41.活動編:夏休み5 複合属性魔術の特有化3
「という感じで、瞬時に土人形を作成するのがアンの術です」
暫く休憩した後に、アンが複合属性魔術『土人形作成』を成功させた。
休憩したのは、安全のためモルメルトさんの魔宝晶石に魔力が溜まるのを待つためだった。さきほどの爆発を防ぐのに、生体魔力を使うところまで魔力消費をしてしまったようだ。
モルメルトさんの魔力容量は、大きくないみたい。それでも有名な学者先生だというのだから、その分、知識と技術で補っているのかな。
リリーさんが師事するには合っているかもね。
アンが作成する土人形。
人形って名前が付いているけど、作成されるものは人型に限られてはいない。
アンのイメージと魔力で作成できる範囲だけど、どんな形でも作れる筈。
現に今作っているのは、マッサージチェア型の土人形だね。
「あー、肩凝りに効くー」
僕達の年頃の子供が言う台詞じゃない。
普段、寝転がった姿勢で本を読んでいるから変な肩凝りになるのだと思うけど。
そんな訳のわからないものを作り出して、周りを混乱に導くのはやめて欲しいね。
「とりあえず、貴方たちの術構成は分析できたから。
さっそく、特有化しましょうか」
「え、そんなに早くできるのですか?」
「たっぷりと、上質の魔晶石を用意してもらっているから。
いくら使いつぶしてもいいだなんて、ほんと、ここの領主様って気前が良くて素敵よね」
魔晶石はトウゲン辺境伯領の特産物だし、領主様なら簡単に入手できるからかな。
遺跡街で生産しているし。
特有化をするためには、対象となる術構成を分析して魔法陣を作成する必要がある。
術構成の分析は本人じゃなくてもいいけど、魔法陣の作製自体は自分で魔力を籠めて作成しないといけない。
そうしないと魔力の反発がおきるからね。
そして、魔法陣の作製に失敗すると当然特有化も失敗する。
魔法陣の作製に失敗しないためにはできるだけ大きな魔法陣を作成する方がいいと言われている。そうすると細かい所の製作が簡単になって失敗しづらいし。
だけど、大きな魔法陣を作るには大量の魔晶石が必要となるのだ。
しかも、質の高い物が要求されるため、術の特有化をするためには本来とんでもない費用が必要とされる。
でも、今回は只。
この機会を逃すわけにはいかない。
「先生、どれぐらい魔晶石が必要ですか?」
「そうねえ。この子達の魔術って結構複雑だから。高品質中サイズぐらいのを2つくらいかしらね。一人当たり」
「え、それって普通の2倍の量ですよ」
「それくらいは必要ね。私の見立てでは」
「はい、わかりました」
リリーさんが一旦別の部屋に行き、魔晶石を持ってくる。
この前、教室で魔晶石粉を作った時の物と比べて二回りは大きい魔晶石だった。
それが一人当たり二つ。これだけでひと財産だね。
「それじゃ、術の分析結果を構成式にしてっと。
あら、こんな風になるのね。・・・随分と共感度が高いこと」
感心したような声で呟きながら、なにやら手元の道具を操作しているモルメルトさん。
色々なスイッチが付いている板の部分と、様々な模様を映し出しているガラスの板がついている魔法道具だった。
「ノートパソコンみたいなのだ」
「大きさからすると、ラップトップの方が近いかな?」
アンの感想と僕の感想は微妙に違う。
アルとレラは、又、僕達が変な事を言っているね、という感じでこちらを見ているけど。
駄目だ、これでは僕までアンの同類に思われてしまうじゃないか。
気を付けよう。
「この魔法道具は、クレハ辺境伯の助言で完成したものなのよ。それまでの物と比べると、もの凄く使い易くなったの」
昔からあるものは、解析用の装置だけで大部屋いっぱいの大きさが必要で、とても持ち運びできる代物ではなかったそうだ。
さすが領主様。手を出す分野に見境がないね。
モルメルトさんは、装置を弄る。スイッチを適当に押しているだけの様に見えるけど、指先が見えない程動きが早い。
うーむ、特有化の遣り方を盗み見して覚えられないかと思ったけど無理だね。
リリーさんに覚えて貰ってから利用させて貰おうかな。
たしか、リリーさん、結構ちょろかったし。
「レオが悪い顔している」
「いつもの事だぞ」
「ちょっと、レオ君は気づいていないつもりなんだから、触れないであげようよ」
何気に皆が酷い気がするんだけど。
