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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪2 花園塔の劫火
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確かなモノ

 ニ尾部さんを毒殺した理由は、恐らく体格。

ニ尾部さんはかなりの大柄。

他の方法で殺害するのは色々な不都合が生じる。

グラスの中に、どうやら青酸系の毒が入っていたようだ。

飲み物だけかどうかも重要だった。

無差別殺人。

今日の夕食はバイキング形式のものだったから。

しかし、幸か不幸か。

全員が食事を食べている状況から、可能性は消えてくれた。

「このグラスは、食事が運ばれてくる前には既に置いてあった」

 と言う事は、問題はいつ頃グラスが置かれたか……。

ニ尾部さんは厨房に一番近い席に座っていた。

恐らくいつもそうしているんだろう。

だとしたら、誰にでも出来るかもしれないが、問題はその時間。

「昼食後、片付けてすぐじゃないかしら?」

 そんなに早いのか?

楓に尋ねる。

昼食が終わったのが13時頃だとして、夕食まで6時間もある。

「確信は持てないけれど、ここの管理人は彼一人。綺麗にされたガーデニング用品の小屋を見ても、様々な仕事を高い精度で行っていたと考えられます。だとしたら、一人で行うのに必要なのは効率」

 なるほど。

食器を洗って棚に閉まってまた出すよりも、ここにすぐに戻せば手間が減る……って訳か。

「……詳しいんだな」

「少しの間、メイドをさせて頂いた事がありますので」

 そうか……元々メイドとして働いていたわけではなかったのか。

「ニ尾部さんの席は予め決まっていた。厨房から一番近いこの席。彼女の言う通りだとしたら、毒を仕込むのは簡単だ」

 その間、アリバイがあった人間は……俺と由佳、それから楓(昼食前は一緒ではなかったが、昼食の時と同じグラスが使われている筈が無いし、昼食以降は共に行動していた為除外)。

倉田さんは途中途中で俺達と会ったりはしているが、ずっと一緒だったわけではない。

黒田さん、最上さん。

それから呼んできた恵さんもずっと一人だった。

後は……。

「ニ尾部本人」

「自殺と言う事かしら?」

 可能性は否定出来ない。

理由は分からないが、花蓮さん殺害の方法は更に不可能な状況だ。

ここでニ尾部さんが他殺に見せかけて自殺する事は十分に考えられる。

「そんな訳!」

 そんな訳、無いって、どうして言い切れるのか。

何か知ってるのは明白だった。

「……何も知らないわ」

「手紙について黙秘した理由は?」

「兎に角、私は何も知らないわ!」

 何を隠している?

話したらまずい秘密?

それは何だ?

恵さんはそれっきり、俯いて沈黙を通すつもりのようだった。

自分達で辿りつかなくてはならない……らしい。

「皆さん部屋に戻って下さい。食事は何か厨房にあるでしょう。持って行って構いません。くれぐれもお気をつけて。 ……私はここに残って見張ります」

「見張りって、倉田さんも犯人かもしれないのにですか?」

「そうですよ!」

「犯人かもしれないのにおかしいわ!」

 当然だった。

守る振りをして安心させておけば、連続殺人の実行難易度は下がるのだから。

なら、俺も残る。

それだけだった。

楓は俺に抱きつきながら、由佳はその楓を睨みながら、残ると言ってくれた。

4人、交代で見張る。

大丈夫と言えなかったのが悔しかった。



 最上さん達がエレベーターに乗り、2階、5階、7階と。

パネルが変わるのを確認した。

これで少なくとも、今の時間は3人が部屋にいる事になる。

時刻は10時を回った所。

長い夜が、始まろうとしていた。

「さて……と」

「どこから調べるのかしら?」

 あれ?

見張りは?

丁度2手に分かれて、調査と見張りが出来ると、倉田さんがなんでも無い事の様に言うけど。

……倉田さんだって容疑者じゃないの!?

「大丈夫。倉田さんは犯人じゃない。だから由佳。倉田さんと組んでくれ」

 いやいやそうじゃないでしょ翔太!

「頼む」

 真顔で言われたらしょうがない。

……頷いてやろう。

決して何も思ってない。

そして翔太は抱きついて来た楓さんを剥がし、倉田さんに何か小声で呟いた。

「何かあったら許さねぇ」

 顔がにへらした。

いやもっと小声で言ってよホント。

気付かない振りできないじゃん。

「面白い子だな」

 倉田さんは穏やかな表情だった。



 翔太君が彼女と組まなかったのは意外だった。

最後のやり取りにほんの少しだけイラッとしたけれど、彼女に何かあったら、翔太君はどうするのかしら?

「倉田さん、花蓮さんの死体発見と同時に警察手帳を見せたろ? あの人が犯人なら、刑事である事を言う必要が無いし、捜査をする必要も無い」

 なるほど。

刑事だと言わずに怯えているように見せていれば、閉鎖空間では有利になるし、

「この事件はそんなに簡単じゃないと思う」

 問題は、あの2重不可能犯罪って事ね。

そして検証するために来た。

私にしたのは、倉田さんに彼女を守らせるのと同時に、彼女に何かあったら真っ先に彼を疑えるから?

