凛華姫〜引き姫
白雪姫です
昔、あるお城にそれはそれはとても美しい王妃様がいたそうな。
王妃様は毎日のように自分の美貌に酔いしれ、質問をすればなんでも答えてくれる魔法の鏡にいつも話しかけていた。
「要するに痛い人だったわけね」
「黙んなさい! ていうかまだ出番じゃないわよ凛音!」
麗子王妃は凛華姫の継母であった。
「あれ、凛音がお姫様じゃないの?」
「私じゃ無理だってナレーションの方に行っちゃった」
「凛音ー!!」
こほん。えーと今日も懲りずに麗子王妃は鏡に向かって痛い自分をさらけ出していました。
「後で覚えておきなさいよ凛音。鏡よ鏡。この世で一番美しいのはだあれ?」
“それは王妃様にございます”
「桃李が鏡なの!?」
“うん”
「あ、ああそう。ま、まあいいわ」
麗子王妃は戸惑いながらも偉そうな雰囲気を出した。まあ元々偉いお家の娘ですがね。
数年後。凛華姫は可愛らしい女の子になりました。
「鏡よ鏡。この世で一番美しいのはだあれ?」
“それは凛華姫でございます”
「桃李が裏切った! あ、じゃないわ。あんな姫に私が負けるですって!? そんなこと許さないわ。狩人を呼びなさい!」
麗子王妃は自分より美しいと言われてしまった憎さから狩人に凛華姫を森に置き去りにするよう命じました。あら自分勝手。
「うっさい! ちゃんと仕事しなさい凛音!」
はいはい。置き去りにされた凛華姫は当分悲しみにくれましたがすぐにポジティブ思考に戻りお城に帰る道を歩いていました。まあすぐ疲れちゃったんですけどね。
「お腹が空いたわ。このままじゃ倒れてしまいそう」
華ちゃん棒読み。カンペ見てるし。まあいっか。
二日休まず歩いていたところで遂に凛華姫は倒れてしまいました。
「お、お水……お腹が空いて、力が出ない」
どこのアンパンヒーローだ。パタリと意識を失ってしまった凛華姫を見つけたのは七人の森に住む小人でした。はい小人さん達カモーン。
「凛音のテンションが可笑しい」
「いつも通りだよ」
「確かに」
おいこらどういう意味だ双子共。
えーと小人達を紹介しましょう。上からマサ、アイ、ヨシ、ルナ、ウリ、マコです。正宗兄さんと吉宗兄さん小人似合わなくない? そしてウリは無理がない?
「まあ仕方ないよ凛音。先続けて」
あ、はいわかりました。ていうか腹括ってんのね兄さん。
小人達は急いで凛華姫を自分達の家へ運びました。はいそこーちゃっかりお尻触らない。お姉ちゃんが許しませんよ。
そのまま三日間寝込んでしまった凛華姫を七人の小人は必死で看病しました。その甲斐あってか凛華姫は後遺症も残らず森で元気に皆と暮らしました。割愛。
一年後。お城にて。
「鏡よ鏡。この世で一番美しいのはだあれ? そして私はいつまでこれを言っていればいいの?」
まず王妃という身分が気に入らない麗子王妃は桃李鏡に向かってぼやきました。
「もう少し我慢しておけば王子様が断罪してくれるよ。辛抱」
「あ、断罪されるんだっけ。やだなー熱した鉄の靴で踊らされるの」
多分引き姫の場合童話だから手加減するよ。王子様次第だと思うけど。
「ってそれじゃないのよ。さっさと話を展開させなきゃいけないから桃李、美しい人教えなさい」
「凛華姫」
「軽いわね。あ、そうだ。り、凛華姫はまだ生きてるというの? 折角狩人に森に置き去りにするよう頼んだというのにっ! あの役立たず! いいわ。私が殺してやる」
麗子王妃は家来に命じて凛華姫の居場所を特定し、その間に林檎に毒を仕込みました。何も知らない小人達と凛華姫のもとにお婆さんに変装した麗子王妃が忍び寄る。
「こんにちは可愛らしいお嬢さん。林檎を一ついかが?」
「まあなんて美味しそうな林檎なんでしょう。それでは早速」
シャクリと音をさせながら凛華姫は林檎を齧りました――よく考えてみたらお姫様が丸齧りってどうよ――麗子王妃は密かにほくそ笑みました。だってその林檎には毒が入っているのだから。
「うっ」
パタリと凛華姫は倒れ、動かなくなってしまいました。
事が済んだ麗子王妃はバレないように足早に城へ帰ってしまいました。
小人達は家の前で事切れた凛華姫を見て嘆きました。しかしそのままにもしておけないので悲しみながらお葬式の準備をします。
凛華姫は棺に入れられ沢山の花を添えられました。そんな所へたまたま通りかかった隣国の王子様がやってきます。
王子様は若々しいのに儚く散ってしまった姫を憐れみました――これどうやってキスまで持ち込むの?
うーんと……月海?
「毒は王子様のキスで浄化されます。どうか凛華姫をお救いください」
超強引じゃねーか。話は進むけどさ。え、王子様って誰と? そりゃあ勿論透さんですよ。透王子様、さあキスしちゃってくださ……。
「お前はなんでそう無関心なんだよ!」
ルナに殴られた。えーだって早く終わらせたいもん。
「透さんはあんたの婚約者でしょうが! わかったらほら、凛華姫と交代!」
あーれー……って華ちゃん起きちゃ駄目でしょうが。
「凛華、ナレーション」
「はーい」
音ちゃん、じゃなかった。透王子様は凛音姫にキスをしました。すると凛音姫の瞼がピクリと動き、目を覚ましました。
「華ちゃんが棒読みだったのってナレーション役だったからなんだ」
「そういうこと」
透王子様と凛音姫はたちまち恋に落ち、王子様の国で結婚しました。勿論小人達も大喜びです。
「恋に落ちるの早くないですかね」
「童話だから良いんだよ凛音」
「はぁ。あ、ところで麗子王妃は?」
「熱した鉄の靴は流石にね」
「じゃあ放置?」
「そうだね」
ちなみにお話がハッピーエンドに終わったので麗子王妃は普通に小人達とお茶してます。
「最後まで王妃を貫いてよ姉さん!」
「だって城の中退屈なんだもの」
「桃李ちゃんは置いてきちゃったのぉ? 麗子ちゃぁん」
「あ」
「忘れてたんかい」
「ごめんね桃李ぃ」
引き姫版白雪姫はめでたしめでたしで終わりましたとさ。
「強引ね華ちゃん」
えへ。