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7.  プロローグ:領都にて領主様と再会

 遺跡街を出発して二日後の昼頃、僕達は領都が見える高台に到着した。

 視界の下に、巨大な領都と、さらにその先に広がる青色。

 領都が近くなった頃、最初に感じたのは微かな潮の匂い。

 トウゲン辺境伯領都は、港湾都市。

 王国で2番目の交易規模を誇る巨大な港を有した巨大都市だった。



「わぁ、本当に海だ・・・」

「ここまでくると帰ってきたって気がするねえ」


 ゴンさんがしみじみと言うが、僕は聞いていなかった。

 生まれてから初めて見るの海が、目の前に広がっている。


「潮の匂いがしたから海が近いとおもっていたけど。

 本当に領都って海上に作っているんだ」

「海上に見えるのは、領館が中心だね。岬の先端あたりに最初に建てた領館が大きくなったのと、大型船が入りやすくするために湾を工事していたらいつのまにああなったんだ。

 ま、市街は港湾街よりもっと内陸寄りにあるから、普通の街と変わらないけどね」


 ゴンさんの説明好きは相変わらずだった。


「でも レオ君は今までに海を見たことがあるのかな?」

「え? 海を見るのは初めてですけど」


 何しろ、今まで村を出たことすらなかった。


「そうなのか。潮の匂いとかいっているから、てっきり見たことがあるのかと思ったよ」


 そういえば、何であの匂いが海に関係あるって判ったんだろう?

 まあ、僕にはよくあることだけど。

 

「アンは3回目。レオより上!」


 そして、僕の隣でどや顔のアン。

 領都が近いから、無理やり馬車から出したけど、今回は周りに人が少ないせいか平気そうだ。

 自慢そうな顔に腹がたつけど。


「海はいいのだよ。なんといっても魚が旨い。

蟹、海老、牡蠣、あわび、烏賊と蛸も捨てがたい」


 飴以外にも釣れそうな食材があるみたいだね。

 そのうち探しておこう。港があるのだから、きっと魚市場だってあるはずだ。

 美味しい魚介で、冷たい日本酒をきゅっと・・・

 あ、僕、まだ9歳だった。

 でも、将来の為に美味しい食材を探しておいても損は無い筈だ。

 

 隣でゴンさんが、蛸なんて食べられるのか?って呟いているけど。

 ゴンさんは好き嫌いが多いのかもしれないね。


 


 僕達が領館に着いたのは、その日の夕方だった。

 1週間近く一緒に過ごしてきたので、隊長さんたちと別れるのは寂しく感じた。

 隊長さんには、アンの世話を押し付けられたけど、交渉したら、きちんとお小遣いもくれたいい人だった。

 でも、同じ領都に住んでいるのだから、いずれ会う機会もあるだろう。

 アンは馬車から離れるのを嫌がった。

 仕方ないから飴玉で宥めた。

 あっさりと釣れた。

 飴をなめながら言うには、将来、あの馬車以上の馬車を手に入れてやるっ!

 との事だ。将来目標があるのは素晴らしいね。

 目的が馬車の中での引き籠りじゃなきゃ、もっといいんだけど。

 適度に揺れる乗り心地が、快適な睡眠につながるとか。いろいろ力強く解説をしていたけど、心底どうでもいい。

 

 ゴンさんは、領館にいるなら、また直ぐに会えるよ。と言っていた。

 ゴンさんの職場の開発局本局は、領館の一角にあるらしい。

 いつでも遊びにきてね。と言ってたけど、部外者の子供が遊びに行けるようなところなのだろうか。

 領主様の肝いりで作られた開発局の中って、機密が一杯だと思うんだけどね。

 関係者以外立ち入り禁止が普通じゃないかな。

 興味があるから行ってみたいけど。本当に見たいものは隠されているだろうしね。


「じゃあ、忍び込んで見つかったら、ゴンさんを呼ぶね」

「普通に正面からきてよっ」

「え、それじゃ、お金になりそうな面白い物なんてみせてくれないじゃない」

「君、何をしにくるつもりなの?!」


 ゴンさんの反応は相変わらずいいなあ。

 へたれ童貞だけど、レティさんと上手くいけばいいのにね。


「そういえば、遺跡街ではあの後、どうなったの?」

「さあ、領主様がお待ちだろうから、直ぐに領館を案内するよ!」


 何故か誤魔化すゴンさん。何があったんだろうね?

