走馬灯―参―
何を… した?
違う。
違う 違う違う違う違う違う。
俺は何もしていない。
俺は… 何も知らない。
何も知らないんだ…
『 俺は何もしていない!
何も知らない! ! 』
足元から迫り上がってくる不気味さと
焦燥感を跳ね返すように怒鳴りつける
そのまま手摺に背を預け
ずるりと崩れ落ちた
頭を抱えて踞る。
次に顔を上げた時
男が立っていたその場所には誰もいなかった。
張り詰めた雰囲気と
混沌とした思考を誤魔化そうと苦し気に
大きく息を吸う
足に力を入れ手摺づたいに立ち上がる
そっと部屋の中に入ると
先程まであった気配はそこには無かった
水道を捻り流れ落ちる生温い水流に
そのまま顔を突っ込み水を飲む
顎から伝っていく水がシャツにボタボタと
垂れていく
ソファーに積まれた服で顔を拭き
それをまたソファーに放ると
ついさっき男が立っていた場所に立たずんでみる
あの男はここから俺を見ていたのだ
ベランダの方を見ると淡い光が床に反射して
そこだけ薄い氷が張ったみたいに蒼白く見える
ふと、そこに黒い影が出来た
あいつだ。
顔を上げるとそこには手摺に凭れこちらを見ている男がいた。
今度はこちらから口を開いた
震える声で、、 しっかりと
『 俺は何をした?
何を知っているんだ? 』