表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪2 花園塔の劫火
18/190

嘲笑うように

 様々な可能性が潰れた。

こんな状況でも、外部犯を疑いたくなって来る。

どうやって痕跡を残さず花畑の中央に死体を運んだ?

そして、どうやってエレベーターが使えない状況で、部屋まで戻った?

考えられる可能性はもう一つあった。

エレベーターの扉を何らかの方法で開け、そこから降りる方法。

だが、エレベーター内に抜け穴が無い状況で、エレベーターは1階に止まっていた。

ダメだ。

頭を掻くが、何一つ浮かんでは来なかった。

それに、劫火の元に。雪月花。

この手紙も気になった。

わざわざこんな手紙を、どうして残したのか。

あーくそ分かんねえ!


 おおおおおおおおおおおおお!


 忘れた頃にやって来る呻き声。

この原因も突き止める必要があった。

すぐに止みはしたが、慌てて部屋に入って来た由佳は、勿論怯えていた。

「もう何なのよ!」

 由佳は、比較的こう言うのが苦手だった。

「お前昔っから苦手だもんな」

 止めて止めてライオンらめええええええええ!

後ずさる俺を、スマホを持った由佳が見下ろしていた。

「あんただって同じじゃないのよ」

 それもそうだ。

沈黙し、お互いに何だか気まずい空気。

その……好意をそっけなくするって、男としてどうなんだ?

その……悪い気はしないって言うか何と言うか……。

「……そんなの翔太じゃないわよ」

 はは。言われて何故か悪い気はしなかった。

「何よ!」

 どちらからとも無く笑った。

「お邪魔するわよ」

 ノックの音と楓に驚く暇も無く、楓は俺の腕に抱きついて来た。

おい……。

由佳は何故か笑顔で空いていた反対側の腕に抱きついて来た。

「楓さんってショタコンですか?」

「翔太君相手ならショタコンで良いわ」

 誰がショタや……翔太や。

我ながらつまらないギャグだった。



 食堂へ行くと、既に刑事さんがいた。

翔太君が何か分かりましたかと聞くと、遣る瀬無さそうに頭を振った。

可能性が全て潰えた今、何をすれば良いのか、翔太君と同じように考えていたのだろう。

「他に何か分かってる事、ありませんか?」

 この状況は非常にまずい事を、翔太君は感じているのでしょう。

何一つ解決策が見つからないまま、はいお終いなんて、ある訳無いのだから。

「この事件を解決すると?」

「防ぐんだ」

 刑事さんは翔太君をまっすぐに見ていた。

「全て実行された後なら、解決でも何でもするさ。どうしても防ぎたいんだ!」

 止めようとする彼女を、私は止めた。

貴女は翔太君にとっては必要な人だけれど、この一瞬だけは邪魔しないで?

釈然としていないようだけれど、我慢して頂戴。

「犯行時刻、全員部屋にいたのは君が証言できるな?」

 ……刑事さんと、協力関係を築けたようで良かったわ。

こんな犯罪。

今までに見た事が無かったから。

高校生はどうとか。

そんな下らない常識に捉われていては、何も変えられない。

そう思って頂けたのでしょう。

「ええ。6時に目が覚めてエレベーターを使った時、1階に止まっていました。それに、死体を発見してすぐに俺が全員を呼びに行きました」

「それとだ。君の言う通り、花畑には我々が集まった時以外の痕跡は無かった。そしてこれだ」



 刑事さん……倉田さんが見せてくれた紙を見た。


 12年前の事でお話があります。


 外の花畑前で、11時55分に 月花


 この手紙があったと言う事は、花蓮さんが死亡推定時刻の直前に、花畑にいた可能性を示唆するものだった。

しかし、これには雪月花ではなく、月花……。

「新谷花蓮の部屋から見つかった」

 恵さんが知っているかどうかが気になった。

「……黙秘されてしまった」

 そんな!

人一人死んでるのに?

しかし、こちらにそこまでの権利が持てないのも現実だと、倉田さんは話した。

いくら人が死んでいるからとは言え、誰が犯人でもおかしくない。

そんな状況で、特定の人物に詳しく話を聞くためには、せめて殺人事件の一連の方法が分からないと。

 くそ!

考えろ。考えろ。

両小指を絡め、手を口元に当てる。

「早いのね。皆さん」

 黒田さんと最上さんがやって来た。

7時の鐘が鳴った。

「ええ。待ちきれなくて」

 楓の冗談と分かる言葉に、黒田さんは苦笑いした。

最上さんと由佳は、軽く挨拶を交わすだけだった。

……何ホッとしてるんだ俺は!

そんな場合じゃないっての。

……恵さんがいないのが気になるが……まさか……。

「さっき来て、いらんとな」

 さっき来て、そして全員がここにいる。

何も無い事を祈る他無かった。



 田村恵は、思いつめたような表情で、時計の秒針をひたすら聞いた。

その手には、一枚の紙が握られていた。

誰が? 何の目的で?

全ての証拠を消したはずだった。

12年と言う歳月も経過した。

それなのに、何故?

震えが止まらなかった。



 何か突破口は無いか、考えた。

如何なる方法を持ってしても実現が不可能な、本当の不可能犯罪を可能に組み上げる、強烈な突破口。

席についている全員を見た。

この中の誰か。

或いは恵さん。

誰かが犯人である事は間違いない。

「食わな人は死んじまう。乾杯」

 全員が飲物を一口飲み、食事を思い思いに始めた。

……そうだ。

昨日の食事の時も。

花畑での会話でも……そうだ。

誰も。

「ぐぐ……」

 全員がニ尾部さんを見た。

テーブルを叩き、飲み物が。

グラスが割れた。

反射的に立ち上がるのと、ニ尾部さんが血を吐いて倒れるのは同時だった。

倉田さんが脈を確認した。

首を振らないで欲しかった。

皆が悲鳴を上げ、目を見開く中、楓の目だけは真っ直ぐだった。

イスの下の血文字を見て、俺は心底怒った。


 劫火の元に 雪月花


「もう嫌よ!」

「動かないで下さい!」

 皆固まった。

倉田さんのように一言で全員を動かす力が、俺にもあれば良かった。

「頼むから言う通りにしてくれ」

 全員が頷いた。

何も出来なかったのは、過去だけで良かった。

俺は恵さんを呼んで来ると倉田さんに告げ、エレベーターに走った。

2人目の犠牲者が出てしまった事に、抱え切れない思いを抱えながら。


 許さねえ……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=666177893&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