29.魔法教育編:聖属性審理1
推敲不足なので、後日修正する可能性高いです。
僕達が三元属性操作の練習を開始してから、二巡り(2週間)が経過した。
学塔で学び始めてから、約三か月たったことになる。
季節は秋から冬に変わっているけど、領都は僕のいたアルケー村ほど寒くなかった。
どうやら、領都の沖の海流は暖流らしく、その影響で冬でも厳しい寒さというものは無いらしい。
それでも、この時期で屋外の練習は辛いけど。
「本来なら、春先から学ぶ内容だからな。
なに、子供は風の子というだろう。このくらいの寒さなど問題あるまい」
と、リサ教官。赤毛で短髪の嫁ぎ遅れ気味の美人教官は、暖かそうなコートに身を包んでいる。
大人なので寒さには弱いらしい。どう見ても着ぶくれしている。
「リサ教官は厚着ですね」
「寄る年波というやつであろう。大人しく教室で待機していた方がよいであろう」
余計な事を言うブリアレス教官。直立した熊のようなブリアレス教官は、かなりの薄着だ。もしかしたら、本当に熊の様に全身に毛が生えているのかもしれない。
「だれが、年増だ。この熊もどきが」
「自覚があるようなら結構であろうな。そろそろ将来の事を考えたらどうだ」
「余計なお世話だ」
うん、二人とも通常運転だね。
僕はそっとその場を離れる。
三元属性の操作を練習しないといけないしね。
現在の所、僕は3元属性すべてを操作することができるようになっていた。
只、地元属性の操作は他の風・水と比べて今一つうまくいっていない。
単純に動かすだけならできるのだけど、複雑な操作をしようとすると直ぐに制御に失敗する。
余りにも上手くいかないので、動かした土に風を使って操作してみた。
こっちの方が上手く行ったけど、教官達が頭を抱えていた。
どうやら、複数の元属性同時制御はもっと先で学ぶ方法らしい。
でも、出来たからいいじゃないかと思う。
アンは僕とは逆で、風元属性の操作が苦手のようだ。
そして、
「風が見えないのが駄目なのだ」
と言って、埃を巻き上げてから空気を操作しようとしている。
おかげで周囲が砂埃で、埃まみれになっている。
本当に周りに迷惑ばっかりかける奴だ。
でも、そのお蔭か、少しずつ風操作のコツを掴んでいるようだ。
レラは水を動かすコツを掴んだ後、すぐに風や地元属性の操作を覚えることができた。
ただし、操作した風や土の動きがゆっくりすぎる。
早く動かそうとすると、すぐに失敗して、恥ずかしげに顔を真っ赤にする。
とろくさいけど可愛い。
既に落ち担当になっている気がするアルは、相変わらずおかしな事をしている。
アルが地面を踏みしめると、地割れが起きる。
気合いを入れて地面を突くと大穴が空く。
これも、土を動かす内に入るのだろうか?
いや、確かに動いているけど。何かが違う気がする。
ちなみに、土を盛り上げたりする事は一切出来ていない。
割ったり穴を開けたりというような抉る事しか出来ない。
不思議すぎて、教官達が考えるのを止めている気がする。
そして、水属性の操作は超がつくほど苦手で、今までの所全く成功していない。
なので、レラに教わっているけど、もしかして教わりたくてワザと出来ないふりをしているのではないだろうか。
いや、そこまで考える頭はアルに無いだろうから、僕の勘繰りすぎだろうけど。
そうやって練習をしている僕達の所に、
「やあ、よくやっているね」
「ほう、この子たちが、おぬしのお気に入りかの」
暫く姿を見なかった領主様と、ネズミ顔の男がやってきたのだった。
「「「レイド・テラワラス枢機卿閣下!?」」」
僕達4人と教官達、それに領主様とお客様は学塔の教室に戻っていた。
そして、領主様からネズミ顔の男を紹介される。
びっくりしたことに、ネズミ顔の男の人は王国総合教会の枢機卿らしい。
王国総合教会って、王国の宗教を一手にまとめている組織で、枢機卿というのは教皇に次ぐNO.2集団の地位にいる人の事だ。
集団というのは、枢機卿は一人では無く複数いるからで、彼らは教会の運営における実務の最高責任者達である、と座学の中で教えて貰っていた。
つまり、貴族とは異なるけど超お偉方。僕達からすると遥か雲上の人である。
なんでも、領主様の昔からの知り合いで、先月から王都で開かれていた上納会が終わった後、誘って一緒にトウゲン領に戻ってきたとか。
「拙僧は、今は半休暇中でもあるでな。あくまで私人としてトウゲン領にきておる。
無用な気遣いは不要じゃ」
偉い人にそう言われて、はいそうですかと気安く接することが出来るほど僕の肝は太くない。
教官達でさえ緊張しているのに。
それにしても、わざわざ僕達に逢いに来るなんて何の用なのだろう?
疑問に思っていると、リサ教官も同じく不思議に思ったのか領主様に尋ねた。
「ああ、今年の子達は、上達が早いようだしね。早めに聖属性審理を受けて貰おうと思って連れてきたのだよ」
「確かに、前例のないほどの学習速度ですが。
しかし、いくらなんでも早過ぎます」
「ある程度、元属性操作が出来ている上に、全員が聖属性審理に必要な魔力容量に達している。早すぎるという事はないだろう」
「しかし・・・」
聖属性。たしか、三元属性とは別の属性だっけ?
