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5. プロローグ:領都への道

 トウゲン辺境伯領で最も大きな道路といえば、門街と領都を結ぶ街道だ。

 馬車が4台並んでも通れるという道幅の道路が造られている。

 この街道が辺境伯領の主街道となっている。呼び名はクレハ大街道。

 そして、その道路から各開拓村へ繋がる支道。

すべての支道は馬車が通過できるようになっているため、多くの行商人たちが楽に移動ができる。

なので、トウゲン辺境伯領内では村々と街の間での商売が非常に盛んになっているらしい。

碌に道の整備ができていない領地では、品物の原価より輸送にかかる費用が莫大となるため、最終的な値段が原価の10倍に上がることも珍しくないそうだ。

僕はそういう話をアンから聞いた。

アンから教えられるって、なんとなく腹が立つけど。

彼女は門街の商家の娘だということで、その類の話に詳しかった。

この齢にして、親の商売を手伝っていたらしい。もっとも、その内容は自分で売り子をするとか商品の仕入れをするとかでは無くて、売上の集計や利益率の計算などの大福帳の記録整理だったとか。


「あのまま、一生、部屋に閉じこもっていられると思っていたのに・・・

 たまに書類を見るだけで後は本を読んで寝ていてもいい。

そんなアンの理想の生活は無くなったのでした。

あたしも、権力の横暴には逆らえないのだ。

・・・同情してくれていいよ?」

「どこに同情できる要素があるの?」

 

 無理矢理でも引き籠り改善をさせてくれた領主様に感謝しろと言いたい。

 きっと、彼女の両親は感謝していると思う。

 もしかすると、うちの両親みたいに領主様教の信者になっているかもしれない。



 僕のいたアルケー村からクレハ大街道に出るまでに2日間。

 馬車に乗ってもこれだけかかる。

 どれだけ、アルケー村(うち)が田舎にあったのか実感した。

 それでも門街と領都を結ぶクレハ大街道とその支道の付近は、領軍や冒険者達によって過去に徹底的に魔獣狩りを行ったことがあるため、危険な魔獣は少なくなっているらしい。

 これが、領都の西方地域だと、強力な魔獣が大量に存在する危険な場所がたくさんあるそうだ。

 発見されても攻略されていない古代遺跡も大量に存在するらしい。むしろ、未発見の古代遺跡の方がまだまだ大量にあるのではないかとも言われている。

 

