48.番外編 フーパールの嘆き1
短いです・・・三話ぐらいで終わる予定
フーパール・リメイソン
彼は商人である。
リメイソン商会という交易を中心とした商会を立ち上げた男だ。
外見は小太りのどこにでもいる中年男といった感じである。
立志伝中の人物というほどの大物では無いが、彼の経歴を見ると只の行商人が一流の商人へ登って行く過程が見られるだろう。
複数の都市国家に所属し、手広く商売を重ねながら北大陸の交易の要所と言われていたクール―島の商工会で、評議員としての座を射とめ、これから遂に大商人への道が拓かれる、そんな時期を迎えていた彼は、今、生命の危機にさらされていた。
(どうしてこうなったのだ)
冷や汗をたらしながら、目の前に立つ男を見る。怖いから目は合せられない。
事前に仕入れていた情報から、この大男が実は13歳の子供であることは知っていた。
この前の戦争で活躍した事も知っている。
だが、ここまで凶悪な男だとは思っていなかった。
しかも、その殺意が向いている対象は自分だ。
フーパールは嘆く。
どうしてこうなったのだろうかと。
そもそもの発端は、クール―島から南大陸への航路が新たに開拓されたことにあった。
世界には二つ、もしくは三つの大陸が有ると言われている。
一つはフーパールの所属する都市国家も存在する広大な北大陸。そして、その南側に存在する南大陸。
この北大陸と南大陸を合せて東大陸と言う者も多い。
特に北大陸の東側部に住む者達は、南大陸への行き来が容易なためそういう認識でいる。
それに対して、謎に包まれた大陸と言われているのが西大陸である。
そこは、真竜と呼ばれる怪物が生息するといわれており、人が行きかう事は殆どない。
東大陸に存在する魔獣や魔物などとは桁違いの化け物、それが真竜である。
伝説級の怪物であるが存在は確認されており、西大陸への進出を妨げているというより不可能にしている存在だ。
人間の生存できる大陸では無いとされている。
時折貴重な資源を狙って、上陸を試みる輩もいるようだが、無事に戻ってきたことは殆ど無い。
そんな魔境に手を出すような無謀な事をするフーパールでは無いが、今まで北大陸東部の連中に独占されていた南大陸との交易なら話は別。
新たな儲け話に胸を躍らせて、フーパールは商船を仕立てた。
そして、彼以外の多くの商人も。
南大陸の最北部にある王国、その国は正式な国名を持たない不思議な国らしい。
だが、北大陸東部の商人達は、その国を魔法王国という名で呼んでいた。
強力な魔法使いや魔術士が、数多く存在しているためにそのような名で呼んでいると、フーパールは知り合いから聞いていた。
そして、王国西部の辺境部には強力な魔法を操る事ができる伯爵が存在して、かつての辺境地は彼の手によって急速に発展している領地になっているということも。
新たな航路、発展している開拓地。
このキーワードから儲け話を思いつかない商人はいない。
少なくともクール―島の評議員を務めるほどの大商人であるなら。
それは間違いではなかった。確かに、航路の先にあるトウゲン辺境領には多くの商売の機会と新しい商品があり、北大陸西部では新しい商品を欲しがる人たちが大量にいた。
そして、クール―島の商人には北大陸都市国家群の後押しもあった。
その結果、普通の商売を行う商人だけではなく、行儀の悪い商売を行う商人も大量に現われたのだ。
いわゆる武装商船を扱うような海賊と大差の無い連中である。
トウゲン辺境領から、大量の魔石を入手できることが判明すると、さらに性質の悪い連中が現れるようになった。
都市国家の軍隊そのものだ。
北大陸西部は多くの都市国家が乱立し、互いに同盟を結んだり破棄したり、戦争をしたり和平を結んだりと日々忙しい政争に明け暮れていた。
フーパールは商売柄、そちらの情報も入手するようにしている。
しかし、この時期に起きた事態は進展が早すぎて巻き込まれるままになってしまった。
つまりは、魔法王国にて最強と言われるトウゲン辺境伯の実力を、北大陸西部の者達は誰も知らないまま、舐めたことを仕出かしてしまった結果なのだが。
誰が新しい航路を拓いたのか、それすらを考慮できなかったゆえの失敗といえるかもしれない。
様々なトラブルを口実に、北大陸西部都市国家は同盟を組み、王国の西部トウゲン伯領を侵略しようとした。
そして、失敗した。
そのツケは交易の要所として知られているクール―島を差し出すことで、払われることになった。
とばっちりを受けただけだと開き直るには、鋭く重すぎるアル・スピアローの視線を強く感じているフーパールだった。
そう、あれは、私は巻き込まれただけだ。
ただ、私の船団が軍の徴発によって侵略に利用されただけなのだ。
そう言いたかった。
だが、言えぬ。
言えない雰囲気を、目の前の少年は纏っていた。
そして、
「いやあ、皆さん、よくいらしてくれました」
笑みを浮かべている黒髪の少年。
「アル、失礼だろう。せっかく来てくれたのに」
「こいつら、全員、叩き殺した方がいいぞ」
「こらこら、過激なのはよくないなあ」
黒髪の少年は、微笑む。
「これから、僕達に協力してくれる人たちじゃないか。短慮は良くないよ。
いくら、故郷の街が酷い損害を受けたからと言ってもね」
クール―島の領主として派遣された少年。
レオ・リ・ミラー子爵。
彼は優しい笑顔を浮かべていた。
それは、凶暴な光を瞳に宿した少年とは対照的だった。
ようやく仕事が一段落。
3月からまた忙しくなりますけど・・・