僕って結構デリケートなんだけどなあ。
傷ついたので、特有化の手伝いに失敗するかもね。残念だ。
モルメルトさんが、魔法道具を弄って行っているのは術の分析と特有化のための設計図作り。
僕達は設計図を参照しながら、魔晶石に術の構成式を構築する。この時に術の複雑さに応じて必要とされる魔晶石の量が決まる。
複数の魔晶石を利用する場合は、それだけで構築が面倒になるので、できるだけ質が良くて大きな魔晶石を使うことが良いらしい。
「さすがに、高品質大サイズの魔晶石は手持ちがないから、少し術の構築が大変かもしれないけど。これでも、他の所でやるよりは、ずっと条件がいいからね」
必要とされるのは魔力操作の緻密さと、術の構成式を構築する魔晶石に合わせて分解していく事。特に分解する方は、術の構成を熟知していないとできないので難易度が高い。
僕とレラは大丈夫そうだけど、心配なのはアンとアルかな。
特にアンの場合は、失敗すると何かと爆発させるから不安。
リリーさんが、本当に大丈夫かしら?なんて顔をしている中、とりあえず僕から挑戦する。魔力操作に関して、一番精密にコントロールできるのは僕だし。
モルメルトさんから渡された設計図を基に、構成式を確かめていく。
ここまで簡単に構成式に変換できるなんてすごいけど、これはモルメルトさんの腕なのか使っている道具が優れているのか。たぶん両方なんだろうなあ。
魔力容量が不足していても問題の無い技術。興味があるね。
なんて余計なことを考えながらでも、魔力操作を誤らない程度の技量を僕は既に身に着けていた。
なんたって、他の皆の手助けをするために普通なら有り得ないほど細かな魔力操作をしているし。
他人の魔力を操ることは、自分の魔力を操るよりいい練習になるんだけど、他の三人に勧めても「そんなのできない」と言われる。
皆、努力が足りないよね。
その分、アンは魔力が足り過ぎているし、アルは腕力があり過ぎているし、レラは可愛さが溢れているけど。
などと考えている内に、構成式を分解して3つの魔晶石に魔法陣を構築できた。
そして、魔宝晶石に蓄えた魔力量はまだまだ余裕がある。
これなら大丈夫だろう。
「それじゃあ、魔力循環の経路の途中にその魔晶石を入れてね。魔力を循環させて馴染んだら、魔晶石粉を作る要領で魔晶石を砕いてもらうわ」
馴染んだかどうかの合図はモルメルトさんが出してくれるらしい。
親切だね。
まあ、僕達の初体験なのだからそうじゃないと困るけど。
こういう時にやたらと勿体ぶる人も、魔法使いには多いそうなので、領主様は良い人を招待したようだ。
そんな良い人の合図で、僕は自分の複合属性魔術を構築した魔晶石に魔力を流して砕いた。砕かれた魔晶石は魔晶石粉に変化し、そのまま僕の魔力循環の経路に溶け込んでいく。
溶け込んだ魔晶石粉を誘導して、ゆっくりと体内に取り込む。
お腹の中に溶かし込むようにという説明があったけど、太陽神経叢に取り込む感覚なのだろうか。
太陽神経叢?
知らない単語が突然思い浮かぶのはいつもの事だけど、こういうのはアンの方が詳しい気がするなあ。
おっと、集中集中。
余計な事を考える余裕があるほど、僕の魔力操作の流れに沿って魔晶石粉が循環していく。こういう精妙な操作が必要となる事って、やっぱり僕の得意分野のようだ。
やがて、魔力循環の経路の中から魔晶石粉が消えた。
そのタイミングで、モルメルトさんに肩を叩かれる。
「はい、そこまで。
どう?気分とか悪くなっていない?」
「いえ、別に何も」
「あらあら、凄いわねえ」
普通は、体と魔晶石粉が馴染めなくて体調を崩すらしいけど、僕は平気だった。
上手く特有化が出来たのかな?
その後、暫くモルメルトさんにペタペタと体を触られた。
どうやら、指にはめた指輪を使って特有化が出来たかどうかを確認しているらしい。
具体的に何をしているのかは判らないけど。
正面から抱き着かれて背中を触られたりしているし。
これって、男の人が女の人にするとセクハラだよね。
「あら?やっぱり体調が悪いのかしら。顔が赤いわね」
「いえ、別に何も」
うん、僕はまだ子供だしね。何も判らないや。
でも、モルメルトさんの胸が大きいのは判ったけどね。
「むう、レオが助平な顔をしているのだ」
言いがかりはやめてほしいなあ。僕はまだ子供だよ。




