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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪12 鮎川由佳の逃避行
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対峙

 警察が包囲網を敷いてしまえば。

その包囲網を徐々に狭め、追い込んで行ってしまえば。

由佳ちゃんが乗っている車は何れ引っ掛かる。

それなのにも関わらず、へばり付く嫌な感じが抜けてくれないのは何故だろうか。

何か見落としてはいないだろうか。

目を閉じ、考える。

優子が拉致された事を聞いて。

直ぐに私達は相田の死体を発見した。

そしてその後間伐を入れず、由佳ちゃんが消えた。

時間的にそう遠くへ行ってはいないと判断し、私達はパトカーで車を追いかける事にした。

そして今まで、追えども追えども見つけられないでいる。

状況的には大体そんな感じだろう。

「時間稼ぎ……か?」

あるとしたらそうかもしれないけれど、何の為に時間稼ぎをしたのかが分からない。

そんな事を考えていると、複数のパトカーが止まっているのが見えてくる。

いつの間にか包囲網の境界まで来てしまったようだ。

パトカーが止まり、私達はパトカーを出る。

「例の車は来てませんか?」

 長時間運転して下さった警官が訪ねる。

疲れているにも関わらず、素早く動いてくれる警官に頭が上がらない。

銃声が響く。

振り向いた時には、警官が血を吹き出し、仰向けに倒れていた。

「てめえら、まさか……」

「吉野翔太。一緒に来て貰う」

 これが狙いだったと言う訳か。

警官に扮した、恐らくは黒の御使いの仲間が、私に拳銃と突き付けて。

翔太君をただ見ている。

現状を即時に変えられる力が欲しい。

警官が倒れ、他のパトカーに扮した車が走り去って行く間。

漠然とそんな意味の無い事を考えた。

過去の反省なんて、この状況ではこの世で最も意味が無い文化だった。



 ……。

目を覚ます。

ボンヤリとした状態で正面に見えたのは天井。

病院らしい。

緊張が解けたからか、体中が軋むように痛む。

あの女との最後の会話から何があったか分かんないけど、多分警察に保護されたんだろう。

……。

あの女の発言から、誰なのかを考える。

黒の御使いなら、簡単にはあたしを助けたりはしないだろう。

前に聞いてた館華星。

そいつに間違いは無いと直感が告げてる。

それに、皇桜花。

あんな奴が黒の御使いのメンバーにいたんだとしたら。

翔太達じゃ無理だろう。

現に、あたしがこんな状態になってるのが何よりの根拠だ。

だとしたら、館華星が言ってた事が事実だと行きつく。

由佳ちゃんが誘拐されたから、あたしは別に必要じゃなくなったんだろう。

何でもかんでも。

腹が立つ。

要はあたしが蚊帳の外って事。

それが許せないけど、あんな小さな女一人、どうにも出来なかったのだ。

力が欲しかった。

要するに、皇桜花に拉致されなければ。

由佳ちゃんを。

そして翔太を危険な目に合わせる状況を作らなくて済んだのだ。

無事でいて欲しいって願っても。

それが通じるかは分からない。

だけどそれでも願いたい気持ちは嘘じゃない。

今後、やれる事は絶対にある。

頬に触れる。

あたしは泣いていた。

そんな事をしたって未来は変わらない。

目を閉じる。


 守れるだけの力をつければ良い。

だから皆、無事でいて欲しい。



 殺害されてしまった警官には、桜庭君の上着が掛けられていた。

包囲網を敷いた。

その中に偽物の警官が紛れていると言う予想が出来なかった。

「追いかけましょう!」

 後続の警官に後を任せ、私達は奴らの向かった先へ車を飛ばす。

翔太君が1人だけ連れて行かれたこの状況が非常に危険な事は言うまでも無かったから。

先程から桜庭君は、何度も翔太君へ電話をしているのだろう。

繋がらない事に焦るのは仕方が無い。

ヘリも飛ばせなくはないが、山の中を捜索するとなれば、上空から見つける事は非常に難しい。

恐らく雷鳥館の帰りを狙った理由はそこ。

全てが用意周到にされているにも関わらず、違和感が残る。

偽物の警官を配置して。

その時に何故翔太君を殺害しなかったのか。

……まさか。



 両脇には偽の警官がいて、俺は手錠を掛けられている。

どこを進んでるのかも分からない。

時折振動するスマホは捨てられ、車の音だけが車内に響く。

この状況はかなり不自然。

あの時はダメかと思った。

全員が完全に油断してたから。

俺も楓も殺されると思った。

なのに今あるのはこの状況。

俺を殺害するのに、こんな事をする必要なんか無い。

だとしたら。

何か本来の目的があって。

俺の殺害がそこに組み込まれてるんじゃないだろうか。

もっとこう……。

想像をはるかに超えるような事。

敵に囲まれ、連れ去られているのにこうも冷静でいられる自分が少しおかしかった。

吉野会で生まれ育ったからか。

或いは殺人事件のせいか。

敵の1人のスマホが鳴り、何か報告をしている。

車の音で聞き取りにくいけど、相手はこの計画を立てた人物だろうか。

こんな山に囲まれた所に、目的地が?

連想されるのは、犯罪に使用するとしか思えないような多くの建物。

前に楓に少しだけ資料を見せて貰ったけど、俺達が行った事の無い施設がまだまだ多くある。

この先にある目的地が、そんな施設だったとしたら?

頭を振り、出来る限り平静を装って考える。

もう1度この事件を。

黒の御使いが、相田さんを使ってPCPに依頼をした。

その間に姉ちゃんを拉致し、そして由佳をおびき出した。

警察の包囲網が敷かれる間、由佳を乗せた車は山道を走り続け、それを俺は楓と追いかけた。

疑問は、具体的な要求が無かった事。

多分、要求に目的があるんじゃなく、こうして動き続ける事に意味がある。

だとしたら、警察の動きを知る事が考えられる目的の1つ。

それに、警官をこれだけ動かすには相当な労力がかかるだろう。

その間に好んで動くような人物を、多分炙り出そうとする。

その後どうするかまでは予測できないけど、そんな条件に当てはまる人物は久遠か星さん。

目的の1つになるだろう。

残るは俺。

車が止まる。

既に辺りは暗くなっており、雷が鳴り響く。

まさか……。

最初に由佳が拉致された場所に、テープが張られている。

現場検証を終えたんだろう。

見えるのは雷鳥館。

俺は手錠を外して降ろされ、車は去って行く。

屋根のある玄関前まで走って行く。

走った場所に落雷し、危なかったと冷や冷やする。

誰かいるのか?

周りを見渡すけど、人の気配すらしない。

中?

目的が俺なら、俺を殺害する罠がある筈。

それに、由佳は無事なのか。

……。

扉に手を掛け、開ける。

館に連れて来た。

そして俺を殺害する以上の何か理由があるとすれば。

辺りを見ながら慎重に歩いて行く。

地下で大規模な犯罪者の殺害が行われた施設。

そんな場所に案内された?

各部屋も慎重に見て回る。

両小指を絡め、手を口元に当てて考える。

俺の殺害が、本来の目的を遂行するついでに含まれてる。

……まさか。


「こんばんは。吉野翔太」


 ゆっくりと振り返る。

かなり低い身長。

着こなせていないようなスーツ。

そして見た目通りの幼声。

華音ちゃんが言ってた通りの特徴。

こいつがここに来たって事は。


「鮎川由佳もちゃんといるよ? 吉野翔太」

 屈託無く笑う目の前の女に、何も感情は浮かばなかった。

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