持ち去られたスマホ
ご覧頂きありがとうございます。
怪9、せいろうかくのさいぎ、スタートです。
傍に誰もいない状況で飛び降りる。
れっきとした殺人事件。
勿論トリックがあります。
途中で分かってしまったのであれば、引き続きメールかなんかを送って頂けると幸いです。
只管びくびくしていますが(笑
それでは本編をどうぞノシ
とあるアパートの1室。
明かりもつけず、暗い室内でスマホを弄っている男がいた。
名は和田幹生である。
幹生は不適に笑い、スマホ画面を見ていた。
スマホには『ケーブドラゴン』と表示されていた。
「これでOK」
ケーブドラゴンは、国内最大のソーシャルアプリ。
洞窟にドラゴンの巣を作り、ドラゴンの育成をサポートするゲーム。
基本無料のゲームだが、課金を行う事でゲームを有利に進める事が出来る、極めてオーソドックスなアプリだった。
「成りすませば、いくらでも課金出来んだよバーカ!」
そんな言葉を吐き、大声で笑う幹生を遮るかのように、インターホンの音が室内に響いた。
幹生は舌打ちをし、取引完了画面を確認した後にスマホを置き、玄関へと向かった。
扉を開けて、まず感じたのは激痛だった。
胸にナイフが刺さっている事に気付いた時には幹生は倒れた。
そして意識が無くなり、絶命した。
近隣の住民が異臭に気付き、事件が発覚した。
被害者は和田幹生。
死亡してから2日程経過していた。
室内は必要最低限の家具しか無く、テレビやパソコンさえも無い。
一体誰が、何の目的で殺害したのか。
近隣の住民に聞き込みをしてはいるが、有力な情報は何も手に入っていない。
和田の仕事先では、誰とも殆ど話しをしない。
交友関係は皆無。
……何なんだこの事件は。
考えたくも無い人物の関連を疑う。
久遠正義。
パターナリスト犯罪者の。
「失礼しまーす……」
警官に案内された女子高生が現場に入って来た。
彼女の名前は鮎川由佳。
様々な事件を解決する為に、しばしば手伝って貰っている今時珍しい女子高生。
来てくれてすまない。鮎川君。
「いえいえ……って!」
鮎川君は振り返り、他に誰もいない事に腹を立てている様子だった。
それもその筈。
鮎川君以外に、もう一人呼んだのだから。
幾つもの事件を、その桁外れの推理力で解決して来た高校生。
イベント終了まで残り10分。
特賞ボーダーが恐らく後クエスト3つ分。
なら、行ける!
人生初の特賞に少しばかりの緊張と多大な期待。
たかがゲームに緊張と思うかもしれないけど、実際にやってみればその気持ちが良く分かる。
最早ただのゲームではなく、誇りさえ感じるこの瞬間。
「はいはいまた今度ねこのバカ!」
ボディブロー痛い痛い痛い死ぬ死ぬあースマホ取り上げないで変わりにオコジョらめええええええええええええええええええ!
「良いから早く来なさい!」
そしていつものようにアイアンクローされたまま、由佳によってアパートの一室へ連れて行かれた。
由佳の怪力にこめかみを抑えながら、殺害現場を見回す。
由佳に貼られたテープから、大まかな捜査は既に終わっているようだった。
「呼び出してすまないな。吉野君」
机と布団は何かをされた形跡がまるで無い。
そして机の上にはルーター。
「被害者は和田幹生23歳。心臓を一突きにされ、死亡」
そしてテレビやパソコンさえも無い。
「玄関に仰向けで倒れていた事から、恐らく玄関を開けたと同時に刺されたものと推測される」
両小指を絡め、手を口元に当てて考える。
って事は。
「この近くで会社員をしていたらしい。友人は特にいなく……吉野君?」
スマホはもう回収したんですか?
