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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪11 雷鳥峠の悲鳴
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全部、忘れる訳が無い

「わ、私が犯人なんてふざけるな!」

 仮にあの時、本当は遠野さんが殺害されていなかったとすれば。

殺害出来るのはあの時真っ先に遠野さんに走り寄った相田さんにしか出来ない。

気絶した遠野さんに、例えば強力な猛毒を仕掛ければ。

遠野さんは気絶したように死んでしまう。

「だ、だがあの時遠野の傍にいたのはお前達じゃないか! あ、あの場に私がいなかったのはお、お前達が証明出来る筈じゃないか!」

「確かにそうです……。 吉野様達がいらっしゃって、尚且つ相田様がその場にはいなかった。そんな状況で遠野様を気絶させる事は不可能だと思いますが……」

 確かに普通に考えたら不可能。

けど、それが可能になるものが存在する。

俺は全員に見えるよう、スマホの画像を見せる。

「何ですか? これは」

 長距離用のスタンガン銃。

所謂テーザー銃と呼ばれるもの。

「テーザー銃……ですか?」

 ガス噴射と同時に2本の電極を相手に打ち込み、引き金を引く事でスタンガンと同様、相手を動けなくする威力の電圧を掛ける。

テーザー銃は大きな音が出る。

だから普通に使ったら拳銃を使用した事が分かってしまう。

だから落雷の轟音に合わせて遠野さんへ向けて銃を発砲した。

そして素早く電極を回収してしまえば良い。

その後すぐに遠野さんのもとに駆け寄り、毒針を刺せばこの不可能状況は出来上がる。

「確かにそれなら……」

「可能かもしれません」

「ふ、ふふふ……」

 相田さんは不敵に笑いだす。

「そ、そんな妄想で私が犯人だと? わ、笑わせないで欲しい」

 勿論ただの妄想じゃない。

ずっと気になっていたのは。

何故暗号を解いて欲しいと言う依頼を俺達にしておきながら、何故俺達の前にただの1度も姿を現さなかったのか。

「確かにそうね。貴方は最初、私の元に来た時はとても追い詰められた表情をしていた。それだけの理由があるのなら、ここに着いた時に手伝うなりなんなりするのでは無いかしら?」

 それならその間相田さん。

あんたは何をしていたんだろうか。

「わ、私は私なりに暗号を解こうと……」

 要は、寿乃田さんがいなくなった時に誰かと一緒にいたのでは拉致する事が出来ないから……と言った所だろう。

「遠野さんが本当は毒殺されたって事は、もしかして橋を落とした理由って……」

 警察によって死因が調べられてしまえばこの方法はすぐにばれてしまう。

だから橋を落とした状況を作ったのも理由にあるだろう。

落雷の中、俺達がこの館から出るのは危険が伴う。

だったら防ぎたいのは外部から内部への侵入。

橋を落とす理由1つにしても、犯人が誰かを指し示す根拠になり得た。

全員の視線が集まる中、相田さんは最初に会った時と同様、震えていた。



「か、仮にその方法で殺人が行われたとしよう。であれば私が一番怪しいのかもしれない。い、井手口はどうやって私が殺害できた? あんな状況、どうやって私が作り出したと言うんだ!」

 例えその場にいなくても。

特定の人物を狙って気絶させる事位訳は無い。

世にも恐ろしい方法と驚かずにはいられない。

銃の所有者が一体誰なのか。

それが分かる証拠が何一つ無かったのは不可解だったけれど(一般的なテーザー銃は、射出と同時に紙吹雪のようなものが舞うようになっている。それで銃の所持者が分かるようにはなっている)、考えてみれば立ち上げたばかりのPCPに依頼が来た事がそもそも意味が分からない。

何か裏がある可能性が高い。

聞き出せれば良いけれど、それ以上にこの状況がどのように作られたのかを聞きたかった。

血で真っ赤になった部屋。

死体は翔太君が空き部屋に移動させてくれたけど、今見ても身の毛のよだつ光景。

「こ、この部屋で何が起こったのか説明してくれなければ意味が無いだろ!」

 一体何が起こったのか。

説明してくれる本人は、ただ真っ直ぐに相田さんを見ていた。

「まず最初に。この館について。おかしいと思う事は無い?」

 おかしな事?

館の構造は暗号の為に恐らくこのような設計にされた。

それは翔太君も分かっている筈。

だとしたら他にと言う事だろう。

落雷が轟く。

絶えず雷が鳴る場所ではあるけれど。

それと館の構造以外におかしな所なんてあるのだろうか。

「……そう言えば。これだけ雷が落ちてるのに、1回も館に落ちないよね」

 由佳ちゃんの言葉。

言われてみれば確かにそう。

家の中に雷が落ちると言う話は数多く存在している。

一般的に言えばそこまで高くは無い確率だけれど、無い訳では無い現象。

それをこの館に当て嵌めてみたらどうだろうか。

これだけ多くの雷が落ちているのに、館に落ちない確率は一体どれ程なのだろうか。

それは分からないけれど、落ちていない事に違和感はある。

「この館には、そうならないような工夫がされてるって事」

 ……なるほど。

金属の板が仕込まれていると。

違和感に気付けなかった事が、嬉しいのか悔しいのか。

「そ、それがどうしたって言うんだ!」

「言い方を変えれば、そうなってないと、この方法が使えなかった」

「どう言う事でしょうか?」

 館に工夫がされている事で、初めてこの方法が使える?

……まさかそんな方法で?

「もう1つ。卵の爆発」

「まさか、電子レンジでしょうか?」

 翔太君は頷いた。

「正確に言えば、電子レンジの特殊な波が利用され、この殺人は行われた」

 翔太君が大きめの装置を引き摺って来る。

「これがその装置。電源が入ったら危険過ぎるから、今は電源を落としてる」

 マイクロ波も、この館に仕掛けられた金属板によって外に漏れる事無く反射し、中に留まる事は出来るようになるかもしれないけれど、人体が本当に爆発するのだろうか。

そんな実験を行った人物もいないだろう。

「人体のおよそ70%が水分。それが長時間の加熱によってどうなるか。 ……多分、まず脳が異常をきたして、井手口さん自身は何も感じる事が出来る状態じゃなかったのかもしれない」

 そんな悍ましい事を、この男が実行したのだろうか。

怯える振りをして。

使用人の2人が心底怯えているのとは違う。

地下の部屋もそう。

何があったのかは分からないけれど。

人命を何だと思っているのだろうか。



「しょ、証拠はあるのか?」

「2人を殺害できたのは、相田様だけなのではないでしょうか?」

 上条さんの言葉に、相田さんは大声で笑う。

「ほ、本当に使われたんだとしたらな! この方法は第一誰にだってできるじゃないか!」

 目を閉じる。

秀介はこんな風に犯行を否定したんだろうか。

あいつが生きていたら。

違う。

どれだけ想像しても。

あいつが悲しそうな笑顔で俺の話を聞いたに違いない。

状況が似てても。

この人は秀介じゃない。

どれだけ願っても過去は帰って来ない。

深呼吸をする。


 絶対に忘れない。

もう立ち止まるのは終わり。

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