性格と能力(前編)
「あの、もしかして能力者なんですか?」
「そうだが。ムッ、その言いよう、お前は俺をどんな目で見ていたっていうんだ? もしや事務員の一人だと思っていたとか?」
「いえ、そういうふうにも見えませんけど、ただ確証がなかったものですから。能力者じゃなくてもUWで働いている人は何人もいますからね。話では能力者のほうが圧倒的に少ないとか…」
「その通り。俺たちはこの業界ではレアな存在だよ。人知を超えた存在とでもいうべきか。こう、人とは違うオーラのようなものが出ているものだ。それを見落とすあたり、まだまだ新人だな」
体から湯気でも立つのか、体表が光に包まれているのか、目を凝らしてみても土方の言うオーラなるものなど滋には全く見えない。滋の才能の問題なのか、それともただそれが土方の戯れ言なのかは不明である。よく思い出してみると、滋は同じ隊の桐生や弥生に対してもオーラなるものなど目にしたことがなかった。彼はつい苦笑いをしてしまう。
「なんだ? その苦笑いは。お前、いま少し俺のことを馬鹿にしたな?」
「いえいえ、そんなつもりじゃ… あの、この携帯、もしかして壊れてしまったんですかね?」
「む、急に話を変えて… いや、ただ電池が切れてしまっただけだと思う。冷えると電池の消耗が激しくなるからな。いや、その件については悪かった」
「確かに異常に冷たいですけど、これが能力なんですか? もしかして氷を操るとか?」
「…いや、氷を操るとまではいかない。温度を急激に下げることができるだけだ」
「はぁ…」
「なんだ? その生ぬるい返事は。何か文句でもあるというのか? もしかして期待外れだとか言うんじゃないだろうな?」
「いえ、そんなことは全くないですけど…」
「けど? けど、なんだ? やはり見くびっているな? これでも摂氏零度以下には冷やせるんだ、水くらいなら凍らすことができる」
滋としても別に見くびっている訳でも馬鹿にしている訳でもない。ただ、その温度を下げる能力では、先ほど土方が口にしていた弥生を助けたというエピーソドとなかなか結びつかないのである。
「あの、それだと弥生さんの能力と反対なんですね」
苦し紛れに話を逸らしてみる。すると、土方のほうもそれで機嫌を取り戻してこう言う。
「そうなんだよ。俺と彼女とでは互いに真逆の能力。似た者同士がいいカップルになると言う奴もいるが、それは嘘だね。まったく違うからこそ、お互いの欠けた部分を埋め合わせられる、それこそがベストカップルというものだろう。そう、彼女の行き過ぎた熱を下げてやれるのも俺だけなんだよ」
最後の一言には滋の歯も浮く。おそらく土方の性根はロックで軟派である。先ほどから何かと胡散臭く思えていたが、おそらくそれが所以である。これまた変な人に出会ったしまったものだと今更のように思い、滋は本日何度目かの苦笑をした。ただ、そうかといって嫌いでもない。特に無粋で野暮な彼だけに、どんな者であれ、恋する人には口を挟み、手を差し伸べてやりたくなる。
「弥生さんを止められるか。確かに一理あるかも…」
「そうだろう。お前とは話が合いそうだな。さすがに能力者、見えているものが違う」
「僕の携帯電話の電池が少なかったためにこのときの機会を逃すことになってしまって申し訳ないです」
「いや、なに、そんなものは俺の責任でもある。ちょっと興奮しすぎて能力を知らず知らず発動してしまったんだ」
「それって、まだまだコントロールがうまくできていないということですか?」
「コントロールというより感情の問題だな。はしゃぐとついついといったところだ」