なぜこうなった……
現在俺は森の入り口に立っている。
そして俺の前には大勢の冒険者、兵士達がいる。
軽くみても数千人はいるだろう。
なぜこうなった……。
俺はとりあえず将軍らしき人を鑑定してみる。
レイアール・マイルラン:レベル10
HP:42/42
MP:106/106
STR:25
DEF:25
AGI:25
スキル
<光の剣><白魔法:レベル5><剣術:レベル3><統率:レベル3><応援:レベル3>
光の剣
剣に特別な効果を付与。
魔族へのダメージ2倍。
アンデッドへのダメージ10倍。
う~ん、思ってたより強くないな。
いや、スキルはすごいけど、アンデッドの俺へのダメージ10倍は中々いたいしな。
俺が死霊の騎士や骸骨剣士のときに戦ったらやばかったな。
一応ほかのやつらも確認しておくか。
…………………………結果。
強いやつでもステータス3桁くらいだというのがわかった。
これもう楽勝だな。いや戦う気ないけど。
――ギルド側SIDE――
「あれが例の化け物か。レベルはいくつだ、レリア?」
ギルド長がいった。
「レベルは10ね」
レリアと呼ばれた少女はそう答えた。
「10、か」
レベル、それはこの世界に存在する概念。
レベルとは魔族とそれ以外で違う。魔族とは魔物や魔人、悪魔等々のことである。
魔族以外はレベルアップをするとき、前のステータスの10~30%ほど上がるが、魔族の場合は、生まれたときに持っているステータスの半分ずつ成長する。
例えば、魔族以外の者のHPが100だったとする。
レベルが1上がると、HPは110~130になる。
もう一つ上がると、HPは121~169、と雪だるま式に増えていくのが魔族以外のレベルアップで、魔族の場合はHPが100だった場合。
レベルが一つ上がると、150。
もう一つ上がると200、といった感じに増えるのが魔族のレベルアップだ。
これだけだと、魔族以外の者たちのほうが有利にみえるが、魔族にはとある特殊な力がある。
『進化』と呼ばれる力だ。
魔族はレベル20になって一定の条件を満たすと上位種族へと進化することができる。
別名ランクアップともいう。魔族が強いのはこのちからがあるせいだ。
普通の魔物は4~8くらいで、レベル10というのは平均より少し高いくらいだ。
Aランクの魔物といえど、レベル10くらいならばマルクでもレベルくらいはわかるはずなのに、測定不能ということにギルド長は頭を傾げた。
「突然変異種、か?」
「多分そうね。見た感じ普通の死神の戦士より強そうだし」
「やっかいだな……」
「とりあえず、魔法と弓矢で遠距離攻撃して様子を見たほうがいいと思うわ」
「そうだな」
――主人公SIDE――
うん? なんか杖持ったやつらが出てきたな?
あー、すっげーいやな予感がするわ。
兵士たちの弓も完全に狙ってるよな。
「「「ヒュン」」」
あ、弓矢が飛んできた。
「「「ガガガガガガガガガガガガガガガ!」」」
弓矢の当たる音がうるさい。
もちろん効いてないよ?
全部俺の体がはじいてる。
どうせなら音もはじけばいいのにな。
――王国軍SIDE――
「やったか!?」
レイアール皇太子はいった。
「いやまだですぞ」
「な……あれだけの矢を受けて無傷だと……」
「おそらく一定以下のダメージを無効化するスキルを使用しているのかと」
もちろんそんなスキルは使っていないのだが、人間というものは時に自分とかけ離れているものを否定したがるものだ。
「くっ」
「殿下、私たちに攻撃許可をくだされ」
「許可する。冒険者たちと同時に攻撃を出せ。宮廷魔法使いのちからを見せるのだ!」
「御意」
――主人公SIDE――
ん? 今度は巨大な魔方陣か。
綺麗な閃光が俺に向かってくる。
俺はとりあえず耳を塞いだ。同じあやまちはしないぞ。
――バッーーーン!!
――王国軍SIDE――
「やったか!?」
「ふぅ。宮廷魔法使い隊の集団詠唱魔法をくらってはただでは済みますまい」
「ふふふ、さすが王国屈指の魔法使い隊だ――」
そこにいた者達全員が目を見開いた。
魔法により空いた穴から這い出てくる赤い目の魔物がいたからだ。
化け物はなにもいわず、剣も抜かずにこちらに近づいて来る。
その光景はまさに死神の戦士だった。
――主人公SIDE――
うーん。なんともないな。
まあ、ドラゴンの炎食らってもなんともないんだし、当たり前だよな。
さて、これからどうしようか?
1逃げる。
2たたかう。
3説得する。
2の戦うはないな。俺は魔王になりに来たわけじゃねえし。
となると1か2だが、1の逃げるを選ぶんだったらなんのためにここまで来たのか、って話になるよな。 つーことで、消去的に3かな?
方針が決まった俺は敵意がないことを示すために、剣を抜かずゆっくりと近づいた。
――王国軍SIDE――
「うてええええええ!!!! やつをなんとしてもとめろおおおおおお!!!!」
現在戦場にはレイアール皇太子の悲鳴が響きわたっている。
レイアールは怖かった。剣も抜かずにゆっくりと歩いてくる化け物が。
まるで、貴様ら人間などにわざわざ剣を抜く必要などない、と格の違いをみせつけられているようで。
あの化け物に捕まったら自分たちはどうなるのだろうか?
愛すべき民や家臣、家族たちが化け物に食われていくのを想像してどんどん冷や汗が流れてくる。
圧倒的な存在を前に足が震えているが、声まで震えていないのは、さすが王族といったところだろうか。
だが、現実とは無情なものである。レイアールの指揮もむなしく、化け物は止まらない。
化け物との距離は当初五百メートルほどあったが、いまでは二十メートルほどになっていた。
レイアールがここまでか、と相討ち覚悟で突っ込もうと思ったとき不意に化け物の動きが止まった……。
――主人公SIDE――
このくらいでいいか。
兵士達の二十メートル手前で止まった。あまり近づきすぎてもあれだしな。
俺は挨拶しようと思い言葉に詰まる。
俺は、オブラートに包んで話すと、日本にいたときかあまり饒舌な方ではなかった
そんな俺がいきなりスライムになり、テレビもネットもない世界に一人で一か月近くもいれば、わからなくなっても仕方ないよな?
確か義務教育では、はきはきと大きな声で挨拶しましょうとか習った気がするが……。
いきなり大きな声で挨拶しても平気かな?
……平気だよな。暗い声よりも明るい声のほうがいいに決まってる。
そうポジティブに考えた俺は息を大きく吸い込み――
「グガアアアアア!!(俺は敵じゃないです!!)」
あっ。俺、化け物だった。