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UW<第七話>夏の氷編  作者: 津梅
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雪中の迷子二人(後編)

 そこには、生地の厚い作務衣のような衣服の上に毛皮のベストを纏った老夫婦が住んでいた。目じりや頬、額、そして手、それらの皺を見、丸い腰を見ていると二人とも齢六十は超えていそうなものである。が、それは自分たちの住む世界の人間に例えた場合で、実際に幾つなのかは定かでない。部屋は小ぢんまりとしている。隅にある暖炉の前に案内され火を前にすると、滋も土方も涙が出そうになる。砂漠の中のオアシス、海底での酸素ボンベ、猛暑の中のかき氷等々、共に嬉しさのあまりそんな例えを次から次へと声にする。俄然、元気になった。老夫婦がさらに毛布と、生地の厚い衣服を用意してくれると、もはや夫婦をメシア扱いである。言葉はわからない、習慣だって違うかもしれないが、二人は目いっぱい深々と頭を下げて、土方などは、なんなら土下座でもしてくれようかと口から漏らす。それほどの感謝感激であった。


「おい、佐久間滋。お前はここが『こちら側』のどの辺りかわかるか?」


「いえ、わかりませんよ。『こちら側』には一度しか来たことがない上に、そのときも一日としていなかったですからね」


 壁に目をやると「こちら側」のものであろうセピア色の世界地図のようなものが額に入れ飾られてあるのを目にする。少し形は違うが、大陸の数や配置などは自分たちの住む世界のものと似ている。まじまじと眺めていると、婆様がカップに入ったスープを盆に載せて運んできてくれた。手渡しついでに地図を指さし、床を指さし、どうやらこの土地が地図でいえばこの辺りだと説明してくれた。その指がさす場所は自分たちの世界でいえばオーストラリア大陸の西の方であった。南半球なら、この季節、そりゃ寒い。スープを受け取りまた感謝。婆様もお辞儀が何を示しているのか理解してきたようで、彼女はにんまりと笑った。そのうち奥に引っ込んでいた爺様が両手いっぱいに書物を抱えて戻ってくる。古いものもあれば比較的新しいものもあり、印刷物もあれば手書きのものもあった。それらに目を落としては滋たちを見、また本に目をくれる、といったことを繰り返す。何を確認しているのかと開いた書物を覗いてみると、そこには様々な人物や衣服のイラストが描かれ、説明書きが添えられていた。おそらく顔や髪、背丈や体格、服装から自分たちがどこの国の人間であるのか調べているのである。なかなか該当するものがないのか、小首を捻って溜息交じりに唸っている。滋たちも一緒になってページを捲っていく。すると、そのうち漢字で「日本」と書かれた項目を発見する。見てみると丁髷に袴姿のイラストが描かれていた。どうやらその資料は随分と昔に書かれたもののようで、紙も黄ばんで角が破れたところが多々あった。


「これです、これです」


 随分と時代が違うとはいえ、別の世界で自国の説明書きを見つけると興奮してしまう。紙も突き破らん勢いで指さすと、爺様はそれを見てまた別の資料を引っ張り出してくる。それを頼りに、


「オヌシタチハ、日本人カ?」


 と、片言の日本語で聞いてきた。



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