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3. プロローグ:旅立ちの日

 結局、迎えの馬車が来たのは翌日だった。

 領軍の旗をつけた軍用の大型馬車。

 それに護衛らしき兵士が10名ほど。

 一分隊の兵士付だなんて、僕を迎えるだけにしては大げさだなと思ったが、どうやら領軍の行軍訓練も兼ねているらしい。

 更に新型馬車の運用試験も兼ねているとか。

 そんなことを語る隊長さんの話を、僕は村長さんの隣で聞いていた。

 

「君が、レオか」


 村長との会話が終ると、隊長さんは僕に話しかけてきた。


「はい、アルケー村リオの息子のレオです。

 領都までの道中、宜しくお願いします」


 そう言ってお辞儀をしてから、領主様の召喚状を隊長に見せる。

 隊長さんは騎士爵持ちだから、丁寧に対応しておいた方がいい。


 隊長さんは、召喚状をざっと見た後、僕に視線を移し納得したように頷いた。


「ふむ、まだ教会小屋を出たばかりだというのに、随分落ち着いているな。

 礼儀も弁えている。さすが御領主の御目にかなった子供だ。

 ・・・もう一人にも見習ってほしいものだが」


 もう一人って誰だろう?

 疑問に思ったけど、話を遮るのも失礼なので質問はしなかった。

 

「早速だが、出立の準備はできているか?

 まだのようなら、少しなら時間の猶予を与えるが」

「はい、既に準備はできていますので、荷物を持って来ればそれで済みます」


 はて?何故か隊長さんの表情が残念そうになっている。


「いや・・・ 家族とも暫く別れて生活することになるのだ。

 少々別れの挨拶などしてきても構わないぞ」

「いえ、家族とは既にお互い納得していますし・・・」

「だが、君の様な子供を手離すのだ。間際になればいろいろ語り合いたいこともあるのではないかな」


 今さら話すこともないんだけど。

 でも、僕は気づく。

 隊長さんの視線が、時々村の中の施設に向けられていた。

 そういえば、今は行軍訓練中だと言ってたっけ。

 なるほど、そういうことかな。

 僕は隊長さんの視線が向けられていた方向を見た後、隊長さんと目を合わせる。

 これでも僕は空気が読める男なのだ。


「そうですね、そういえば両親はともかく、妹が少しぐずっているかもしれません。

 2時間程時間をいただければ」

「そうだろう、そうだろう。うむ、君の希望であるなら仕方が無い。2時間程猶予を与えよう。時間がきたら、再びここに来たまえ」


 隊長さんは嬉しそうに言う。

 

「村長よ、すまないが、レオ君の別れの挨拶の間、我々も待ち時間を潰すために浴場を借りたいのだが」


 だよね。行軍訓練中ってことは今まで村に宿泊することもできなかった筈だ。

 当然、今まで風呂に入る事も出来なかったということで。

 迎えにきた子供の我儘で出来た時間を、有効活用しないと駄目だよね。

 この領地の人間に風呂好きは多い。どうやら隊長さんもその1人のようだった。

 他の兵士さん達からも歓声が上がる。

 この領地には風呂好きの人が本当に多いのだということを、僕は改めて実感した。


「それと、馬車の中に女の子がいるのだが、女性のどなたかに風呂の世話を頼みたい。

 迷惑をかけて申し訳ないが」


 馬車の中に誰かいるようだ。

 ひょっとすると、僕と同じ立場の子供だろうか。

 でも、風呂くらい1人で入れるよね?

 隊長さんって、子供に対して過保護な人なのかな。

 そんなことを思いながら、僕は家に戻る。

 どんな子か興味はあるけど、どうせ、領都までの道中で一緒になるんだから、その時に紹介してもらえばいいし。

 

 家に戻り、改めて持っていく荷物を確認する。

 大した荷物は無い。着替えと身の回りの物くらいをつめた小さな背負い袋が一つ。

 そのほかには、両親が持たせてくれた甘い携帯食くらいだ。

 支度金の大部分は家に残しておくし。

 何かあった時の為に、馬車で村に戻ってこれる程度のお金だけ隠し持つことにする。

 召喚状には衣食住の面倒を見てくれた上で、給料も貰えるって条件だったから大丈夫だろう。

 荷物を確認していると、ミオが近づいてきた。


「おにいちゃん。もう、行っちゃうの?」

「まだ少し時間あるけど」

「じゃあ、それまで一緒にいるー」


 暫く会えないのだから、ここは甘えさせてもいいかな。

 この一か月、さんざん甘えさせてきた気もするけど。


「おやおや、ミオは最後まで甘えん坊だね」

「ふむ、ミオ。お父ちゃんに甘えてもいいんだぞ」

「やだ、おにいちゃんがいい」


 父さんは、子供の中で唯一の女の子であるミオに甘い。

 もっとも、ミオは父さんより僕に懐いているけど。

 でも、父さんもそんなに落ち込まなくても。

 これからは、僕が居なくなるので、その分ミオも父さんに甘えるようになるかもしれないし。

 母さんは、いつものように泰然としている。

 変な子供だった筈の僕をいつでも見守ってくれた人だ。


 そして、独立してから普段は家に立ち寄らない長男のジャン兄さんと、もうじき結婚する次男のライ兄さんと、そのうち家出して冒険者になりそうな三男のフェブ兄さんも顔を出す。


 兄弟の間でも、僕は少し、いやかなり浮いていたと思うんだけど。

 村の子供たちと馴染めなかった僕をかばってくれたりした兄さん達だ。

 

「それにしても、レオが俺の次に独り立ちとはな。お前ら、負けてんじゃねえか」

「うるせーな。俺は来年、結婚して家を出るんだから直ぐに追いつくんだよ」

「オレ、負けてねーし。レオが異常なだけだし」

「「「まあ、レオがおかしいのは確かだけどな」」」

  

 最後は三人ではもって言う。

 うん、僕も遠慮はいらないよね。


「ジャン兄さん、あなた最年長だから独り立ちが最初なのは当たり前です。

 それより行商人のカーラさんと仲良くし過ぎてると、義姉さんに愛想尽かされますよ。

 ライ兄さん、僕の支度金は父さんに預けるんですから、借りるならちゃんと利子込みで返済してくださいね。

 フェブ兄さん、それ、負け犬の台詞です」

「「「相変わらず容赦ねえーな、お前は」」」


 その後は、なぜお前が知っている、いや、あれは違うんだと言った長男の言い訳や、利子を払っても自前の田んぼを手に入れた方がいいのかどうか悩む次兄や、僕を追い越すための無謀としか思えない計画を話す三男の相手をしつつ、妹の頭を撫でて、父さんや母さんに頭を撫でられたりした。


 そういうことで、家族と過ごす2時間は結構にぎやかに過ぎて行った。

 約束した時間が来て、荷物を背負った時に鼻の奥が少しつんとしたけど、きっと気のせいだろう。

 僕の家族はこの村にいる。

 それだけは、この先も変わらない。


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