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UW<第七話>夏の氷編  作者: 津梅
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我慢できずに土方(前編)

 面白くないのは秘かに駐車場の傍の林の中から様子を窺っていた土方で、弥生と桐生の口喧嘩も、弥生が怒って桐生の尻に火をつけてやるのも、恋人同士がじゃれ合っているように見えてしまう。超えるべき敵はヴァイスだと思っていたのは早合点、一番に平塚弥生と仲がいいのは桐生誠司なのではと、胸をもやもやとさせていた。弥生たちは別に仲が良くてじゃれ合っているわけでもない。彼女は本気でお仕置きをしてやらねば気が済まないと桐生を罵り、攻撃している。土方は嫉妬に盲目となり、それすら見抜けずに結局彼らの前に躍りでる。


「お… お前ら、人の気も知らないで、俺の前でイチャイチャ、イチャイチャするんじゃない!」


 はて、突如現れ、頓珍漢な嫉妬をむき出しにする土方に、桐生たちは何が何だか、藪から棒の青天の霹靂、顔に頭に疑問符が浮かんで、文句も炎も忘れ、誰もが固まって視線を彼に一点集中させてしまう。まるで呆けたように見つめてしまって、燃えている弥生の手の上の炎が桐生の背中に静かに引火した。


「アッチィ!」


「あ、ごめん」


 弥生は口で謝るが気持ちはない。それがまた桐生の文句を引き出して、ああだ、こうだと二人は口喧嘩を再開させた。そういうのをやめろと登場した土方にはその口喧嘩が目にうるさく、耳にうるさく、嫉妬がますます膨れ上がる。


「だからそれをやめろって言っているんだよ!」


 一人勝手に躍起になる土方を滋もようやく彼だと気づいて今更になってその名を呼んだ。先日ここで会っている日野原も等しく土方と気づくが、髪型が違うので半信半疑である。服装は二日前と同じなのに、水から上がったように髪がオールバックになっている。それも寝癖のように所々跳ねている。海から上がった時分、滋はそれと同じ髪型の土方を目にしているが、あのときは悲壮感を顔に浮かべて生気がなかったものが、いまは顔に力が入り、精力が漲っている。


「あれが土方か?」


 背中の炎を払い消し、桐生は滋に訊ねた。


「うん、間違いなく…」


「あいつがここにいるってことは、要するにこの氷漬けの犯人がやっぱりあいつだってことだよな?」


 よく見ると土方はその腕に「あちら側」の洞穴で遭遇した賊たちが手にしていた木箱を抱えていた。滋にはただそれだけで、土方が今回何をして、彼の体がいまどういう状況にあるのか想像ができた。そうして悲しくなる。何故だと訴えたくなる。


「おい、お前。いくら同じUWでも悪戯にもほどってものがあるぞ。この氷結、お前の仕業だな? そうしてお前がこんなことをできるってことは薬をやったな? 目が危ないぞ」


「俺のことはどうでもいい! 質問に答えてもらう。お前はそこの女性とどういう関係だ!」


 土方は桐生を指さし、弥生を指さした。言うのも早口なら腕の動きも忙しない。


「こいつとの関係? 部下と上司だけど、何か?」


 桐生は戸惑いもなくそう言いきった。


「そんなことはわかっているんだよ! それ以外の、何かこう、特別な繋がりのようなものはないのかと聞いているんだよ!」


「ほかにか? そうだな、同じ歳、同じ大学、同じ基地、住所が同じ県内。こんなもんだろう」


 そんなものは書類上の共通点で特別と言えるような繋がりではない。いまの土方は、それでも自分にない項目があれば、それだけで羨ましくなる。そうしてそれらも許せんと口にする。許せんとしながら、


「そんなものを聞いている訳じゃない!」


 と、こう吠える。どのような答えを求めて先ほどから質問しているのか自らははっきりとさせず、そぐわないと怒ってみせるこの理不尽。桐生も、その理不尽を理不尽と理解しながら、つまりは土方が何を聞きたいのかうすうす感づいていながら、相手の期待に応えない。



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