中々非情な選択で好きよ?



 10m四方の花畑の外周中央にある20m程の木は、夜に見ると迫力があった。

……花畑は10m四方の正方形が、塔を囲んで8つ存在している。

その間に車が通れる道……。

中央にあるとしたら、5m分を運べれば良いと考えると……。

あ……。

もしかしたら……。

楓は何故か高揚しているように見えた。



 翔太は大丈夫だろうか。

命ではなく貞s……何でもなかった。

どうも落ち着かなかった。

「1つ聞いても良いかな?」

 私を落ち着かせるために、話しかけてくれたのだろうか。

「彼、吉野君は、どうしてああも事件に首を突っ込みたがる?」

 ……。

沈黙は理由の裏付けに十分過ぎてしまった。

「答えたくないなら良い。私も容疑者だ」

 翔太の想いを、伝えてみようと思ったのは、落ち着きからか。

翔太の言葉か。

或いは気遣ってくれたお礼からか。

分からなかったけれど。


 翔太が大丈夫って言いました。


 結局はそういう事だった。



 20mはありそうな木。

これならもしかしたら可能ではないか。

いや、20m無くても理論上は可能だ。

この上に何かあれば……。

「じゃあ、登って様子を見て来るわね」

 ちょ、楓!

ミニスカートだから止めてお願いだから!

笑顔でどうしてって聞かないでもう!

パンツ見えちゃうでしょ!

「良いじゃない。翔太君しかいないわよ?」

 だーもうおとなしくしてるの分かった!?

何てお決まりのやり取りもそこそこに(楓は少しだけ残念そうだった)、木に覚束ないながらも登ってみると、やはりあった。

地上から10m程だろうか。

丁度木の中間。

擦れた跡。

そして反対側には不自然に木の葉も何も無く、妙に小奇麗な枝の付け根。



 吉野君の想いを鮎川君がわざわざ教えてくれたのは、少しは信用されたからだろうか。

彼は。

友達想いなのだろう。

でなければ、ここまで必死に動かずに、ジッとしていれば良いのだから。

親友がまさかそんな方法で……。

 あの事件は警察内部にさえ情報規制がかけられていた。

事件を検証した人間以外が知る事が出来なかったが、まさか……。

「もう、同じ事を繰り返したくないんだと思います」

 今時に珍しい、熱い子だなと思った。

今の子は、ネット主体で、様々な情熱を持たない代わりに、莫大な情報を平均化して平均的に行動すると思っていたから。

ああ言う子がいると分かって、安心したと言うものだ。



 何か見つけたらしい翔太君は、そのまま3台の車の元へ向かい、トランクの下辺りを懐中電灯で調べ始めた。

ああ。良いわ翔太君。

この不可能犯罪、どう解決してくれるのかしら?

「後必要なのは……。 あった!」

 誰の車か分からないけれど、何かを見つけたようね。

それなら、他の車も調べた方が良さそうね。

翔太君が何か言う前に調べてしまえば良い。

「だから止めなさいって!」

 大慌てで背を向ける翔太君。

止められるなら、止められる前に行動してしまえばこの通り。

……あったわね。

これの事かしら。

何かが擦れた様な跡。

……ロープか何かと言った所かしら。

「え?」

 すかさず残りの1台の車を確認する翔太君。

ご丁寧に起立させられてしまった。

「ここにも。先手を打たれた。くそ!」

 歯を食い縛る翔太君を、優しく抱き締めた。

素晴らしい推理力だわ。本当に。

「だが、逆を言えばこの方法が実際に使われた証拠。花畑に死体を移動した方法は分かった」

 流石よ。

さあ。もう一つの不可能も、可能に組み上げて翔太君!

優しく剥がされたのは、翔太君の優しい所だった。



 やりたくない事は絶対にやらないけど、やると決めたら絶対に辞めない。

それが吉野翔太ですから。

「そうか……」

 翔太と楓さんが帰って来た。

笑顔の私を見て翔太はどうかしたのか聞いてきたが、何でも無かった。

時計の音が鳴った。

時刻は12時。

7で点灯していた階数表示のランプが消えた。

エレベーターは使えない。

「……エレベーターは使えない……」

 翔太が心配そうにパネルを見上げた。



 12時の鐘が鳴る少し前。

田村恵は震えていた。

11時40分。

後20分でとりあえず大丈夫だ。


 12年前の事で話があります 月花


 場所も時間の指定も無い手紙。

どう言う事だと思った。

誰も信用してはいけないと思った。


 テーブルに置いた手紙を、ただ田村恵は見つめていた。

「……スズキはもう死んだのよ……。 何で今更……」

 証拠は全て消したはずだ。

それなのに、どうして知っている者がいる。

「秘密を知っている人間がいるとでも言うの?」

 ノックの音がした。

ビクッとして、田村恵は入り口の扉を見た。

「誰!?」

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