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6. プロローグ:遺跡街

6. プロローグ:遺跡街


「そう、これが、領主様が倒した守護ゴーレム。

 身長57m体重550tonあったという巨体の慣れの果てがこれなのだよ」

「どこの超○磁ロボ!?」

「最近の子供達のいうことは、わからないなぁ」


 一風呂浴びて、ゴンさんが買ってくれた新しい服を着た僕は、遺跡街名物超巨大守護ゴーレム(残骸)の見物をしていた。

 

 さすがに僕の体力が尽きたのがわかったのか、アンは渋々、僕の背中から降りてくれた。

 でも、体全体で腕にしがみ付くのはやめてほしい。

 子供だから仕方ないけど、丸みが無いので痛い。どこがとは言わない。

 ただ、アンはきっと、成長しても72cmくらいにしか育たないと思う。

 どこがとは言わないけど。

 それでも、希少価値とか言いそうだけど。


「ゴンさん、僕をアンと一緒にしないで下さい」

「レオ、酷い(うるうる)」

「いや、僕からすると君達変わらないから」

「え、レティさんにはちゃんとフォローしたじゃないですか」

「いや、それは有り難かった…じゃない。ごほん、そもそも君が変な事を言わなきゃ何も問題は・・・」

「え、それじゃ、レティさんと一緒の明日の夕飯は取り消しますか?

 僕は、アンの体調が悪そうだから、隊長さんにもう一日この街で休憩できるように言おうと思っていたんですけど。レティさん、モテそうだから、めったに空いている日は無さそうですけどねえ」

「いやいやいや、アンちゃんの体調が悪いのは心配だよね。僕もそう思うよ。

 そうそう、体調が悪い子にはお見舞いの品でも贈らないとね。

 でも、僕じゃ思いつかないからレオ君が買っておいてくれないかなあ」

「僕、子供だからよく判らないですけど、領収書って必要ないですよね?」

「勿論だよ!、て、君、本当に9歳?」

「よく言われます」


 心(懐)が温まる会話を交わしながら、僕は目の前のゴーレム(残骸)を見た。

 アンが言う身長57mというのは冗談としても、人の背丈の5倍ぐらいはある巨大なゴーレムの残骸。

 これを倒した領主魔はマジで凄い。

 ゴーレムなんて、せいぜい人の倍程度の大きさが、現代では製作できる限界だと聞いたことがあるし。


「実は、このゴーレムは変形合体機能を持っていたらしいのだ」

「絶対、今思いついただけだろ!」

「変形合体ってなにかな?」


 アンは周りを置き去りにする発言をよくする。

 ゴンさんが理解できなくて困っているじゃないか。

 

「そんなことは無いのだよ。ほら、この本に書いてある」


 クレハ著『我が冒険人生をかく語りぬ』

 あの方、何をしているのですか。


「ああ、それ、有名な偽書だから。少なくとも、開発局うちじゃそう判断《扱いに》しているよ。というか、公式表明がそうなっている。

 だから、他の内容もシンジチャダメダヨ」


 なら、目を逸らさないでください、ゴンさん。

 

「禁書扱いなんだけど、アンちゃん、よく持って()()ね」

「過去形!?」

「あっ」


 ゴンさんが素早く手を動かすと、アンの手元から本が消えた。

 そして、一瞬で燃えた。


「表紙だけ持っていくと、ボーナスがでるんだよね。

セバス家令様から。はは、僕って意外とツイテいるかも。

ああ、レオ君。さっきのお見舞い代、割増できるからよかったよね。

お互いに利益供与できるって幸福だよね」

「アンは不幸!」

「そうですね、幸福ですね」


 慌ててアンの口を塞ぐ僕。

 あかん、ゴンさんは怒らせたらいけない人だ。

 僕の危険予知にピリリと来た。

 ちょっと、調子に乗り過ぎていたかもしれない。よくよく考えなくても、領主様直属の組織である開発局の人なのだ。

 あの領主様の周りにいる人間が、普通の人間だなんてありえない。

 

 そんな思惑をしている内に、アンの顔色が悪くなっていた。

 また、対人恐怖症がぶり返したのだろうかと思っていたら、口を塞いだだけのつもりが鼻まで塞いでいた。

 いやあ、失敗失敗。

 でも、アン(こいつ)相手だから、いいかな。



 その後、何故か文句を言うアンを宥めるために露店で飴を買ったりしながら、僕達は遺跡街を観光した。

 今まで村から出たことのない僕としては目新しい物ばかりだったけど、それよりアンの相手をするのが大変だった。

 対人恐怖症で訳の分からない行動をするは、変な事を口走るは、僕にしがみ付くわでもう大変。

 簡単に機嫌が悪くなるし、すぐに機嫌が良くなる。

 でも、僕は直ぐに学んだ。

 とりあえず甘い物を与えたら、機嫌が直る。

 という事に。

 

 この遺跡街を出発するまでに、安くていいから大量に飴玉を買っておこう。

 買ってもらう交渉先《・ ・ ・》は、隊長さんでいいかな。

 ゴンさんは意外と怖いし。へたれな童貞っぽいけど。人は見かけによらないとはこの事か。


「君、今、失礼なこと、考えなかった?」


 恐ろしいことにゴンさんは読心の魔法でも使えるのかもしれない。


「さすが、独身者。読心も使えるんだ」

「それ、アンも面白くないと思う」


 世界は敵色なのかもしれない。


 という訳で、なんやかんやあって、僕の初めての遺跡街での一日は終わった。

 大変だったけど、楽しくなかったといえば嘘になる。

 そのことを、ゴンさんはもちろんアンにも言う気はないけど。


 


