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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪2 花園塔の劫火
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花畑に眠る

 時計の鐘が響く中、幽霊騒動を考える。

誰しもが聞いたであろう音。

妙だと感じた事。

あれは、どこで持った疑問だっただろうか。

ひたすら考えるが、答えは出なかった。

向かい側に座っている由佳を見た。

「エレベーター、使えなくなるのよね」

 由佳があんな風に笑うのを、久し振りに見た気がした。

視線に気付いた由佳が俺を見た。

「何よ」

 何でも無かった。

ただ、楽しそうだったなと……。

ああ。

こう言う時に何で言わなくて良い事ばかり口から出て来るんだ。

「あんただって」

 呻き声。

時間法則も何も無い一方的な恐怖。

俺と由佳は固まった。

深夜だからだろうか。

恐怖からだろうか。

いっこうに止んではくれなかった。

「いつまで響くの……?」

 音が止んだ。

ホッとする俺に、全力でしがみ付いていたのは由佳だった。

バスタオルを巻いた状態で浴室から出て来た楓にばっちり目撃された。

 近距離で見合う形となったが、顔を分かり易く変え、慌てて浴室へ逃げて行った由佳。

ドクンドクン。

全く困ったものだ。

入れ替わるように、バスタオル姿のまま膝の上に座って来る楓。

慌てて視線を逸らそうとするが、頬をガッチリ固定されてしまう。

なんて格好してんだ……。

「翔太君を誘惑するためよ」

 胸を押し当てるのは気持ち良いけど止めて。

唾を飲み込んで必死に頭を真っ白にする。

 立ち上がり、バスタオルを取ろうとする楓からダッシュで離れ、背を向ける。

ホント俺持つかな……。

いや真面目に考えよう。

時間もランダム……。

法則性があれば、そこから芋づる式に分かる事も多いが、こう発生時間と継続時間がバラバラだと、考えようが無い……。

「分かりそう?」

 今日を良く思い出せ。

両小指を絡め、手を口元に当てた。

誰が何を話していたか。

俺が今日何をしたか。内容。

幽霊騒動……。

やっぱり。何かおかしい所がある気がする……。

 そんな俺を、いつの間にかパジャマに着替えた楓が興味深々に見つめていた。



 夜明けは良い。

死体を良く見る事が出来るから。

花畑の中央には、死体があった。

その様子が克明に映った。

あの時と同じ状況。

そうして、殺されたのだから。

オマエタチに。

最後までやり遂げるための、実行計画。

トメサセハシナイ。

 花畑には、足跡一つ残されていない様子を、しっかりと目に焼き付けた。


 劫火の元に 雪月花。



 点灯した回数表示パネルを、ニ尾部は鐘の音の中で確認した。



 ん……何かとてつもなく良い匂い……。

くしゃみと共に目覚めて目を見開いた。

由佳!? 楓!? 何で楓は下着姿なの!

ちゃんとパジャマ着てたでしょ貴女は!

2人を起こさないように慎重に剥がし、急いで楓にシーツをかけてあげ、部屋を駆け出した。

何なの一体……。



 鐘の音が鳴っている。

6回。うん。エレベーターが使える時間で良かった。

ボタンを押すと、4階へ来て、エレベーターの扉が開いてくれた。

エレベーターに乗り込み、昨日感じたおかしな所を考える。

 何階でおかしな所を感じた?

確か5階……。

会話の中におかしな点は無かったか?

……うーむ在り来たりな内容だけで、何を感じろと言うのだ……。

エレベーターが1階で止まり、扉が開くと、ニ尾部さんがいた。

「おお。見かけによらずはえーな!」

 見かけによらずって。

大きなお世話ですって……。

思いついたようにニ尾部さんに連行された。

恰幅が良いだけに、逃れる事は出来なかったが、痛い……。



 外に出る(連れて来られる)と、朝6時の空気がとても気持ちが良かった。

いつもなら余裕で寝ている時間だったので、こう言う場所に移動するならではの体験だと思った。

ニ尾部さんは、この時間から室内に飾る花を摘むのだそうだ。

全く見かけによらずはどっちだか……ん?


 嫌な予感が瞬時に告げた。気がついた時には走っていた。


 花畑の中央に倒れている人影。

「おい!」

 誰か倒れてる!

綺麗に花が咲いている中央。

突然中央に降り立ち、絶命したかの如き光景。

足跡、痕跡無き場所に、新谷花蓮は仰向けに倒れていた。

その胸に、深くナイフが突き刺さった状態で。

走り出そうとするニ尾部さんを止めた。

現場が荒れてはまずいと直感的に思った。

花を折らない様、慎重に花蓮さんの元へ行き、ナイフに刺さった紙を見つけた。


 劫火の元に 雪月花?


