」
可能は組み上がった。