「でも、そういう所にこそ、儲け(おいしい)話が転がっているというものなのだよ、 レオ。一攫千金を求める冒険者が集い、腕を磨き、運を掴み大成功。

 怪物を倒し、お宝を得、美女を手に入れ、ウハウハな生活。

冒険とロマンスに溢れた土地、それがトウゲン辺境伯西方地域。

て、アンが読んだ冒険活劇本に書いてあった」

「へー、でも、心が引かれるものがあるよね」

「そんな疲れそうな生活は、あたしは嫌なのだー。

 冒険は本で読むもので、自分ではしたくなーい。

 あ、レオが一攫千金したら、アンを養ってくれてもいいよ」

「全力でお断りします」

「そんなー」


 2日の間に、僕はアンと親しくなっていた。

 というか、結局何かと世話を焼くことになった僕にアンが懐いたともいう。

 少し、いやかなり変な女の子だけど、小柄な体が妹のミオを思いださせて邪見にしづらい。

 あと、妙な所で会話の波長が合うし。

 僕と同じ黒髪なので、そこにもシンパシーを感じる。

隊長さんの思惑にはまったのは癪にさわるけど。

隊長さんと交渉・ ・して、アンの世話をする代わりに、ちょっとしたお小遣いをもらえるようになったから気にしない事にしている。

隊長さんも、娘さんに同世代の女の子に酷い対応をしていたと知られることが無くなって喜んでいると思う。

子供の世話を嫌がるなんて酷いことだよね。いくらアンが相手とはいえ。

娘さんへのお土産代が~とか言っていたけど、きっと気のせい。


「むー、でもでも、次の街は一攫千金の夢膨らむ場所。

 領主様が最初に攻略した古代遺跡の街。

 領主様が一攫千金した記念の場所なのだよ。

 領主様が倒した大きな守護ゴーレムの残骸だって見ることができるから、ぜひお勧め

 あたしのお勧め」

「観光地になっているって話は聞いたことがあるけど。

 アンは行ったことがあるの?」


 引き籠り体質の少女とはいえ、僕の村より遥かに都会である門街に住んでいたアンだから、ひょっとしたら経験があるのかもしれない。


「無い! けど、この本に書いてあった」

「無いなら自信を持って勧めるなよっ!」

「街を通過したことならあるから。村から出たことのないレオと違って」

「一言多い。田舎者で悪かったな。

でも、なんでその時に見なかったの?」

「遺跡街の本を読むのに忙しかった!」

「直接見ろっ」

「めんどい」

「・・・・・」


 まあ、アンの性格はこの2日間で判っているからね。

別にいらっとはしていない。

でも、遺跡街に着いたら無理やり馬車から引きづり出してみよう。

嫌がらせじゃないよ。アンに世の中の事をいろいろ知ってもらうためだから。

女の子のために頑張るって、いいことだよね。




「やだ、帰る。馬車に戻る。人が多い。気持ち悪い。

 吐くぞ。本気で吐くぞー」

「落ち着けって、大丈夫。人なんて蟻だと思えば平気だって」

「いやぁ、レオ君。彼女、本気で気分悪そうだけど。

 それと、人を蟻に例えるのはどうかと思うよ」


 遺跡街に着いた僕は、隊長の許可を貰って街の観光に乗り出した。

 もっとも、子供だけでは不安ということで、開発局のゴンさんも同行することが条件だったけど。

 トウゲン辺境伯領・遺跡街。

 門街と領都の中間付近にあるこの街は、領主様が攻略した古代遺跡を元に作られた街だ。

 トウゲン辺境柏領の中で、三番目に大きな街でもある。

 ちなみに一番は領都、二番は門街。四番目以降は開拓最前線の街同士が、自分の所が四番目だと主張し合っているらしいけど。

 遺跡街は観光名所であると同時に、攻略した遺跡の中枢装置を使って魔石を生成している一大生産拠点でもあるらしい。

 魔石は万能触媒ともいわれる有用な資源だ。

 現代の文明を支えている根幹ともいわれている。

 それは世界に満ちる魔力が結晶化した物質といわれている。ちなみに、魔力が獣に宿ると魔獣になるらしい。よくわからないものに宿ると魔物になる。

なので、魔物や魔獣を倒すと魔石を得られることもあるそうだ。

この街の魔石生成装置は周囲の余剰魔力を吸収して魔石を生み出す。

そのおかげで、領都から遺跡街を通じた門街までの領域では、魔獣や魔物の発生が極端に低くなっているそうだ。僕の村が平和だったのも、この街の生成装置の御蔭らしい。

 魔石生成装置は貴重なもので、王国内にも他に3か所しかないそうだ。

 ちなみに、その内の2か所は王家直轄領に存在し、最後の1か所は王国総合教会が所持している。

 王国内の貴族で、この装置を持っているのは領主様以外にいないとのこと。

 もっとも、最近になって領主様によって発見されたここの装置は、他の所のものと比べて半分以下の産出量しかないらしいけど。

 それでも、この街から得られる富は莫大らしい。発見当初は遺跡街を巡って王国全土を巻き込む陰謀の嵐が巻き起こったとか。

 結局は、自分の領地内で、自分で発見した領主様《当人》の所有になるという当たり前の結果に落ち着いたそうなんだけど、この時の騒動に巻き込まれて没落した有力貴族も多かったらしい。

 それよりも恐ろしいのは、それだけの富を生み出すこの街が生み出す金でも、トウゲン辺境伯領の収入の20%程度にしかならないことだろうか。

 現在の最大の稼ぎ頭は、領都での交易による収益だそうだ。

 そんなことを延々と説明してくれたゴンさん。

 実に物知りである。

だけど、新たな交易品は開発局で開発しているんだ。凄いだろ、レオ君も入りなよ。

 と勧誘を挟んで説明してくるのは鬱陶しいのですけど。


 そして、僕が一緒に連れだしたアンは、あいかわらずもがいていた。

 というか、全身の力で僕の右腕にしがみ付くのはやめてほしい。正直言って痛い。

 ここまで怖がるとは予想外だった。

 対人恐怖症なのだろうか?


