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UW<第七話>夏の氷編  作者: 津梅
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磯臭い移動中の報告(後編)

「お前も、あいつにだいぶ目をかけられているな」


「あの人、どういう目で僕らのことを見ているんだろ? この文面だとまるで親心だよね」


「うん? そりゃ、よく交流や取引のある能力者がより仕事ができるようになれば、たとえ同じ所属じゃないにしても助かるってものだろ。仕事のためだよ。そうして最終的には自分のためだよ。情けは人の為ならずって、あれと同じようなものだな」


「ほんと、プロだね、あの人。『あちら側』の人間だから『こちら側』の僕なんかが想像できるような生い立ちをしているとは到底思えないけど、でも、ほんと、つくづく何者でどういう生まれをしてきたんだろうって思うよ。誠司は、そのあたり詳しく知っているの?」


「俺か? 知っているといえば知っているけど、それが本当のことかどうかはよくわからないからな、あいつの場合。あいつの口から聞かされていたことも証拠というかデータが残っているわけでもないしね。誰もがあいつのことを不思議がるのは当然だと思うけど、もっとアンダーグランドな奴は、どちらの世界にもいるものだから、あいつなんてのはまだ知られた方だと思うぜ。完全私益のために働いているという訳でもないし、何だかんだと『阿国』と繋がっていたりするしね」


「誠司は、ヴァイスさんとはいつ頃から知り合いって言ってたっけ?」


「中学からだよ。名前くらいなら基地に入ってから何度となく耳にしていたけど。仕事でも何度か会ったかな? そう考えると小学校のころから知っているな。あいつ、俺たちが中学の時に『こちら側』の中学で生徒として潜り込んでいた時期もあったんだぜ。俺たちと同じ学年で」


「え? そうなの? ヴァイスさんって、僕たちと同じ歳だったの?」


「いや、多分違う。年齢は不詳だな。むかしコールドスリープを体験したことがあるなんてことも言っていたから、はっきり言って何年前に生まれているのかわからない。でも、眠っていた時期を差し引くと肉体的な年齢は俺たちと変わらないかもしれないな。実際、顔は若いし、全然動けるし」


「やっぱり、謎な人だね。僕たちとは根本的に違うようだし」


「いや、あまり変わらないだろう。俺くらいの身体能力があって、おまけにプレッシャーも放てて、確かに戦闘能力は高いし、仕事もできる。でも、そんなもの才能だけというよりは本人の努力と、あとは経験だろう。時間をかけて出来上がった力って奴だよ。お前だってこれからいくらでも伸びると考えると、そういう点ではヴァイスと何も変わらない。もっとも、生半可な努力と経験じゃないと思うけど。お前との違いなんてその経験の差、そんなものだろ。その点で言えば、お前と俺とも全然違う。弥生とも違う。まだまだ新人だからそう思うだけだし、新人なんだからそれぐらい思ってくれて、むしろ健全ってものかな。変に自信過剰なほうが俺には少し危ないと思うしね」


 そう聞いて滋は土方のことを思い浮かべた。土方がそうとは言わないが、直感が素直な所も滋の才である。


「ヴァイスさんって、恋人とかいるのかな? 弥生さんとどういう関係なんだろう」


 忘れたときにフッと出てくるその無粋も彼の才である。


「それに関してはまったく知らないねぇ。弥生が二十歳過ぎても中学生みたいな態度をとっているだけだと思うけどね。ヴァイスがそれを適当にあしらっているだけなんじゃないの?」


「そんなあっさりと言い捨てられても面白くないというか… 土方さんもそれに嫉妬して今回の無茶を働いたようなものなんだし」


「へぇ、そいつはまた… 弥生も意外とモテるんだな。容姿以外何がいいのかわからないけどな。その土方っていうのも相当な物好きだな」


「容姿から入るのは普通のことだと思うけど… それに好みは人それぞれだから…」


「その言い方だと、お前も弥生の性格を良しとは思っていないな」


「そんな、弥生さんはいい人だよ。そういう聞き方をする誠司のほうがひねくれているんだよ」


「それは正解かな」


「土方さん、でも、弥生さんとは合わないかもしれないんだけどね。それこそ性格的な問題で。何か根本的なところで間違っているというか、ヴァイスさんには勝てないというか、考え方を変えないと恋の努力は実らないかもしれない」


「お前、それとわかっていながら世話を焼こうなんて、ホント、残酷なやつだな。いや、恐ろしい…」


 そんなつもりはない。でも滋は否定もしなかった。



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