特殊属性扱いされていた気がする。それを審理するってことは適正を見るのかな?
でも、それだけだとリサ教官が反対している理由がわからないけど。
「領主様、聖属性審理って何ですか?」
とりあえず訊いてみる。
「ああ、君達に聖属性の適性があるかどうかを確認してもらうだけだよ。
本当なら、毎年春頃に審理してもらうのだけどね。
今回は、た《・》ま《・》た《・》ま《・》レイドが、うちの領に遊びに来ることになったからね、ついでに頼んでみただけだ」
「クレハの頼みとあらば断われぬでな。拙僧はあくまで審理をするだけじゃ。
教官殿、余計な心配など不要ぞ」
んーと、僕達が聖属性審理ってのを受けるのに必要な条件に達したから、早めに審理するだけなのかな?
いいことだと思うけど。リサ教官は不安そうなのが気になる。
その後、暫く雑談をしてから今日の授業は終了となった。
いつも夕方にやっている杖術の訓練も無しで、明日の聖属性審理に備えて体を休めておくことと、魔宝晶石へ確実に魔力を溜めておくことを指示された。
体を動かせなくて不満そうなアルを宥めながら、僕達は教室を後にする。
教室の中に、領主様達と教官達、それに枢機卿閣下を残して。
──教室内にて──
リサ・ラ・ミラーが微かに浮かべる表情をみて、クレハは彼女が不安、もしくは不満があることを察していた。
とはいっても、その解消のための会話を子供たちに聞かせるわけにはいかない。
それは、非常に微妙で深刻な内容を含むからだ。
クレハは軽く魔力を放出して瞬時に結界を展開する。
クレハにとっては軽くだが、それは普通の魔法使いからすれば桁違いの魔力量。
一瞬の内に教室内に張り巡らされた防諜結界は、さらに学塔全体を覆う2重の結界に変化した。
「これでよしっと。
まあ、レイド付の護衛や侍従はまだ遺跡街だから、念のためだけどね」
「少々、大げさではないか?」
「念のためさ、念のため。ということで、ここで話したことが外部に漏れることは絶対に無い。好きなように話してくれ」
それでもリサは発言を躊躇う。
「美しいお嬢さんに警戒されるのは悲しいのう」
おどけた様に言うレイド枢機卿。
「先ほども申したが、拙僧はクレハの味方じゃ。審理にかこつけて悪さはせぬよ」
「聖属性使いを疑わぬ程、純粋でありたいものですが」
「おや、お主はクレハも信じておらぬと?」
「教会の聖属性使いというべきでした」
「まあ、教会からすれば、あのような才溢れる魔法使いは是非とも欲しいのは確かじゃな」
レイドは笑う。
「じゃが、拙僧が頼んでみたがクレハには断られた。なら、拙僧は無理はせぬよ」
「それを信じよと?」
「拙僧を連れてきたのは、クレハじゃ。拙僧を信じられずともクレハなら信じられよう」
「リサ、今の段階なら、あの子たちは優秀な魔法使い候補生。
教会が欲しがるだろうけど、それだけだ。
でも、春頃にはどこまで成長しているかな。
その時に教会が欲しがるだけで済むと思うか?」
「だから、今の内に審理を受けさせるというのですか?」
「その通り。一度受けたら、二度受ける必要は無い。
教会の裏の連中に出番を与えない」
「せめて、奥といって欲しいものじゃがな」
「なら、少しは真っ当に活動するように指導することだ」
「奴らは、善意で動いているつもりだからのう。困ったものじゃ」
レイド枢機卿は、リサ教官を見つめなおす。
「心配せずとも、拙僧は審理しか行わぬ。“勧誘”も“誘導”も行わぬ」
「勿論、“説得”もですね?」
「当り前じゃ」
レイド枢機卿は頷く。
「それは、枢機卿閣下の教会への不忠となりませんか?」
「お主たちより、拙僧はクレハとの付き合いは遥かに長いのだぞ。こやつを敵に回さない様に立ち回る事こそ、教会への最大の貢献じゃ。
わかっとらん馬鹿共も多いがな」
「なるほど」
リサ教官は深く頷く。
「大変、失礼いたしました。レイド枢機卿閣下。
明日の聖属性審理、宜しくお願いします」
「なに、気にしてなどおらぬよ。おぬしのような良いおなごが教官だとは、あの子達も幸せというものよ。なんだったら、おぬし、拙僧の元に来ぬか?」
「それは、お断りします」
「うーむ、振られてしもうたか、ん?」
レイド枢機卿は視線を変えた。
「気のせいか、殺気を感じたような・・・」
「気のせいでしょう、枢機卿閣下。お帰りはあちらです」
視線の先にいたブリアレスは、にこやかに扉を指さした。
設定
聖属性:人間の想いが変じた魔力を操作する。
対象は人間そのもの。
人の肉体も、精神も対象となる。
その力は、肉体の傷を治し、病を癒す。
そして、心を操る。
 




