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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪2 花園塔の劫火
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二重不可能犯罪

 幽霊騒動の調査で来た筈なのに、面白い事件に巻き込まれたと幸運した。

翔太君。

今度はどのように私を楽しませてくれるのか、興奮した。

「……犯行を行える人が、1人だけいるのでは?」

 ここから出られないと分かった以上、始まるのは犯人探し。

両小指を絡め、口元に手を当てる翔太君。

まだ何か言うのは得策ではない……っと言った所かしら?

「エレベーターでしか私達は1階には来れません。ですが」

 そうね。

黒田さんの言う通り、1階にいた人間なら、呼び出す方法を構築するだけでたやすく殺人が行えてしまうかもしれない。

「何だ! 俺だって言いてえのか!」

 でも、この殺人はそうじゃないのよ。

私達は、0時から6時まで。

言い換えれば密室の中にいたの。

だから、エレベーターが動かない時間に殺人が行われた時点で、ニ尾部さんに疑いがかかるのは必死。

これは不可能犯罪でもあるし、密室殺人でもある。

そんな事をわざわざする理由は、ニ尾部さん以外に犯人がいると言う事。

「ニ尾部さんが……?」

「やっぱりあなたが!?」

「やっぱり?」

 どう言う事かしらね。

恵さんとニ尾部さんが知り合いって言うのは意外でもないけれど。

それだけじゃ、きっと無さそうね。

「な、何だおまんら寄ってたかって!」

 黒田さん、恵さん、ニ尾部さんが一触即発状態。

「俺じゃねえ! それにこん場所は!」

「ニ尾部!」

 面白いわ。

どんどん翔太君に情報をお願いしたいわ。

今回はどんな風に可能構築してくれるのか。

「落ち着いて下さい! 後で別室にて個別にお話を伺いますので」

 この場はこれで良いのかしら?

翔太君?



「ねえ。翔太」

 今の状況じゃ何とも言えなかった。

だが、分かっている事は一つだけある。

固定電話を使えなくし、車までパンクさせた。

そしてあの大掛かりな仕掛け……。

目を閉じ、煙草を吸っている楓も同じ事を考えていたのだろう。

「このままで終わりとは思えないわね」

「まだ、何かするつもりなの?」

 可能性は非常に高かった。

だからこそ、我武者羅に動く事しか出来ないのが悔しかった。

いつでも思い出すのはあの事件だったから。

だから今度こそ絶対に止める……由佳、手伝ってくれ。

「うん!」

「刑事さんから話を聞いて来るわ」

 2人より3人の方が、可能性は広がった。



 刑事がいるのは予定外だったが、それ以上にあの高校生達……。

2重不可能犯罪だとすぐに気付くとは……そしてあの手際の良さ。

計画を邪魔しなければ良いが……。

気付かれる訳が無い。

全て遂行さえしてしまえば、後はどうでも良かった。

犯罪者は、捕まらない努力をしてはいけない。

最後まで遂行する事に全力を注がなくてはならない。

殺人は悪。

そんな事、犯罪者なら知らなくてはならなかった。



 たまたま取れた休暇中に、将来嫁さん(まだ候補者はいない)と来れたらなぁ……何て妄想を抱いて来たらこれだ。

全く迷惑な話だった。

しかし事件となれば解決するのは私の役目だった……んだが何だこの事件は。

 あの子達は3人で宿泊していた。

だからそれ以外の人にアリバイなんてある訳が無かった。

エレベーターは使えない。

つまり、それぞれ犯行時刻には孤立していたのだから。

だとしたら犯人はニ尾部?

花園塔の支配人が、わざわざそんな事をするのだろうか?

気になったのは、新谷花蓮の部屋にあった手紙。

月花とは何だ?

いや。先に殺人の方法を検討する方が先だ。

……待てよ?

思い当たる事があり、新谷花蓮の部屋を後にした。



 エレベーターが使えない時間帯に起こった。

やはりここがネック。

時刻は既に昼だった。

12時の鐘が聞こえる。

個人で話を聞いたり、各階を調べたが、収穫は全くと言って良い程何も無かった。

焦りが無い訳が無かった。

昼食を終え、今もこうして敷地内を歩き回っていた。

「例えばだけど、夜ずっとここにいて、朝エレベーターが動いてからこっそり戻れない?」

 そう。

最初は俺もそう思った。

死亡推定時刻に捉われず、エレベーターが動く時間帯に、人目を盗んで戻れないか。

だが、その可能性を俺自身が潰していた。

6時きっかりにエレベーターを使い、死体を発見してすぐに全員を下の階から順番に呼びに行ったが、全員が確かに部屋にいた。

その間に、エレベーターが使われる事も無かった。

だから、思いついたもう一つの方法を検証するために、必死に塔の周り、花畑を調べているんだが……。

塔の壁を調べているらしい刑事さんと、楓が何やら話しているようだった。

「3人とも。勝手に出歩くのは、賢いとは言えないと思うが?」

「頭の程度の話に興味は無いですよ」

 ため息混じりに言う刑事さんとあっけらかんと言う楓。

壁を調べてるって事は、刑事さんも……。

屋上からここに降りた痕跡はありましたか?

尋ねると、はぐらかされた。

「……何の話をしているのか」

 屋上からロープを使って降りたと考えるなら、7階に宿泊していた黒田華織にも犯行が可能となる。

俺もその可能性を思いついたが、流石は刑事さん。

先を超された。

塔の壁を指でなぞると、真っ黒になった指。

これでこの可能性も無くなってしまった。

触れば跡が残るような建物で、痕跡も残さずに実行する事は可能なのか。

考えるまでも無く、見上げた塔は黒かった。

「ああそうだな。建物全部を見て回ったが、妙な跡はなかった」

「建物には窓が無い。出られないわね」

 全く。お前の考えた方法並に、悪魔じみた奴だよ。犯人は。



 入り口と反対側に、小屋を見つけた翔太。

入ろうとすると、ニ尾部さんが出て来た。

「おお。どうしたんじゃこんなとこに」

 中を見せて貰うようにお願いすると、快諾してはくれたが、朝の怯え様は何だったのだろう。

そんな事を考えていると、翔太と楓さんはどんどん中に入って行ってしまった。

中にはハンマーやスコップ、肥料らしき袋に高枝切りバサミ。

花畑に使うようなガーデニングの道具しか見当たらなかった。

壁際の棚には花が植えられた植木鉢がまばらに置かれていた。

それでいて中は綺麗にされていて、普段からの仕事振りが伺えたような気がした。

特に何も無さそうだと思ったが、くまなく翔太は調べて行く。

「翔太君。エレベーターの中も調べてみたけれど、2箇所の出入り口以外に、抜け穴や別の出口は無かったわ」

 今、翔太に言おうとした方法が無理だと、即座に楓さんは調べていたようだ。

「……行くか」

 もはや私にはどんな方法が実行されたのか、考える術は無かった。



 ここが管理室か。

大きなPCだったが、インターネットは使えないようだった。

刑事さんならネットに接続できるらしいが、花園塔の全てを管理しているものをネットに繋ぐ。

ニ尾部さんが反対した。

だからここに来たのは、簡単に確認をしに来た。

何色かのボタンがあるのみだった。



 調理場にニ尾部義之はいた。

から揚げを揚げる音が響く中、思いつめた表情でハーブの葉っぱを見つめるニ尾部の手は震えていた。

何を思っているのか。

表情からは恐怖しか読み取れない。

「恵か? あんな事したんは……」

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