俺は倉田さんに聞いてみた。
「え? ……そう言えばスマホが無くなっていたが」
やっぱり。
「何でよ?」
23歳で独身。
今の時代、仕事から帰った後にここで何をしていたのかを考えてみた。
本も漫画も置いてないこの室内で。
ただ寝る為だけの部屋でも、私物は徐々に増えて行くと思った。
そしてルーター。
テレビもパソコンも無いのだとしたら、使用用途はスマホかiPad。
そしてさっき倉田さんが言ってた通り、玄関を開けた直後に刺されたのだとしたら、その時は少なくとも、それら端末を持ってなかった可能性が高い。
ポケットに入れてた可能性もある。
だから倉田さんに確認したら、スマホが無かったと言う訳だ。
「……たったそれだけの事で」
だとすれば問題は、何故スマホが無くなったのか。
通話記録か、それとも何か別の情報を見られたくなかったのか。
「あ、いや、そうだな……」
スマホには『Hobi』が表示されていた。
Hobiとは、スマホアプリゲーム向けのコミュニケーションアプリであり、ゲームと連携してのプレゼントキャンペーンも実施されている。
スマホの持ち主は、メッセージを打ち込んでいた。
スマホの時刻は『22:45』と表示されている。
『mikio0903 : すみません。マスター。今度のオフ会、私用で行けなくなりました 5分前』
『shinonome : 了解しました! ミキオさんリアを優先して下さいね! 5分前』
『maple_blossom : 残念ですわ 5分前』
スマホの持ち主は、そのメッセージを確認すると、適当に会話を打ち切り、スマホの電源を切った。
準備は整った。
後は殺人舞台で、実行するのみ。
私は翔太君に用があって彼の家に来たのだけれど、優子は私に用があるみたいだった。
用件の予想はつく。
翔太君についての事だろう。
優子からしてみれば、ただ弟を私に利用されているだけ。
そう見えてもおかしくないのだから。
「翔太から全部聞いたわ」
そう言って優子は私の胸倉を掴んだ。
「翔太に何やらせてんのよ」
確かにやらせてしまっているから否定はしなかった。
これが翔太君自身の意思だとも。
「知ってるわよ。だったらあんただってあの子がどうするのかなんて分かるでしょうが!」
確かに知っていた。
それでも。
私もやらなければならない事がある。
だから例え利用する形になったとしても。
優子は溜息をついた。
私を突き飛ばし、私はイスに座る形となった。
「翔太に何かあったら、あたしがあんたを許さない」
私との約束は不本意だろうけれど、それでもそうするしか方法が無い。
優子の眉間の皺にはそんな感情が垣間見えた。
翔太君を危険な目には遭わせない。
絶対に。
「なら、良いわ。あんたは好かないけど、嘘にする奴じゃないし」
再度私を見て、優子は仕事に行くと言って出て行こうとした。
用件は終わったのだろう。
なら申し訳無いけれど、責任を持って今回も翔太君をお借りする事を優子に告げた。
優子は玄関の扉を開けて一度だけ立ち止まり、部屋から出て行った。
夢に出て来る秀介は、いつも笑っていた。
互いにバカをやってる時のままだった。
秀介の闇を、俺に見せてくれなかったのはどうしてだ?
俺の事を何も話さなかったから?
それとも話すまでも無かったから?
全てを話せるのが友達なのかもしれなかった。
そう言う意味では、俺と秀介は表面だけの薄っぺらな関係だったのかもしれなかった。
だから夢でのお前は、笑ったままなのだろうか。
問いかけて、答えが返って来たらどんなに良かっただろうか。
それでも答えて欲しかった。
遺書にはそう書いてあったけど。
それでも秀介自身からもう聞けないけど。
俺はお前の親友だって思ってた。
お前は本当に俺の事を親友だと思ってくれてたのか?
「どうしたの? 翔太」
どうしたのじゃねーよバカ野郎!
質問にどうしたのはねーだろが!
「翔太君? 翔太君?」
……。
「翔太君? どうしたの?」
夢……。
分かってた。
我ながら下らない事。
あの遺書に書いてあった。
止めて欲しかったって。
華音ちゃんが殺人者の妹として生きて行く。
そんな業を背負わせたくない。
それでも殺人を犯す道を選んでしまった自分を止めて欲しかったって。
そんな事冗談で遺書に書く奴じゃない。
分かってる筈なのに。
どうしてこんな気持ちになってるのか。
俺は寝返りを打ち、何故か抱きついてない楓に背を向けた。
見られたくなかったから。
「有村君の夢でも見たのかしら?」
本当に親友だったのかって。
俺達は。
秀介がまた殺人を犯そうとしてるなら、絶対に止めて1発殴る。
でも、秀介は俺を親友だって思っていたのか。
秀介の闇に気付いてやる事は出来なかったし、秀介の事なんて殆ど知らなかったのかもしれない。
楓に背を向けて何を言ってるのか。
寝ぼけた子供が親に何があったかを説明するみたいじゃないかと思った時、楓が俺の頭を抱き締めて包み込んだ。
「人間関係は人それぞれだと思うわ」
楓は俺の両頬に向け、自分の方に向かせた。
「知っている知らないで測れる関係ではない筈よ。貴方達は」
そして俺の口元に楓の人差し指が当てられた。
2人の天才が親友だと認め合うのに、通常の理屈なんて必要ない。
私は生まれが特殊なだけの凡人でしかないから、翔太君達が少しだけ羨ましく思う。
翔太君は頷いてくれて良かった。
「それはそうと何で下着姿なの楓!」
翔太君と、既成事実の作成をしようとしたのだけれど。
翔太君が魘されていたからそれ所では無くなってしまっただけよ。
「突っ込み所が多過ぎだけど服を着てお願いだから!」
そう言って掛け布団を私に優しく掛けてくれる所が優しい。
一応翔太君を襲わせて頂くわと断った(断っていない)ら、どうぞどうぞ未使用品だからと言われたわ。
と優子が聞いたら見え見えの嘘をついた。
「あんのクソ姉……」
襲う為には下着姿では物足りないけれど、用意している最中に異変に気付いたからこの状態になってしまった。
翔太君が望むのなら、これも外すけれどと胸のホックに手をかける。
「やめてお願いだから服を着て!」
どうして?
隙を見て翔太君を抱き締める。
「ひっ!」
翔太君には言ってなかったから話すけれど、私と優子は高校の同級生だ。
だからここへ来れたし、優子も私に用があった。
「初めて知ったな良いから早く離れて」
そして扉が勢い良く開き、由佳ちゃんが控えめに言って物凄い顔をしてこちらを見ていた。
「ちょ! 由佳!」
「何やってんのよおおおおおおおおおお!」




