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UW<第七話>夏の氷編  作者: 津梅
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弥生に会いに来た男(後編)

 ここまでくるとお節介だが、滋の無粋は天賦の馬鹿。面白半分で他人の恋路に首を突っ込んでいるのとは違い、無意識でやっているから余計に性質が悪い。とはいえ、土方も自信とは裏腹に弥生との接触の手段がほぼ皆無とくる。この助け舟を断る理屈もなく、


「それはいい! お前、なかなかいい奴だな!」


 と、半狂乱に喜んで滋の肩をバシバシと叩いた。まだ電話を掛ける前から恵比寿顔である。ロックな格好をしていても、この相好の崩れ様はまるで田舎の大学生である。今更だが、弥生の異性の顔の好みを滋は知らない。この土方が彼女のお眼鏡に適うかどうかもわからない。この恵比寿顔を見ていると、彼女の好みではない気もしてくる。まあ、好む、好まないは本人同士の問題。滋の無粋なお節介は、男女の機会を作ってやって満足するもので、その後の結果に必要以上の頓着はなかったりする。まるで無意識の悪である。


「あ、弥生さんですか? 何かUWの人で弥生さんと話をしたいという人がいるんですけど、いま大丈夫ですか?」


 滋は弥生に電話を掛け、仕事を絡めて適当な接点を作ろうとする。繋いでしまえば、あとは土方の責任、器量、甲斐性に預けてしまう。仕事として繋いだ話が恋の話と移り、それがたとえ上手くいかなくとも、滋が責められる所以はそうない。自分の保身の計算をも無意識でやってしまっているのだから、滋の性格は恐ろしいものである。


「UWの人? それってどんな人?」


「土方っていう東海方面の人だと言っているんですけど、知ってます?」


「土方? 東海地区? う~ん、知らないけど」


「前に一緒に仕事をしたこともあるって話ですけど」


「それ本当? 業界で一緒に仕事をしたら大概忘れないんだけど。特に能力者なら。でも事務員の人だと、忘れることもあるかな~ それで、その人はどんな要件なの? 仕事の話? 仕事の話なら誠司にまず行くと思うけど」


「本人がすぐ傍にいるので直接聞いてみます?」


「え、そうなの? せっかくのオフなのに… わかったわ、それじゃちょっとだけ代わって」


 いざ電話を渡そうとすると、土方の高揚が空気の振動のように感じ取れた。ウキウキとして、緊張か武者震いか、電話を受け取る前に合掌するその指先が震えている。一念を込めて電話を受け取り、恐る恐る自分の耳に運び、自分の名前を告げようとすると… しかしそこでピィーの音。


「あれ、切れたんですか?」


 滋も目を丸くする。その目で見つめる土方の顔はみるみる青ざめていく。


「しまった!」


 土方はそう叫ぶと自責で項垂れた。滋としては訳がわからない。無言で携帯電話を返されるが、不思議なことにその電話が冷凍庫にでも入れて置いた後のように異常に冷たかった。見てみると電池も切れていた。



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