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カノウコウチク~吉野翔太の怪事件ファイル~  作者: 広田香保里
怪10 双鏡塔の無常
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悪魔のような窓

 自分の犯行を暴かれた時、少なからず挙動に変化があるのではないのか。

翔太さんを初め、全員の視線が江守さんに集まっていた。

当の本人は、微動だにしてなかった。

挙動が変化する理由は、犯行を行った事を認めたくないから。

要は罪から逃げる為。

江守さんが犯人じゃないからだろうか。

それとも覚悟を決めてしまっているのか。

私には分からなかった。

「連続殺人の犯人」

「……確かにその方法でしたら、私にも犯行は可能となりますね。本当にそのような方法が実行されたのであれば、ですが」

 江守さんは優しく微笑んだ。

その姿に、森田さんの影が重なったのは気のせいだろうか。

「ですが、私だけではありません。天鏡の塔にいた方でしたら、どなたでも実行が可能な筈です」

 その通りだった。

天鏡の塔の1階に例のガラスが仕掛けられていた。

鏡の性質を持ったそのガラスに、由佳さんに頼まれて電気を流した(実際は危険だったから警官にその作業はして貰ったけど)。

そうする事で通電している間、鏡がただのガラスになってしまう。

そして通電を解けば鏡に戻る、悪魔のような装置。

実際には一瞬だけ通電させ、視界を僅かでも確保してしまえば新垣さんは気付かなかっただろう。

そうして何度も様子を見て、浴槽に入った事を確認してしまえば、後はリモコンを押すだけ。

そして通電を止めればいとも簡単に元の鏡に戻ってしまう。

もしかしたら、由佳さんが見つけた隠し扉や隠し部屋があった理由も。

鏡自体に仕掛けがある事に考えを及ばせない為かもしれない。

「私が犯人だと言う証拠は、どこにもございません」

 翔太さんは哀れみでもない。

悲しんでる訳でもない。

そんな表情だった。

「もう、証拠はある。江守さん」

「ほう……。 それなら、是非拝見させて頂きたい」

「着いて来て」

 翔太さんは静かに頷き、歩いて行った。



 江守さんの部屋を開け、ぞろぞろとあたし達は中へ入って行く。

「江守さん。あんたは深野さんが殺害される直前、本人と電話をしてた」

「ええ。定時の連絡や、細かい部分の確認を行いました」

「通話記録からも、確認が取れている」

 倉田さんの言葉に翔太は頷いた。

でも違う。

この殺人は、鏡の仕掛けに気付かれないような仕掛けや方法が多様に取られた。

「テレビ電話を利用させたのにも、ちゃんとした理由がある」

「どんな理由だい?」

 容疑者が全員現状を飲み込めないでいる中、口を開いたのは戸塚さんだった。

「もしかして、被害者のいる場所を特定する為かしら?」

「それだと、顔の位置は分かっても手の位置がどこにあるかが分からない」

 翔太も最初はテレビ電話の役割がそうだと思ってた。

けど考えてみたら、テレビ電話だけで詳しい場所を特定する事は不可能。

この建物の壁、床に至るまで鏡で覆われてるから。

そんな状況で、テレビ電話、或いは会話だけで4階のキッチンのどこにいるかを正確に把握する事は出来なかった。

マジックミラーが使用されてなかったのも、この鏡のせい。

普通の壁だったらマジックミラーで充分代用出来た(その場合だと、あたし達が事件前にこの塔の秘密に気付けたかもしれなかった)けど、全てが鏡で覆われてるこの状況でマジックミラーでその先を見る事が出来たかどうかは何とも言えなかった。

状況によっては向こう側を見る事が出来ない場合も多いから。

だとしたらどうするか。

「江守さんがわざわざテレビ電話で会話をした理由は別にある」

 翔太は警官からボールペンの芯を受け取り、鏡の壁を見回す。

「別の理由って、一体何なのかしら?」

「あった」

 壁の隅にある、小さな穴。

そんな所に設置されて気付ける訳が無かった。

「簡単に言えば、安藤さんと新垣さん、深野さんの殺害は同じ方法が使われたって事」

 ボールペンの芯を金属が入るように刺し、変化した壁の先に見えたのは。

4階のキッチン。

最初に見た鏡と同じ位の大きさだった。

「一体この鏡はどうなってるの?」

 詳しい仕組みは分からなかったけど、電源のオンオフでガラスと鏡が入れ替わるようになってた。

「神田さんを殺害した後、江守さんはこれを使って殺害する標的が目的の場所に来るのを何度も何度も確認し、機会を伺った」

「まさか、このガラスを見られない為にテレビ電話を?」

 電話で話してる間にこの鏡を見られでもしたら、最後の殺人は成功しない。

テレビ電話なら否応無しに画面を見ながらの会話を余儀無くされる。

「けれど、安藤さん殺害の時はどうかしら? あの時は全員食堂にいたのでしょう? 誰も気付かない可能性は0ではないわよね」

「確かにそうかもしれない。けどそれは仕掛けられてる鏡が同じ大きさだったらの話」

 翔太はもう1つのボールペンの芯を刺し込み、壁の一部がただのガラスに戻って行く。

他の2箇所と違ったのは。

それが覗き穴ほどの大きさしかなかった事。

全員が驚きを隠せないでいる中。

江守さんは何を思ってるんだろう。



 つまり江守さんは、この塔に来てガチャガチャを使って地鏡の塔全員の部屋を指定し、神田さんを殺害後、両方の塔の入り口を封鎖した。

その後、俺達が神田さんの死体を見つける同時位を見計らい、自分の部屋にある鏡から安藤さんの場所を確認してからボウガンで殺害。

このタイミングだって、俺から由佳達が殺人事件が起こった事を受け、鏡に気を取られないよう、絶妙なタイミングを狙った。

そして建物から出られないと気付いた俺達は、固まって行動しようとするだろう。

その心理を江守さんは良く分かっていた。

だから絶対に1人になるであろう浴室に仕掛けをし、仕事をする振りをし、浴室にいるかいないかの確認を何度も行った。

そして次々と犯行を重ねて行き、最後の深野さんとの電話。

キッチンにいる事を確認し、棚の物を取るよう仕向けて。

一気に用意しておいたワイヤーか何かを引っ張る。

その様子を、ガラス越しに確認しながら殺害する事で全てが完了。

遺書は予め何も使用しないような引き出しに入れておけば完了する。

或いは以前に使われたような、引き出しの死角になる位置に遺書を固定しておいて出したのかもしれない。

世にも恐ろしい遠距離殺人。

何れにしても。

この部屋にある特殊ガラス。

江守さん以外に出来る人間がいない事の証明。


 他に言う事はある?


 江守さんの表情は相変わらずだった。

「1つ教えて頂けますか?」

 俺は頷いた。

 こう言う鏡、本当に存在しています。

Wikiに名前が載っていなかったので、実名の公開は止めておきました。

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