 血文字を読み上げると、ニ尾部さんが大声で叫んで走り去って行ってしまった。

今の俺に出来る事。

全員を呼んで来るしか出来なかった事を悔やむ暇は無かった。



 2階にいた恵さんは『そんな!』と驚いた。

由佳は震え、楓は真顔で聞いていた。

5階の最上さんは信じられない様子で俯いた。

6階の男の人は驚き、共に7階の黒田さんの元までついて来た。

黒田さんは花畑で起こった事件を嘆き、天井を見上げた。

 全員を呼んで花蓮さんが倒れている花畑に。

ニ尾部さんは食堂で頭を抱えていた。

花蓮さんの死体を見て各々が驚愕しているようだった。

またこんな殺人事件が起こってしまった事に、握り拳を握るしか出来なかった自分が悔しくて仕方が無かった。

男の人が警察手帳を見せた。

『倉田拓也』さんは、花畑を見渡し、慎重に花蓮さんの元へ向かった。

「皆さんはとりあえず食堂に待機してください!」

 血文字を見たり、死体の手足首を触ったりしていた。

恐らく死亡推定時刻の割り出しだ。

死体を起こし、外傷を調べている。

背中に血痕と刺し傷があった。

 その間、ゆっくりと皆は塔へ戻って行ったが、俺は嫌だった。

あの事件が蘇るから。

そして、もう同じ事を繰返したくなかったから。

刑事だったんですねと聞いた。

「第一発見者は君か?」

 ゆっくりと頷いた。

次に言う事は分かっていた。

戻りなさいと。嫌だ。

「これはれっきとした殺人事件なんだ! 頼むから言う通りにしてくれ!」

 刑事さんの言う事は最もだったが、引き下がる気は無かった。

「実は私達、とある事件を解決した事があります」

 楓が渡し舟を出したのが意外だった。

解決なんてしちゃいなかった。

何も出来ずに、終わった事を言うだけのものを、解決なんて思えなかった。

「特に彼の推理力は目を見張るものがありますわ」

 そう言って楓は俺に抱きつき、由佳は俺を睨んだ。

ここで争っても仕方ない。

強引に捜査に協力するように、この花畑に足跡が全く無かった事を説明した。

「何だと?」

 俺が踏み入った足跡を刑事さんに検証してもらい(靴を両方差し出し、俺は今裸足だ)、ニ尾部さんと共に発見した事。

血文字にニ尾部さんが尋常じゃない怯えをしめした事。

今日起こった全てを刑事さんに話した。

「誰かがここまで死体を運んだとしたら、少なくとも足跡なり、誰かが入った形跡が残るはず……それが無かったと言う事ね」

「不可能犯罪、と言いたいのか?」

 そう。10m四方の花畑。

丁度真ん中に足跡をつけずに死体を運ぶのは不可能。

それが起こった可能性として。

自殺はまずありえないし、外部犯である為には、この山奥は余りにも適切ではなかった。

「協力、ありがとう。だがここから先は私が調べる。戻りなさい」

 まだダメか。

くそ……。

「お願いします。刑事さん!」

 由佳……。

「こいつ、普段はバカでアホで救いようの無いポンコツですけど!」

 言い過ぎ○rz……。

「でもいざと言う時には誰よりも頼りになるんです!」

「分かった。分かったからとりあえず戻りなさい」

「死亡推定時刻、私が調べましょうか? 一応目安程度なら調べられますので」

 由佳と楓の息がピッタリだった事にホッとしながら、刑事さんは頭を振った。

「昨夜の0時から0時半。死因は背中を指されての失血死」

 な……!

目を見開いた。



 何を急いでいるの翔太!

食堂へ勢い良く入って行く翔太に、全員がビックリしていた。

恵さんは体を抱き、ニ尾部さんは震えているようだった。

最上さん、黒田さんは黙って俯いていた。

ここに立ち込める、どうすれば良いのか分からない沈黙。

「ニ尾部さん! 夜の間、エレベーターは使えないんですよね?」

 翔太の勢いに驚きながらも、ニ尾部さんは肯定した。

動かす方法も無かった。

唯一の移動手段が故障してしまえば、それは全員が部屋に閉じ込められてしまう。

部屋には窓も何も無いのだから。

両小指を絡め、手を口元に当てる翔太。

一体どうしたと言うの?

 遅れて入って来るのは刑事さんと楓さん。

……翔太に協力すると言う気持ちが一致してしまっている事が嫌だったけれど、そんな事を言ってる場合じゃなかった。

「こんな山奥、外部犯とは思えない……犯人はどうやって部屋に戻ったんだ」

 ハッとした。

そうだ……。

花畑に死体を足跡もつけずに放置した後……少なくとも0時から0時半に、花蓮さんは殺された……。

その後、どうやって?


 エレベーターは使えない。


「花畑に足跡も無い……」

「まさか……」

「2重不可能犯罪。と言う事かしら?」

 全員が息を呑んだ。

「け、警察は来てくれないの!?」

「……スマホは圏外だ」

「ここの電話は……」

「だめね……。私達が乗ってきたバスが、ここに来るのでは無いかしら?」

「電話せんと来んわ……」

 徐々に逃げ道が塞がれて行く息苦しさを感じた。

そんな中、黒田さんが外へと走っていった。

刑事さんと翔太が、すぐに後を追いかけた。

……怖かった。

何よりも、高揚している楓さん。貴女が。



 止まっていた車は3台。

全てがパンクさせられていた。

他に観光客が来る事を、祈るしか残されていなかった。

しかし、予約状況や宿泊状況が公開されているらしく、全部屋が埋まっている状態で、やって来る客は期待出来なかった。

 全員が俯いた。

走って行く最上さんを、刑事さんが止めた。

歩けば3日は掛かるし、山道は危ないからと。

 再び、俺達は隔離された。

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