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UW<第七話>夏の氷編  作者: 津梅
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音信不通の土方(前編)

 土方と共に自分たちの力のみで「あちら側」より脱出できてから二日後の朝、朝食も済ませて大学へと向かおうとする佐久間滋のもとに桐生誠司より電話がある。


「あの土方って能力者、陸に上がってから、すぐに帰ったって言ってたよな? それ本当か?」


「え? どういうこと? 僕が誠司に連絡を入れてすぐに確かにそう言って帰って行ったけど」


「いや、東海第二の人が言うには、あいつのアパートはあそこからそんなに離れていないところにあるんだけど、あの日から連絡が取れていないらしい。部屋に行っても留守なんだとさ。加えて昨日、あの近辺の空き地で高さ五メートルの氷柱が一晩のうちに現れたって話もあって、それが倒れて、一人怪我人も出たそうだ。大した怪我じゃないらしいけど、あいつがいないのと何か関係があるのかもしれないと東海第二の人たちも心配しているんだよ」


「氷柱? 氷の塊ってことだよね。でも、土方さんの能力は温度を下げるっていう能力だったから、そんな五メートルもの氷の柱を作れるのかなって、ちょっと疑問に思うけど」


「ふ~ん。まあ、人間どこで才能が開花するかなんて誰にもわからないからな、一応その写真が基地にも届いているんで、いまから添付してメールで送ってやる。ちょっと確認してみろ」


 いったん切られ、すぐにメールを送信された。添付された画像は二枚であった。一枚目には成人男性の胴回りほどある太さの背の高い氷柱が一本、畑に囲まれた空き地の真ん中に降って地面に突き刺さったかのように、やや斜めに立っている。陽光の赤さから早朝に撮られたものだと思われる。二枚目には空き地の真ん中で氷柱が倒れている様が写っている。これを発見したのも軽い怪我をしたのも近所の住民で、マスコミも駆けつけているため処理は警察が行っているという。UWではこれが所謂能力者や「あちら側」の住人が関わる仕業なのか、それともどこかの氷像彫刻家のパフォーマンスなのか調査の途中にあるとのことだった。発見者や近所の住民の弁では、夜中にこんな大きなものを作ったり運んだりしている様子はなかったというから、普通の人間が一晩でこれを作り上げたというよりは、少なからず能力者が関わっていると見る方が自然であると滋も考える。とはいえ、それを土方がその低温能力でやってみせたというのには無理がある。仮にそうだとしてあれこれその方法、手段を考えてみても、できなくはないにしても、それこそ氷像彫刻家が機械と道具を使って作り上げるのとなんら変わりがない時間と労力が必要であると思われた。一晩で近所の住民に知られず作るというのは、ほぼ不可能であろう。それまでの彼の能力なら…


 胸に引っ掛かるものがあって、滋は大学へと行くのもやめて基地へと向かった。桐生はいるが、さすがに弥生はいない。写真を見た感想を桐生に話すと、東海第二の人たちも同じような考えであるという。つまり、土方一人でどうにか出来ると誰も思っていないようだった。


 陸に上がって先に一人で帰って行ったときの様子も説明しろと言うので滋は思い出す。その顔に精気が欠けて、助かった後でも危機を切り抜けたという充足感が皆無に等しかった。無気力で自信を喪失したようで、それでいて、いざ帰るときはそそくさと足早で、何か用事があるようであった。そのように思い出した滋は、「あちら側」で土方と話していたその場限りの底力について、桐生に意見を求めた。


「そんな力を頭に思い浮かべて、修行を重ねていると、使えるようになることも、不可能でもないと思うけどね。実際、雪山から転げ落ちたときに氷結能力を使えたって言っているなら、可能性がないとは言えないね。でも、それができたとして、どうして連絡がつかないのか、家にも戻っていないのか、その辺りは疑問が残るけどね」と彼は答えた。


 考えられる可能性として、一つに、彼の才能を第三者の能力者によって開花され、その人物に取り込まれているのかもしれない。その場合、自分の能力のレベルを上げてくれた人物に自発的に従っているのか、それとも催眠術や能力による拘束を受けているのか、その違いによって事の重みも変わってくる。二つ目に考えられることは、自力で自分の能力をレベルアップさせられたということである。あの氷柱がその能力の実験の一つであると考えれば話が合う。そうしてまだ修行の段階で、どこかに篭もって能力の精度を高めているのかもしれない。どこでどのようにして自分の能力が開花するのかわからないということがこの仮定の前提となるが、滋はここでふと危ういことを想像する。その想像は土方という人間の弱さを疑うに等しく、自分の無粋に従って恋の応援などと調子に乗り、面倒に巻き込まれながらも悪い人ではないと決め込んでいた、それまでの信頼を放棄するに等しかった。そのため、そんなものは邪推であると、あまり考えにもしたくない。当然、口にするのも鬱なものである。だが、その可能性がないというだけではなく、かなり高い確率でそうではないかと疑えてしまうから頭から捨て去ることもできない。自分の胸の内だけに閉まっておくことも気持ちが悪かった。


「誠司… 魔法力増強剤って、『こちら側』でも簡単に手に入るものなの?」


 滋は、遠まわしにそんな聞き方をする。



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