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UW<第七話>夏の氷編  作者: 津梅
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無計画男の無謀な成長願望(前編)

 悪い人ではないけれど、手前勝手な人だと割り切って土方を見れば、滋としても余計な鬱憤も意固地な邪推も抱かずにいられる。比べて当の土方は頑固に洞穴へと向かうと譲らず、そこにヴァイスもいるかもしれないと上手い言葉を添えて丸め込んでくる。結局、滋も調査の名目で出発することを受け入れた。心優しき老夫婦は止めても聞かない彼らを哀れに思うばかりでなく、何の動物か白の毛皮でできた防寒着に、ボロボロだが、かんじきのついた厚いブーツも与えてくれて、少し距離があるからと革袋に入った乾パンも手渡してくれた。無理はするな、無事を祈る、と励まして、ついでに村の人がいれば救出してくれと、ちゃっかり自分たちの要望も差し込んで、出発後、彼らの姿が見えなくなるまで見送るのであった。


 風もやみ、ぱらぱらと降っていた雪もやみ、太陽がやや高いところで雲と雲の間から顔を出す。老夫婦の話によればこちらの国ではまだ正午過ぎといったところで、日が沈むまで五時間はあるとのことであった。寒さも少し和らいで、積雪の量もそれほど多くないとわかると、雪山もすいすいと下る。一時間もしないうちに東の山の麓に差し掛かり、一度の休憩を挟んでさらに歩くこと二時間。爺様の手書きの地図によればこの辺りだというところで、前方の木々の間から人の話声が聞こえた。もちろん日本語ではない。おそらく噂の賊だと考え、滋はすぐにでも結界を発動できるように準備した。土方は、自分の能力では戦闘には不向きなため、これといって構えることもしない。大木の陰に隠れて様子を窺い、声の主が腰に剣を携えているのを目にして、今更になって武器がないことを後悔している。出る前に老夫婦が鉈を武器代わりに持たせようとしたが、二人はそれを断っていた。滋は結界があるからだが、土方はその滋への対抗意識から断っていた。土方は常に、何か計算があって動いているのではないのだろう。ほとんどが衝動的に動いていると、滋もその無計画に気づき始めた。


「あれが賊という奴だな。何人いるかわからないが、奴らがいるってことは、ここら辺で間違いないだろうな」


「土方さん、僕も今更聞いて申し訳ないんですけど、賊が何人いるかわからない洞穴にどうやって入っていって、中に『穴』があるか調べてくるつもりだったんですか?」


「うん? そんなものはそのときに考えればいいだろう。なんだ? そのことに何か文句があるっていうのか?」


「いえ、文句はないですけど… 僕も止めずについて来てしまったわけですから…」


「物事なんて、たいていそういうものだ。何でもかんでも想定通りに事を進めようとしても大概上手くいかないんだよ。そんなことを考えすぎて、いろんなチャンスを逃すくらいなら、すぐにでも行動に移す方が絶対に得策だろう。それに、洞穴がどんな状況かも知らなかったんだ。先にあれこれ考えても意味がない。加えてお前は結界を張れるんだろう? それに、あの老夫婦が武器に鉈を用意してくれたのも断っている。ということは相当に自分の能力に自信があるということだ。なら俺も守れて問題ないはずだ」


「自信があるわけじゃないですけど… でもよほどの攻撃じゃなければ守れます。それで、ここからはどうやって中へと侵入するんですか?」


 もちろんそれも、


「いまから考える」


 と、無計画であった。滋は堪らず溜息を漏らした。



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