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UW<第七話>夏の氷編  作者: 津梅
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対抗意識の無謀(前編)

 相手を前にすると萎縮して強気も何もナリを潜めて口にチャック、足に足かせ、言葉も行動も出渋っていたものが、目前より相手がいなくなると途端に強気を纏って毒ついたことを口にできるのは、小心を通り越してなかなか卑怯。それまで調子に乗って自分の無粋に任せて協力しようとしていた滋の好意にも水を差す。冷やかな目で土方を見つめていると、日野原もまた同じ種類の目で土方を眺めている。恋の応援以前に人として教育する必要があるように共に思ってしまう。土方だってその場の温度を肌で感じて、二人の言わんとするところをわからないでもないようで、一人額に汗を浮かべて目が泳ぐ。自分の人としての小ささを反省もしてみる。だけれど、胸に掛かったモヤモヤはすぐに払拭することができない。頭の左側では強がる自分を不格好とみながら、頭の右側では、それでもあのヴァイスに何もしない前から負けを認めて卑屈に構えることなどできっこないと頑固が顔を出す。ごちゃまぜの頭の中を、これも葛藤かと思えればまだ冷静だが、頭はすでに逆上せているから、自己を分析できずに結局は本能が勝る。その本能は頑固を優先して体を動かす。たいした理由もないのにヴァイスの後を追いかけるように店を出ていく。それもプンプンと憤った顔をして、喧嘩でも売りに行くような勢いであった。滋も日野原も慌てて土方の後を追いかけるが、幸いにもヴァイスの姿はもう付近にはない。


「土方さん、どうしたんです?」と滋は問うた。


「いや、もう少しあの男と話をしてみたいと思って。でも、完全に姿が消えているな」


「多分、『穴』をあけて、『あちら側』に帰ったんだと思います。仕事や行動が早い人ですから」


「その『穴』というのは、この『穴』のことか?」


「この『穴』というと…?」


 土方の陰に隠れて見えなかったが、回り込んでみると、店の駐車場の隅に確かに「穴」が見える。直径二メートルはあり、緩やかに萎んでいる


「あの男、『あちら側』と『こちら側』を行き来することもできるということか、それも単独で… いったいどんな仕掛けなんだ? 『あちら側』の住人は皆こんなことができるというのか?」


「多分、ヴァイスさんだけだと思いますよ、こんなことができるのは…」


 まるで新人の滋のほうがこの業界について知識がある。桐生やヴァイスのように、仕事も出来て経験の豊富な能力者が近くにいることがおそらく彼を育てている。


「ということは、この『穴』の向こう側は『あちら側』ということだな。初めて見る。お前は『あちら側』に行ったことはあるのか?」


「僕ですか? 一応、一度だけ、あります」


「何! 先輩の俺を差し置いて新人のお前がすでに『あちら側』に抜けたことがあると、そういうのか?」


 それまでヴァイスに持っていたフラストレーションまでも丸ごと投げつけるような剣幕で土方はそう聞いた。彼の心中の焦りのほどはよくわかる。滋も苦笑をして済まそうとする。滋の経験が恵まれているのはただの運である。才能如何の問題ではない。だけれど、いまの土方には滋とのその差も面白くない。土方は、新人に能力者として負けているのではと自問する。そうしてそんな自分に腹立たしくなる。やれ口惜しい。何が「あちら側」か、何が経験豊富か、何が敏腕か、と。すると何かが土方の頭の中で吹っ切れる。鋭く尖った目で「穴」を睨み、


「ちょっと行ってくる。平塚弥生が基地に来たら、すぐに戻ってくると伝えておいてくれ」


 突然、そんなことを言って「穴」へと飛び込んでしまった。



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