走馬灯―肆―
「お前が殺した。」
男はうわ言のように何度もそう繰り返し呟く
もう一度口を開いて問う
『 俺は何をした?誰かを殺したのか?
何を知っている? 』
ピクリと男の肩が動いた
が、また同じように繰り返しぶつぶつと呟き始める
『 俺は何をした? 誰を殺した?
あいつは …誰なんだ? 』
またピクリと男の肩が動いた
今度は黙ったままこちらを見つめている
そして自分の履いているズボンのポケットを
そっと指差した
どくん どくん と動悸の激しさは増していく
俺は徐に自分のポケットに手を突っ込んだ
手に乾いた感触が伝わる
引っ張り出すとそれは一通の手紙のようだった
小さく丁寧に折り畳まれていた紙を震える手で広げるとしわしわになった紙に所々水気を含んだ小さな染みが出来ている
その紙には見慣れた文字が綴られていた
文字を目で追うごとに俺は自分のした過ちに気付く
動悸の激しさと手の震えは増していく
ベランダの男は先程の自分のように
頭を抱えて踞っていた
『 あんたは知っていたのか? 』
そう問いかけると男は
すすり泣きながら何度も頭を縦に振り肯定する
男の嗚咽を聞きながら自分のしたことへの
重大さに気付く
男は過呼吸になりながらも
今度は泣き叫びながら俺に言った
「 お前が殺したんだ ! 何故殺した!」
そして尚も言葉を続けた
「 俺はもっと… もっと生きたかった 」
あぁ やっぱり。
手に持っている紙の裏を見る
そこには〝遺書〟という文字が弱々しく書かれてあった