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UW<第七話>夏の氷編  作者: 津梅
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磯臭い移動中の報告(前編)

 桐生誠司が車で迎えに来てくれたのは夜の十時を過ぎた頃だった。海から拾ってくれた漁師に一礼、関わった静岡の警察にも一礼、時同じくして駆けつけたUW東海第二基地の副所長という茶のスーツを着たモヤシのような体つきの、一見頼りないメガネをかけた中年の男にも、滋は挨拶をする。その副所長に、土方はどこにいるかと訊ねられた。


「あれ? 陸に上がった時に家も近いからって先に帰っていきましたよ」


「あいつ、また勝手なことをして…」


 土方の思い上がりからの身勝手は、東海第二基地としても珍しいものではないそうである。それでいて口ばかりで実力が伴わないから、ついでに言うと根性が座っているわけでもないものだから、それまで大した事件を起こしたわけではないにしても、今回の面倒もきっと土方に非があると思って、いや申し訳ないと先手を打って副所長は謝りだす。まったくその通りのいい迷惑であったが、滋は目上の人に頭を下げられることに慣れていないので、却って卑屈になって、いやいや申し訳ないと副所長よりも深く頭を下げた。すると副所長もさらに深く頭を下げるので、いやいや、いやいやと互いに口にし合いながら競うようにより深く頭を下げ、そのまま平伏するのではと思ったところで、共に上目づかいで窺い見るように顔を上げて、これまた共に気まずくなって苦笑しあった。傍から見ていた桐生が、


「二人ともまるで馬鹿ですよ」


 と言ったところでやめにして、今後の連絡と報告を確認し合ってまた一礼、それではとそれぞれの帰路についた。


 桐生を待っている間に滋の頭や体はタオルで拭いて衣服も随分と乾いたが、車中、磯臭いと文句を言われる。


「お前、よく助かったな。結構高いところから落ちたんだろ? 落ちてからも結界を張って溺れずに済んだって話じゃないか」


「うん、僕も奇跡だったと思う。能力を使ったのも咄嗟だったし、おかげで腕はまだ痛いけど、土方さんも無事だったし…」


「災難だったと思うけど、まあ、未熟な者同士『あちら側』に入って行って戻ってこれたんだ、いい経験になったと思って、その土方って奴のことも恨むんじゃないぞ」


「うん、大丈夫。でも、もう用もないのに行きたいとは思わない。いきなり環境の違うところに放り込まれると、それだけで死んでしまいそうだった」


「『あちら側』の南半球に飛ばされたんだってな。夏服で雪山。お前ら、運がいいのか悪いのか」


「ヴァイスさん、なんであんなところに繋がる『穴』を開けたんだろ。やっぱり薬の製造工場が近くにあったのかな?」


「いや、意外とただの偶然だったのかもしれないぜ。あいつだって見つけて広げた『穴』の先がどこに繋がっているかコントロールできているわけじゃないからな」


「まったくできないものなの?」


「いや、まったくっていうわけでもないけどな。大体はわかるはずだ。普通、この日本から開けると地理的に『あちら側』では『阿国』ってところに繋がるもんなんだけど、大地震のような地殻変動が起きたりすると一時的にしばらく変なところに飛ぶことがあるらしい。まあ、そういうことをわかってたという点では狙ってその雪山方面に行ったとも言えるだろうけど、そんなのは本人に聞いてみないとわからないよ」


「ヴァイスさんとは連絡取れた?」


「いや、まだだ。お前たちが無事『こちら側に』に自力で戻って来れたと、それだけはメールで伝えたけどね」


 そんなことを話していると、ちょうど桐生の携帯電話にヴァイスからメールが届く。運転している桐生に代わって滋が読んでみる。どうやらヴァイスはヴァイスであの雪山の近くで一つ魔法力増強剤の製造工場を発見できたそうである。その国に報告して軍による制圧が始まったと書いてある。滋たちが無事に帰れたことについては、面倒が一つ減っただけではなく、彼らの成長を感じ取れて喜ばしいとも記してある。



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