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UW<第七話>夏の氷編  作者: 津梅
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対抗意識の無謀(後編)

「え? え? 土方さん! すぐ戻るって、『穴』が閉じたら次いつ開くかわからないんですよ!」


 そんな声も届かない。滋が「穴」を覗き込んでみると、雪が積もる傾斜三十度以上はあろう、ずっと続く下り坂が見える。転げ落ちたか、すでに土方の姿もない。


「どうしましょう! 日野原さん! 土方さん、『あちら側』で『迷子』になってしまいましたよ!」


 「穴」から顔を抜いた滋は喚くように言った。


「私に言われても、あなたのほうが先輩なんだし、私は事務員なんだし、わかるわけがないじゃない!」


 新人同士ではおたおた、おろおろ判断も下せない。そうしている間にも、


「滋君、『穴』が小さくなっていく!」


「ああ! 拙い!」


 すでに直径一メートルもない。もはや人が通ることも難しくなってきた「穴」の中心で滋はがむしゃらに結界を張った。すると、奇跡的に萎みの進行が止まって「穴」をその大きさで維持できた。


「やった!」


 それでも結界が圧迫されて気を抜けばすぐに萎み切ってしまいそうである。わぁわぁとやかましく慌てふためくことに変わりなければ、それ以上どうするとも決められない。日野原は即座に基地へと駆け込んで、村田に助けを求めて「穴」のもとへと連れてくる。が、何が起きたのかと問うても、焦る彼らの説明は共に早口過ぎて、そのうえ単語ばかりを放り投げて、説明にならない。落ち着け、ゆっくり喋れ、とりあえず深呼吸しろ、そう宥めてようやく文章を導き出せた。


「すぐに東海第二のほうに連絡を入れる。佐久間君はそのまま維持、絵美はすぐに誠司に連絡するんだ」


 指示をもらうと日野原もすぐに動く。携帯電話のキーを押す速さも正確さも普段ではあり得ないレベルの高さであった。土壇場で力を発揮できるのは彼女の能力の発動の仕方と似ている。いっそ、彼女の能力で過去に戻れれば土方の暴走にも似た行動を止められただろう。ただ、恋愛ごとが関わらないと発動しない変てこな才能だけに、頼みにもできない。桐生に連絡がつくと、弥生に気があるという件は抜いて土方のことといま起きたことを簡潔に説明した。


「ふ~ん、また面倒な奴が来たもんだな。いいよ、ヴァイスに連絡を入れておくから。一応、『穴』は維持してほしいけど、限界が来たと思ったら『穴』の維持もいいや。ときどき『穴』の消え際で恐ろしく吸引する時があるから、あまり無理はするなと言っておいて。とりあえず俺も今からそっちに向かうよ」


 わたわたと喋る日野原に比べて桐生は随分と余裕がある。いや、ゆったりまったりしたその声から、おそらく寝起きである。日野原も少し冷静になる。いま桐生に言われたことをそのまま滋に伝えてやると、


「日野原さん! いま、もの凄く結界が押し潰されそうなんですけど、これがその恐ろしく吸引ってことですかぁ!」


 と、返ってくる。どうやら現象はすでに始まっていた。


「ちょっと! 滋君、大丈夫?!」


「大丈夫じゃないです!」


 結界を張る滋の腕が「穴」の奥へと引き込まれたと思うと、彼の体が宙に浮き、掃除機で吸われるようにその身すべてが吸い込まれていった。あっという間に「穴」もそのまま滋とともに消えてしまった。


 それから十五分と掛からないうちに、バイクに跨って桐生がやってくる。クラッシュし過ぎでただ破れているとしか見えないだらしなく大穴があいたデニムに、裾がこれまたボロボロのTシャツを併せたその服装はお洒落なのか不行状なのか、緊張感とはまるで無縁で、ヘルメットを脱ぎながら発した第一声も、


「ああ、眠たい。ほんと、休ませてくれないね」


「桐生君、どうしよう…」


「どうするも何も、俺たちだけじゃどうしようもないからな。ヴァイスに連絡は入れたから。滋たちを見つけ次第届けてくれると思うけど、それまでどう過ごすかはあいつら次第だな」


「『穴』の向こう側、雪山だったと思うわよ」


 夏の格好で雪山に放り込まれた画を思い描けば、さすがに桐生も、


「…とりあえず、無事を祈るか…」



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