 僕、9歳の子供だから難しいことはわからないや。


 



「やあ、二人ともよく来たね」


 僕達を迎えてくれたのは、本当に領主様だった。

 クレハ・リ・トウゲン辺境伯。

 変わらない黒髪と黒瞳。衣装は前回、村で会った時と違って貴族らしい豪奢なものだった。

 でも態度は相変わらずフレンドリー。

 辺境伯なんて上位貴族の領主様に、そんな態度をとられると僕みたいな只の領民は困ってしまう。

 それ以上に戸惑う原因は、僕達が案内された部屋にあるけど。

 僕が戸惑っているのを見て、領主様は困った様に顔をしかめる。


「ん? この部屋は気に入らないかい? 君達・ ・なら気に入ってくれると思っているのだけどね」


 僕達が案内されたのは、領主様の執務室の更に奥にある部屋だった。

 正確には、執務室の中にある私室のさらに奥。

 隠し部屋というものだろうか。

 それは、僕が生まれてこの方、見たことが無い筈の部屋だった。

 執務室や私室と比べて、更に豪華な部屋だという訳では無い。

 そこは広さでいえば六畳。床は畳敷き。

 卓袱台があり、座椅子が置かれ、座布団が敷いてある。

 それは、僕が見たことのない筈の部屋の風景で、そして懐かしさを感じてしまう風景だった。


「ここは、私以外の人は来ないから、ゆっくり寛いでいいよ」


 寛大に言う領主様は、座布団のうえで胡坐をかいて、煎餅を齧り出した。

 




「何だか落ち着く」


 アンは直ぐに遠慮を無くして、畳に寝そべった。

 

「バカ、領主様の前で失礼だ」

「いいよ、いいよ。アンちゃんは、気に入ってくれたようで嬉しいよ。

 いやあ、せっかく作らせたのに、私以外誰も使ってくれなくてねえ」

「いや、こいつ、放っておくとどこまでもだらけますので」

「この肌さわり、匂い。いい。…アン、ここに住む」

「ほら、こんな具合に」


 とりあえずアンの頭を押さえて、畳に押し付けた。

 むぎゅとか言ってるけど、力は緩めない。

 いくら友好的でも相手は大貴族。無礼うちされても不思議じゃない。


「レオ君は、堅いねえ。それじゃ、私が命令しようか?

 もっと気楽にしろ、さもなくば無礼と見なす。てね」

「やめてください。死んでしまいます」


 気楽に領主様に話しかける領民の子供なんて、領主様が許しても周囲《直臣達》が許す訳がない。

 それほど、辺境伯という地位は高いし、高い地位というものはそれだけで敬われるもので、無礼な態度を許す訳にはいけないって人たちは辺境伯の周りにもたくさんいるに違いないのだ。

 周囲の状況を見極めるまでは余分な注目など浴びたくもない。


「別に、いつでもどこでも、とは言わない。でも、この部屋にいる限りは気楽にしてほしい」


 領主様は寂しそうに笑う。


「ここが、私が一番寛げる場所なのでね。その感情を共有できそうな君達が堅苦しいままでは私が寛げない。

 とりあえず、膝を崩したら? 足、痺れてるだろう?」


 領主様の言葉に従い、僕は正座をやめた。実際、足がしびれてきていたので助かった。

 そんな僕の脚をつつくアン。

 悪魔か、こいつは。


「とりゃ」

「ぐべ」


 とりあえず頭に手刀を一発いれてから、アンを座布団の上に移動させる。


「大人しくしろ。いいね?」

「…はーい」


 僕は改めて領主様に向き直る。

 村で会った時から、いろいろと気になる事を言っていた領主様。

 僕にも聞いてみたいことはたくさんあるのだ。




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