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領主様は転生者 ~え?僕もですか?~  作者: 赤五
幼年期(学塔生活の始まり)
43/48

43.閑話 トウゲン辺境伯領の企み

クレハ執務室にて


「子供たちは、今回の件を了承したということですな。御領主のお考え通りに」

「これで一安心だね。リサの方の問題も解決する見込みができたし」

「まったくですな。彼女の事は、我々の間違いが招いた事態ですしな」


 長年の懸念事項が片付いたと思ったら、王都の貴族派によってケチをつけられたところを、裏ワザを使って挽回することができた。

 それが、平民であるレオのミラー家への養子入りである。


「少々横紙破りですが、まあ、それは、いまさら御領主のされることですので。王都では騒いでいる者もいそうですが、なにも出来ないのは今までと変わりありませんが」

「あとは、さっさと功績を立てさせれば文句を言う奴もいなくなるだろう。

 どこかの開拓地へ送り込むか。ワシも一緒に」

「あなたは、暴れたいだけでしょう。それよりも何よりも研究で実績を上げさせるのが安全・確実・間違いなし。そうしよう」

「お主は、研究対象を確保したいだけだろうが」


 今回の養子縁組に関わった他の二人、リージェス・ラ・スピアロー子爵とグリモス・テラアマス男爵も、領主クレハ・リ・トウゲン辺境伯の執務室に来ていた。

 筋肉ダルマで大男のリージェス大隊長と、痩せた小男のグリモス局長。

 対照的な二人だが、仲は悪くなかった。

 トウゲン辺境伯を支える武と文の双璧である。もっとも、クレハの存在感が強すぎるため王都では余り知られていない二人だったりもする。

 

「今回の件に関する王国貴族達の具体的な反応ですが・・・」


 セバスが、今まで調査した結果を簡潔に述べていく。

 前置きで言った通り、深刻な反感を得たわけでは無い。

 もっとも、クレハは王党派。正直な所、王家から問題視さえされなければ、他の貴族家からの反感など意に介さない。それだけの力を今のトウゲン伯領は持っていた。

 それでも貴族的思考では孤立を恐れるのが普通だが、異世界転生者であるクレハにはその類の常識が薄かったので、本人は気にしていない。

 そんなクレハの態度を見て、セバス達が勘違いをしている所も多々あるのだが。


 セバス・ラ・トウサンは、自身の執務室に戻った。

 トウゲン辺境伯家の家令である彼の仕事は多い。

出来上がってから歴史の短い成り上がり貴族であるトウゲン辺境伯家において、彼のトウサン家は筆頭家臣としての地歩を固めていた。

領内の政治に関してはトウサン子爵家。

軍事においてはスピアロー子爵家。

学問においてはテラアマス男爵家。

トウゲン辺境伯領においては、この三つの貴族家が役割を分担して辺境伯領の統治に貢献している。

王国において貴族の求める物と言えば、真っ先に自家の繁栄が挙げられる。

そういう意味では、元々王都で無役貧乏貴族をしていたこの3家は、クレハに見いだされて成功した家といえるだろう。


「もっとも、御領主は我々に普通の貴族家としての立ち位置を望んでいらっしゃらないか・・・」


 その傾向は、辺境伯領創立の頃からあった。

 元々一族郎党などが少なかった事もあるが、各家に対して積極的に他のあぶれ貴族と言われる継承権が無い貴族家の者の養子縁組を勧めてきていたのだ。

 それは家を存続させるために必要な数より、遥かに多い人数だった。


「そして、貴族だけでは無く、優秀な魔法使いの素質が認められるとはいえ平民の子供との養子縁組。つまり、そういうことですな・・・」


 最近では口に出さなくなったが、出会った頃のクレハは貴族家など馬鹿らしい仕組みだと言っていたのだ。

 家系などに頼って政治の仕組みを作っているから、優秀な人間を採用することも出来ないし、国を腐らせる要因となっていると。

 だからと言って、貴族家を無くすなど現在の王国、いや他国においても不可能だ。

 なにより、自分たちを不要だと思っている貴族はいない。客観的にはどう見えても。

 貴族個人を嫌っている平民達でも、貴族という存在が必要であると思っているくらいだ。

 

「廃止できないなら変質をさせる、か。相変わらず恐ろしい方である」


 自家の勢力が強くなることを拒否できる貴族家の当主などいない。

 それはセバスでもそうであった。

 美味しい餌を食べていたら、できた身は今までと異なっていた。

 そんな予感がセバスにはある。

 大量の外部の人間を受け入れた結果、トウサン家は変質しつつある。

 外から見ると、トウサン家の勢力拡大に見えるだろう。

 だが、実際は、貴族家のトウサン家がトウゲン伯爵家の行政機構として再構築されているのだ。

 それも、今までの貴族中心の機構から、身分を問わない行政機構へ。

 今回の養子縁組は、優秀な魔法使いの素質のある平民の子供だった。

 ならば、次は只の優秀な平民と養子縁組をしても・・・


「いずれは、養子縁組が只の就職と変わらぬようになるかもしれん、か」


 冗談めかして呟くセバス。だが、それが只の冗談では収まらない事を、彼は無意識に認めていた。

 トウゲン辺境伯領で政治に関わるためには、トウサン家に養子縁組しないといけない様になる。そして、御領主は養子縁組の垣根をどんどん低くしている。

 そうなれば、将来は・・・

 

「しかし、そうなると、更にその先は・・・」


 御領主の思い描く組織が実現した場合、その組織は只の辺境伯領という一貴族の領地を治めるには過分すぎないだろうか。

 今でも、軍事や学問分野では既に、辺境伯とはいえ伯爵位にしては過剰すぎるほど目立っているのだ。

 なら、御領主が思うその先は・・・


「これは、口にするわけにはいけないな」


 セバスはそう思う。口にするわけにはいけないが、その時のための準備だけは進めておかねばと。

 それが例え、生まれ育った国に反旗を翻すことになろうとも。




「そうか、小麦を加えればいいのか。さすがはレオ君。いい知識だ」

「大豆だけで作ると、たまり醤油しかできませんからね」


 一方、そのころのクレハはレオに尋ねた醤油の量産のやり方の回答を聞いて満足していた。自分の執務室での打ち合わせが終ったあと、抜け出してきたのだ。

 それにしても、レオの異世界知識は素晴らしいね。と思っていたりする。

 私は記憶があっても、そのあたりは勉強不足で知識不足だったからなあ。


 そんなレオを、他の領地の貴族に取られることを恐れて囲い込むことを目指した今回の企ては非常に上手くいった。と、自画自賛するクレハ。

 これで、法律上も慣習上も、他の領地貴族に横取りされることは有り得ない状況にできたのだ。

 ついでに、彼自身の意志でどこかに行かない様に友人である同期の子供達も、トウゲン辺境伯領に取り込んでおいたし。

 あとは、リリーと仲良くなってくれると都合がいいなあ。

 いろいろ記憶にある物(主に食べ物)を作るのに、彼ほど相応しい人材はいないのだ。


 クレハ・リ・トウゲン辺境伯。希代の英雄と言われた彼が考えているのは、この程度の事なのであった。

 それをセバス達は知らないだけである。


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