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UW<第七話>夏の氷編  作者: 津梅
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雪中の迷子二人(前編)

 ヴァイスを追いかけるつもりで「穴」を抜けた土方だが、勢いよく飛び込んだ先は風の強い雪山であった。そのうえスキー場でもめったに見られないくらいの急斜面で、着雪するや前方回転、横回転、おまけに側転と三回転したと思うと、うつ伏せの格好でそのまま滑り落ちていった。ぐんぐんと加速して、そのうち目前に林が迫った。一本、二本と木々の間をすり抜け、咄嗟に伸ばした腕が運よく枝を掴み、無意識のうちに能力も発動。それも普段では温度を下げることしかできないものが、土壇場の底力で手と枝を氷結して離れないようにしてしまい、何とか滑り落ちることも止めた。体を起こしてみると、随分と下ったのか、この頃には傾斜も緩やかであった。眼下にはポツポツと家屋も見えた。安堵したと思うと、改めて寒かった。雪の降る山の中で夏の格好はない。靴も途中で脱げたようで片足がなかった。何の計画もなく飛び込んだのは失敗であった。ヴァイスの姿も勿論なかった。


 彼の能力がいくら触れているものの温度を下げることが出来るといっても、彼自身が寒さに強いわけではない。寒いものは寒い。こんな雪山で素肌を晒していれば凍傷や凍死にだってなり得る。暖を求めて急いで下ろうとすると、さて後方より叫び声とともに自分と同じようにうつ伏せのまま顔から滑り落ちてくる者がいる。それも前方に結界を張って、堆積する雪を押しのけ飛散させながら下ってくる。その勢いはまるで魚雷が突っ込んでくるかのようであった。そんなものが自分目掛けて真っ直ぐ向かってくるのだから、土方にしてみれば冗談ではない。大急ぎで走って斜面を下って逃げ出す。相手は木々すら押しのけ、時にへし折って迫ってくる。直撃直前で横に飛びのくと、間一髪のところで難を免れた。すれ違い様に佐久間滋だと土方も気付いた。


 一方、滋も土方の姿を確認する。よし無事だと他人の心配をするのはいいが、滑り続ける自分をどうやって止めるつもりなのか考えもなかった。「穴」に吸い込まれてから結界を張ったのは無意識の防衛反応である。何かを計算して発動させたわけでもない。滑りながら村か町か散在する民家を目にした頃に、人の家まで壊すと大問題だと、慌てて結界を解いた。そのときにはすでに傾斜も緩やかで、すぐに減速して止まれた。興奮でそれまで気づかなかったが、そのうち寒いと思い始める。こんな中で半袖のポロシャツ姿は狂人のすることであるとも思った。背後から声がするので振り返ると彼の名を呼びながら追いかけてくる土方の姿がある。


「土方さん、無事だったんですね?」


「当たり前だ。もう少しで人を轢き殺そうとしていた奴が聞く台詞じゃないだろう」


「すいません。あれはもうがむしゃらで… そんなことより、とりあえず下の民家を訪ねましょう。寒さで死にそうです」


「それは俺も同じだ。それまでの間、結界を張って寒さを防ぐことはできないのか?」


「僕の結界をドーム状にしてですか? いえ、急激な寒さは防ぐとこはできるんですけど、ここで張ったところで、結界で覆った中もすでに低い温度ですから、あまり変わらないと思います」


「頼りにならないな」


「すいません。土方さんの能力でどうにかならないんですか?」


「どうにかと言われてもどうにもならないな。寒いのをさらに寒くするだけだからな」


「はぁ、確かにもっともですね」


「こういうとき平塚弥生が…」


「弥生さんがいれば…」


 二人は口を揃えてそう言う。以前に滋は、弥生の火球放出の能力を破壊ばかりで戦闘以外に使い道がないと思ったこともあるが、撤回である。とはいえ、ない物ねだりで暖はとれない。二人して一軒のドーム型の家屋の前まで走ると、身を縮めながら木製の扉を叩いて助けを乞うた。共に「こちら側」の言語が何一つ駄目なものだから、日本語でお願いする。それでも出てこないと泣き落としのように縋る。それでも出てこないと土方などは態度を豹変して怒り狂ったように喚き出す。しかし、それでも誰も出てこない。この家は留守かと思って辺りを見回して、少し離れたところで等しくドーム型の屋根をした別の建物を見つけ、そこに駆ける。変わらず扉の前で日本語で助けを求めると、ここではすんなり人が出てきてくれた。しかも、彼らの格好を見るなり中へと招き入れてくれた。



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