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UW<第七話>夏の氷編  作者: 津梅
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素人たちの潜入(前編)

 木の陰から観察すること数分。二人、いや、三人の賊らしき者がいると確認する。それらが動き出すと、こっそりと追いかけて行く。やはり洞穴が見えてくる。入り口が直径三、四メートルはあろう、なかなか大きな横穴である。奥もどこまで続いているかわからず、外から「穴」が見えることもなかった。入り口の傍にはさらに見張りが一人立っている。三人は見張りに二言、三言話しかけて中へと入っていく。一口に洞穴といってもどれほどの規模なのか、賊が何人いるのか知れない。自分たち二人だけでは調査どころか中に入ることすらできそうにないと思えた。ただ、こう弱気なのは滋ばかりである。土方は前向き且つ楽天的に、


「よし、とりあえずあいつを気絶させてしまえれば…」


 と口にして、それから独り言のように、ああして、こうしてと、次の一手、またその次の一手をシミュレートした。とはいえ実力なしの妄想の類であるから、側で耳にする滋にはとてもそれら作戦が通用するとも思えない。聞けば聞くほど危なかしくって顔色が青くなる。土方が考える手順とは以下の通りである。


 まず初めに見張りを気絶させる。彼らの能力が戦闘に不向きなら、もちろんその手段は石か棒で頭を叩きつけるという力技だ。それも土方の頭の中では一撃で気絶させられ、中にいるほかの賊たちにも気づかれない。随分と甘い考えである。


 続いて中へと潜入、の予定。洞穴は相当に奥が深く、中は常に薄暗いと想定して闇にまぎれて忍び足。うろうろしている賊がいればそれらも一人ひとり気絶させ、「穴」を探すという。結界以外普通の大学生と変わらない滋の身体能力で、賊に見つからずに忍び込むなんてことは無理無謀。それを易々と口にできる土方にしたって、滋の目にはどう見ても自分と同じで特殊な訓練を受けているとも思えない。


 いま気づくことだが、自分たちが能力者というだけでUWの隊員に加えられてはいるものの、超能力以外の軍隊のような戦闘技術、潜入技術、自己完結能力などは、からっきし駄目である。同じ基地の一般隊員である田中や鈴木のほうが、それら能力に長けて仕事ができる。まるで自分たちは素人、本当は能力者の監視のために、お飾りでUWの隊員にされているのかもしれないと考える。だからといって、それが悪いことだとも、恨めしく思うことも、自分を卑屈に見て鬱に浸ることも滋はしない。能力者として、そして隊員として十分すぎるほどの活躍をしている同じ能力者の桐生隊長を考えると、要は自分たちがまだまだ経験不足で修行も訓練も足りないだけだと割り切れる。そして後々成長すればよろしいと呑気に考える。彼もまた、実は土方のことを言えないくらい前向きで、どこか楽観的思考をした人間である。


「おい、佐久間、いざとなったらお前が結界というのを張って俺を守ってほしいと思っているけど、お前の能力の性能はどれぐらいなんだ? 銃弾くらいなら跳ね返すのか?」


「どこまで強い銃弾なのかはわかりませんけど、一般的なものなら寄せ付けません」


「ということは結界というのは物理攻撃に強い能力ということだな」


「誰だったかが『透明の壁』っていうふうに例えていたけど、そうですね。あの逆に、対物理攻撃以外の結界能力っていうのがあるんですか?」


「いや、知らん」


 さて、土方のプラン第三はこうである。もし賊に見つかって戦闘ということになれば、滋の結界で敵の銃弾を防御、奪った銃器を使って脅し、「穴」へと案内してもらう。その際、調査できずにこの世界から帰ることになったとしても、先ほどの老父の頼みや村の住人云々よりも、自分たちが逃げることを最優先させる。この点に関しては滋も異論はなかった。


 最後にもう一つ、独り言のように「薬」という言葉を土方は呟く。そうして、その単語を口にした途端に口ごもる。薬の何をどうするのかと聞き返しても、出てくる返事も言葉を濁してはっきりとしなかった。怪しい。それまで突飛で無茶な作戦に気を取られていたが、実はそれ以上に注意しなければならない事があるのではと、滋は目を細める。しつこく滋が問いだす前に土方も、


「案が決まれば即実行」


 そう仕切って、周りに手頃な石を探しに行く。幾つか見つけ、一つを滋に手渡し、見張りに投げるように言うと、自身は入り口付近に回り込んで待機した。まだまだ腑に落ちないことがあるが、仕方なく滋は石を投げる。見張りには到底届かず、随分と前に落ちた。音を耳にした見張りは警戒しながら近づいてくる。そこを土方が背後から強襲し、後頭部を掌ほどの石で殴打して倒してしまった。


「死んでいないですよね?」


「大丈夫だ… 多分…」



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