走馬灯 ―弐―
下の方に目を向けると
人が
歩道に打ち付けられた人の体が転がっていた
八階のベランダからもその光景は
何故か鮮明に見えた
下を向いているはずの肘や膝が上を向き
不自然な方向に捻れている
しかし、顔は不思議と綺麗なままだった
一瞬、思考が止まる。
頭の奥がカァっと熱くなり真っ白になっていく
視界がチカチカと点滅する
音は完全にシャットアウトされ
息を吸うのを忘れる
異様な雰囲気に動けなくなる
それが転がっている場所を中心に
街全体の時間が止まったかのようにさえ感じた
無意識に強く握り締めている湿った手を広げると
白い爪の跡が手のひらに薄く残っていた
過呼吸気味になってる息をゆっくりと整える
自分の目に映ったものは
〝死〟そのものだったのだ。
ベランダの手摺に凭れて息を整えていると
不意に部屋の奥に誰かが立っているのが視界の端に入った
はっ とその人物を見つめる。
相手もこちらを見つめる
変わったことにその人物に対して恐怖は無かった
ただ
いやらしい焦燥感と何とも言えない重圧が
部屋に漂うばかりだ
しばし沈黙が続いた
「 お前が殺したんだ。
お前がそいつを殺した。 そうだろう? 」
お前が殺したんだ。
その"男"は掠れた
だが、重く しっかりとした声で言った
―お前が殺した
男はうわ言のように何度も繰り返し呟く
嫌な汗がじわりと滲みシャツが肌に張りつく
まとわりつくものを
振り払うかのように頭を掻きむしり、顔を振る
― 俺は一体何をした?