「馬車の中だと、平気で僕と話していただろ」


 馬車の中での様子だと、そういう風には見えなかったんだけど。


「あそこは、アンのテリトリーだから、怖くなかった」

「いや、あの馬車は開発局うちのだからね」


 慌てて言うゴンさん。まあ、アンの様子だと馬車に永住するって言いかねないけど。


「僕もいたから、アンだけの場所ってわけじゃないでしょ」

「は、そういえば、レオもいたのだ・・・」


 アンは思案顔になる。


「ということは、レオもアンのテリトリーの一部」

「おい」


 なぜそうなる。


「つまり、レオに引っ付いていればあたしはテリトリーの中にいるってことに!」

「ならないよ」

「ということで、レオ、アンをおんぶするのだよ」

「どうしてそうなるっ!」

「テリトリーの臭いを感じれば、アンの気持ちが楽になるからっ

 そして、自分で歩く必要が無いのでアンの体も楽になるしっ!」

「凄く自分勝手な意見だと思わない!?」


 なにこのなまもの。

 

「いいから、はやくー」


 僕の体によじ登ろうとするアン。

 

「うざいわっ」


 咄嗟に突き飛ばしてしまった。よろけたアンは地面に蹲る。

 いや、そんなに悲しそうな顔をしないでほしい。


「ああぁぁぁ、レオ、酷い。あたし、吐くぞー。それどころか漏らしそう。

 レオーレオ―、アンを見捨てないで―」

「大声を出すな! それと変な事を言うなっ!」

 

 周囲の視線が痛い。なんで、こんな羞恥プレーをしないといけないのだろか。

 見捨ててしまいたい。



 結局、僕はアンを背負って移動した。

 僕の体格だと、小柄だとはいえアンを背負うのは大変だ。

 ゴンさんが、後ろから生暖かい目で見てくるのが気になるけど、それどころでは無い。


「というか、ゴンさん、手伝ってくださいよ」

「いやぁ、仲のいい子供たちの戯れを邪魔するのは出来ないかなあーと思ってね」

「フザケタことばっかり言っていると、アンを置いて僕は逃げますよ」

「え、見捨てるの?見捨てるの? ううう、気持ち悪くなって吐きそう」

「吐くなよ。絶対に吐くなよ。振りじゃないからな」

「アンは、お約束は守る主義・・・」

「やめろー」


 …遺跡街も、温泉施設は整っているようだ。それだけは、本当によかったと僕は思う。

 あと、その後、僕達を遠巻きで見ているだけだったゴンさんは、まじで許さん。


 とりあえず、ゴンさんに取りすがって、「父さん、見捨てないでー」と大声で叫んでおいた。「ちょっとやめて。遺跡街《この街》って、開発局うちの支部があるんだよ。僕は後ろめたいことなんて何一つない独身で…って、えっ! 支部長、何でここに。いや違うんです。あ、同期のレティさん。なんでそんな冷たい目で僕をみるんですか。違うんですって」

 と、大慌てしていたので気が済んだ。

 あとは、少し交渉・ ・してお風呂代くらいは貰っておこうと思う。

 もう少し色をつけてくれたら、フォローしてあげるけどね。

 善良な僕としては、そこまで直接、口にするわけにはいけないし。


「レオ君って、容赦ないねっ!」


 不思議とよく聞く台詞を言うゴンさん。

 普通にしているだけで、そんなことをよく言われる僕は、やっぱり少し変わった子供なのかもしれない。


大丈夫だ、まだストックはある…

ダイエット中につき、平日禁酒中(;;


くそ、なんて世の中だ・・・

(合わなくなったズボンを睨みながら

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