47.少年編:僕達の現状4
少年編のプロローグの終わりです。
「ふむ、そうなると島の北側の港までは確保できそうか。攫われた領都の子供達も無事の様だし、実にいい結果だね」
トウゲン侯爵領の領主様ことクレハ様が、満足そうに頷く姿を、奥の間の通信鏡が映しだしている。
僕がクレハ様と出会ってから4年は過ぎているけど、領主様は変わっていない。
出会った頃から、年齢の割には若々しい姿だったけど今もその時から年を取っていないようにすら見える。
まあ、まだ4年だしね。老け込むには早いから当然かも。
「保護した子供たちの体調次第ですけど、次の領軍の定期便で送るようにしようかと」
「ああ、早い方が良い。次の便は例の試作機を積む予定だから、帰りにスペースが空くはずだ」
「もう出来たのですか。さすが、開発局」
「翼断面の形状についての情報を、ゴンが感謝していた。あと、グリモス局長がレオを寄越せと煩いから、時々餌をやって宥めるように」
「あの人は、相変わらずですね」
一応、レラの義理の親になるグリモス局長。
最近は局長の仕事をゴンさんに押し付けて自分の研究に没頭する傾向が強いらしい。
あ、ゴンさんはレティさんと結婚した。
へたれだったのに、頑張ったよね。
そのレティさんは、びっくりしたことにグリモス局長の齢の離れた妹だった。
そのせいで、ゴンさんがテラアマス家の時期家長となる話もでてきているらしい。
というより、押し付けられそうになっているとか。
さすが、テラアマス家。自分の研究の方が大事な人たちで溢れているね。
「魔導船についてだが、追加の派遣は暫く無理だ。新しい船体自体は完成したが、乗員の訓練と周りが五月蠅いのでね」
一年前の戦争の際に大活躍したトウゲン領軍の魔導船。
領軍保有の6隻の内、2隻をクール―島に派遣してもらっている。
戦争時に示した威力のお蔭で、その姿を見るだけで海賊や海賊もどき武装商人や私掠船の半軍人など、海の邪魔者達が逃げていくので非常に便利。
巡航に出ている一隻と、手持ちとして南の港に停泊している一隻の他に、北の港に一隻を配置しておきたかったんだけどね。
どうやらそれは無理らしい。
仕方ない。そこは、知恵と工夫と魔法のごり押しで何とかしようっと。
「レオが又なんか企んでるぞ」
「時々、悪い顔するよね。レオくん」
後ろのバカップルが何か言っているけど、僕は悪巧みなんてしないよ。
その後も暫くクレハ様と、現状の説明と今後の方針について打ち合わせる。
これだけ離れた場所にいても、クレハ様と密接に連絡をとれるから凄く便利。
逆に言うと、奥の間の様な魔法道具が充実しているから、僕の様な子供でも安心して島の領主を任せられているのだと思う。
領主様との長い打ち合わせが終ると、アンが起きてきた。
限界まで使われていた魔力が回復している。本当に恐ろしいまでの回復力だね。
「うむ、気分爽快! あと、難しい話は終わったよね」
こいつ、途中で目が醒めていたのに寝たふりをしていたのか。
何で、僕以外の三人はクレハ様との話になると逃げようとするのだろう。
「だって、そういうのは昔からレオの担当だぞ」
「だよね」
「そうなのだ」
全員意見が一致ですか。まあ、さすがに4年間も同じことやっているから判っているけどね!
クレハ様との打ち合わせが終ると、クレハ様は部屋から出ていく。
残ったのは、リリーさんとミオ。
今日は通信の最初からいたけど、普段は打ち合わせの後に部屋に来る。
今日は北の港の件があったから、普段の打ち合わせ時間じゃなかったのが原因かな。
「おにーちゃん。この前のお土産ありがとー。お礼に街で見かけた面白い物送るように頼んだよ」
ミオの喋り方は未だに幼さが出ているなあ。行儀見習いの場ではきちんと喋れているのだろうか。
少し心配だ。
まあ、そんなことでアルがミオをいじめるとは思えないけど。
もし、いじめるようなら・・・訓練にも事故って付き物だよね。
「なんか、レオ、物騒な表情《顔》しているぞ」
「レオくんって、腹黒いときは判り易いよね」
「それがいい所なのだ」
いや、脅しって判り易いほうがいいじゃない。
「あ、私にも有難う。大切に使わせてもらうから」
いや、リリーさんへのお土産の方が本命です。クレハ様、怖いし。
ちなみに贈ったのは、北大陸産の真珠の髪飾り。
フーパールを脅して、もとい、協力してもらって手に入れた逸品。
「あたし、貰ってない!」
「アンはあれじゃ喜ばないだろ」
「ああ、領都で手に入る新刊は、全部送るようにしているわよ。レオ君の頼みで」
「おおー、さすがリリー様。それにレオ」
僕はオマケか。
リリーさんとアンの仲は悪くない。むしろアンは、面倒な第一夫人の役割は全部リリーさんにおしつけられると喜んでいる。
その後も会話が弾んでいる。
主に女性陣の間で。
アルがミオに話しかけないのが気に障るね。
「いや、だって、俺が話すとレオが怒るだろう?」
「ないがしろにしたら、もっと怒るよ?」
「俺にどうしろと!?」
「できれば、誰も悲しまないような死にざまでいなくなってほしい」
「おまえ、俺達、親友だぞ!」
僕の辞書に妹を奪い取ると書いて親友と呼ぶ項目は無いね。
とはいっても、クレハ様の御声がかりで決まった事なので、覆しようが無いけど。
僕達も成長するにつれて、魔法使いとして力をつけてきている。
でも、そうなればなるほど、クレハ様の実力を理解できるようになって、打ちのめされる。
本当に、クレハ様って何なのだろうね。
僕には意味がよくわからなかったけど、転生者はチートが普通なんて言ってた。
うーむ、僕には異世界の知識があるらしいけど、記憶は無い。なので、実感できない言葉なんだよなあ。
そういや、アンは頷いていた。
アンも僕と同じはずなんだけど、時々、クレハ様の意見に同調しているのが解せないね。
さておき、僕は一年前の戦争のおかげで、クレハ・リ・トウゲン侯爵から大陸間交易の要であるクール―島の領主に任命された。
そして、正式にミラー子爵家を継承し、名前もレオ・リ・ミラー子爵となった。
その上、クレハ様の娘の一人であるリリー・トウゲン令嬢と婚約の上、学塔の同期生でもあり高名な魔法使いのアン・ズーとも婚約している。
さらに、自分の妹を嫁がせてまで同期のアルバート・スピアローを身内に取り込み、さらに彼の婚約者である聖女レラ・テラアマスと共に領地の経営を行っている。
なんか、凄い成り上がり者だね。
これが自分の事とは信じられないけど、これが今の僕達の現状なのだった。
次は閑話。不幸なフーパール氏の話