「あらあら、レオ君って、領主様に魔法使い候補に認められたのね。

 お姉さん、びっくりしちゃった。

 凄いのねえ」


 翌日、僕はゴンさんと一緒に遺跡街のレストランにいた。

 遺跡街にある開発局支部所属のレティさんと一緒だ。

 レティさんは、長い金髪が印象的だ。

そして、体の一部がふくよかな女性だった。

 男なら、思わず目を向ける個所が。

 僕はまだ子供だから、よく判らないけど。

 というより、ゴンさんはもっと積極的に話しかけるべきだと思う。

 なんで、僕がレティさんの相手をしているんだろうか。

 というより、何で、僕がここにいるんだろう。せっかくうまく段取ってあげたのに。


「レティさんに言われると、僕、嬉しいです。

 レティさんこそ、遺跡街の副支部長になっているって凄いことだと思います」

「あら、大したことは無いのよ。

 真面目に仕事だけ(・ ・)をしていれば、そんなの直ぐ。

 開発局うちは、仕事に趣味を混ぜる人が多いの。特に優秀な人に、ね」


 ちらりとゴンさんを見るレティさん。

 ほら、ここで、気の利いたことを言うんだ。ゴンさん。

 僕は、いつでもいなくなってあげるから。


「いやあ、それにしても、ここの料理はおいしいですね。さすがレティさんの選んでくれたお店だけあって高い…じゃなくて、良いお店ですね」


 駄目だ、この人。さすがへたれ童貞。

 皮肉交じりでも、興味を持たれているんだから、そこで頑張らなくてどうするんだ。

 

「そうね、高かったかしら。ごめんなさいね。

 こんな店に誘ってしまって」

「いえ、レティさん。ゴンさんはその程度気にする人じゃありませんよ」


 フォローする僕。


「ほら、昨日、セバス家令様からボーナスが貰えるような仕事もしていましたし、やっぱりゴンさんは見かけより有能ですよ」

「あらあら、そうだったのね」

「ええ、偽書を燃やしていましたし」


 アンが嘆いていたけど。


「へぇ、なんて題名だったのか、わかるかしら?」

「たしか、冒険者人生を語るとか・・・」


 一瞬だったので、僕はよくタイトルを覚えていなかった。

 

「ゴン、まさか、『我が冒険人生をかく語りぬ』じゃないわよね?」

「ああ、それだった。ほら、表紙だけ残して焼いておいたんだ」


 ゴンさんが懐から燃え残りの本を取り出した。

レティさんの目がすっと細くなる。


「その本、先月から焼却命令から回収命令に変わっているのだけど」

「え?」

「まさか、本部務めのあなたが知らない訳って、ないわよね?」

「し、知らなかった」


 あ、レティさんの頭に角が生えた、気がした。

 これ、いかんやつや。

 怒りのオーラって目でみえるんだね。


「あ、僕、アンの様子が心配なので帰りますね」


 大体、大人のデートに子供を連れていくのが間違っているのです。

 間違いは早急に是正しないと駄目だよね。


「ちょ、ちょっと、レオ君!」

「すみません、僕、急いで帰らないと駄目になったので、余った料理包んでもらえますか」

「しっかり者!?」

「ちょっと、ゴン、きちんとこっちを向きなさい。そういうことばかりするから、貴方って人は・・・」

「それじゃ、あとはごゆっくり。僕、子供なので夜は早くて・・・もうネムクテダメだー」


 あとは若い人たちだけでお願いします、という事でレストランを去った。

 いや、僕の方が若いんだけどね。


 遺跡街についても、隊長さん達分隊の一向は訓練の続きなので街外でキャンプをしている。

 僕達だけでも、ちゃんとした宿に泊めてくれると嬉しいのだけど。

 残念ながらそうなっていない。相変わらず馬車で寝泊りしている。

 それを喜んでいるのはアンなんだけど、彼女は昨日一緒に出掛けたのが、精神的に負担になって寝込んでいる。

 たぶん。

 もしかしたら、寝込んでいるふりをして馬車から出たくないだけかもしれない。

 あれにはそういう生粋の引き籠りの臭いがする。

 アンの引き籠りを治すのは大変そうだ。

 あれ?

なんで僕がそんな面倒なことしなきゃいけないんだろう。

 自分でも不思議な心境だったけど、とりあえずアンにレストランで包んで貰った料理を渡したら、喜んでいたので気にしないでおく。

 

「そんなに食べたかったなら、アンも来ればよかったのに。どうせ、金はゴンさんもちだし」

「昨日の外出でアンの気力は尽きたのだー。充電完了まで休まないと無理」

「どれくらいかかるの?それ」

「3日間」

「長いね」

「普段よりは短いのだよ。アンも成長した」

「へえ」

「レオの視線が冷たい!ここは、あたしを褒めるところ!!」


 ここから領都まで馬車で2日間くらいだって隊長さんが言っていたから、その時に馬車の外に引っ張り出す言質は取れた。


「はいはい、すごいですねー」

「おざなりっ!もっと心を籠めるとアンは嬉しい。さあさあさあ」


 うざくなってきたので、軽く頭に手刀を入れておく。

 大げさに頭を抱えて転がるアン。

 あ、寝台から落ちた。隙間に落ちて身動きできなくなっている。

座席を二つとも寝台にすると丁度子供がはまり込みそうな隙間が出来てしまうのだ。

この馬車の設計不良だね。後でゴンさんに教えてあげよう。


そう考えながら、僕は仕方なくアンを助け起こすのだった。


まったく、世話が焼ける。



 



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