28.魔法教育編:三元属性操作2
元属性操作を習い始めた翌日。
僕だけ先に、魔法の兆しがあった風以外の元属性操作、水と地の元属性操作の練習をしてもいいと許可された。
他の三人は、兆しのあった元属性操作をもっと上達する必要があるみたい。
なので、早速水元属性の操作に挑戦してみる。
領主様謹製の教科書には、一元属性も三元属性も扱えるのは当たり前って書かれていたけど。
実際の所、世間では一元属性しか扱えない者は魔術師、三元属性を全て扱えるものは魔法使いと区別されている。
つまり、それほど難易度に差があるわけで。
兆しの無い元属性操作は大変だ、そう思っていた時が僕にもありました。
「むー、レオくん、ずるいー」
膨れるレラが可愛い。
空気を操る要領で、バケツの水を操作してみたらあっさりと上手くいった。
コツは魔力と水を十分混ぜ合わせた状態にしてから操作することかな。
もっとも、空気を操って風にする時は、混ぜ合わせた状態にするのに大した時間は掛からなかったけど、水が相手だと混ぜ合わせるのに5倍程の時間が必要だった。
相手の物質の粘度とかが影響しているのかな?
「狡くないよ。だって、教科書にも簡単だって書いているし」
「むー」
「でも、自在に動かすのは大変っぽいね。かなり練習しないと無理みたい」
「でも、わたし、動かすこともできないの」
「まだ習い始めなんだから、気にすることないと思うけど」
「レオくんが、言うと嫌味っぽいよ」
ああ、レラが落ち込んで毒のある言葉まで・・・
くそ、一体誰のせいだ(レオのせいなのだ、という声が後ろから聞こえてきたけど無視)
ここは、レラに協力して好感度UPをするチャンスだね。
さっそく、レラの魔力の流れを感知してみる。
最近、魔力感知が更に上達したうえ、学友の魔力に馴染んできたおかげで、他の三人の魔力の流れを詳細に感知できるようになっていた。
教官達の魔力は、そこまで感知できないので、これが子供の時期の魔力の共感というものかもしれない。
「あー、レラ。水とレラの魔力がよく混じってないよ」
「え、そうなの?」
「どんなイメージで水を操作しようとしたの?」
「えっと、こう、水を引っ張るような感じかな?」
「そうじゃなくて、魔力を水に溶かすような感じで、そうそう、水に塩を入れる代わりに魔力を入れるみたいな感じで」
「ん、やってみるね」
レラの魔力が、バケツの中の水に混じっていく。
全体が均一に混じった所で、僕は声を掛けた。
「いい感じになったから、あとは魔力操作の時と同じ要領で使用する魔力を多めにしてみて」
「こ、こうかな?」
バケツの水面が盛り上がり、噴水のように水が噴き出した。
水が噴き上げた瞬間、魔力の供給が止まりそのまま水が落ちてくる。
「やったー出来たよ!」
喜ぶレラが可愛い。落ちてきた水で、びしょびしょになっていたけど。
僕は、咄嗟に魔法障壁を展開したので濡れなかった。
早く、他人を対象にした魔法障壁の練習もしておいた方がいいかもしれない。
地面が盛り上がり、土の塊が動く。
それは一直線に走る、アンに向かって。
「ちぇすとー」
奇声と同時にアンが魔法障壁を展開。魔法障壁は土の塊を弾き飛ばした。
「なにやってるの?」
「む、汚れない様に守っているのだよ」
アンの兆しがあった元属性は地。昨日から土を操作する練習をしているけど、何故か自分に向かってしか動かすことが出来なかった。
そのせいで、土まみれになって大変だったので、今日は対策を考えていたらしい。
「は、は、は、向かってくるなら防げばいいだけ!
アンの全開魔法障壁に防げぬものなし!!」
「うん、元属性操作の練習は?」
「そ、それは、些細な事なのだ」
本末転倒とはこのことだと思う。
「あと、魔法障壁を展開していたら魔宝晶石の魔力が尽きたのだ」
「早すぎるだろう。アンの魔力容量で!」
どこまで非効率的な使い方をしているんだろう、この生ものは。
ちなみに、現段階の僕達の魔力容量は、
アン>僕>アル=レラ という感じになっている。
そして、僕の魔宝晶石は2/3以上魔力が残っている状態だ。
アンがどれだけ出鱈目な魔力の使い方をしているか、これだけでよく判る。
「ということで、魔力の補充をするからアンは寝る」
アンの魔力循環は、起きている時よりも寝ている時のほうが、経路が多くなり効率が良い。
寝ている時の魔力循環は、僕も出来る様になったけど、寝ている方が、効率が良いっていうのは意味が解らない。
教官達に聞いても、アンのような例は初めて見たらしい。
そのお蔭というか、アンは魔宝晶石の魔力が尽きた場合、昼寝をすることを認められるようになった。
もしかしたら、昼寝がしたいから無理矢理魔力を消費しているのじゃないかと、僕は疑っている。
「じゃあ、さっさと寝れば?」
「レオ、膝枕―」
ふざけたことを言い出すアン。
甘えるんじゃない、僕だって練習をしないといけないのだ。
「なんだ、アンは又、魔力が尽きたのか。レオも大変だな」
「いえ、一応、これでも練習は出来ますし・・・」
「まあ、レオがサボるとは思わないが。魔力が溜まったらアンを起こすようにな」
結局、アンの魔宝晶石に魔力が溜まるまで、一時間程必要だった。
起きている時の3倍以上の効率で魔力が溜まるって、一体どういうことなんだろう。
なんて思いながら、僕は膝の上のアンの頭を揺すって起こすのだった。
アルは、昨日より成長の跡が見えた。
なんたって、火の付いた蝋燭とアルの位置が昨日の倍以上離れているし。
それにしても、正拳突きしないと風を操れないって、何かおかしい気がする。
「ん? こういうのも出来る様になったぞー」
アルがその場で回し蹴り。離れて置かれた蝋燭の火が消える。
なんと、正拳突きだけでは無く、蹴り技でも風を起こすことが出来る様になったようだ。
「でも、レオみたいに風を自在に動かせない。
どうやればいいんだ?」
すまん、親友。僕にはアルが何をどうやって風を操っているのか判らない。
力にはなれそうにない。
「教官に相談すれば?」
「したけど、顔を顰められたぞ」
そりゃあ、こういう遣り方をされたらねえ。
普通の魔法使いの遣り方じゃないよね。
かといって、アルを放置しっぱなしというのも良くないか。
僕はアルの魔力の流れを観察してみた。
あと、アルの体の動かし方も。
僕と同じ9歳だとは思えないほど、がっしりとした体つきのアル。
その体が、滑らかに動く。
アルの動きは、筋肉だけに頼った力任せな動きじゃない。
きちんとした武術の動きなんだろう。
で、やっぱり、体の動きに合わせて魔力が動き、周りの空気と混じりあってから風となっていく。
アルにとっては、体を動かす事が精神集中の方法なのかな。
むしろ、筋肉で考えているんじゃないだろうか。
ということは、放出した後の操作も筋肉任せで出来ないかな?
「曲がらせたい方向に殴ってみたら?」
半分冗談で言ったんだけど。
「わかったぞー」
素直に試すアル。右の突きを出したあと、すかさず右の鉤突き。
いわゆるフックだね。
それであっさりと風の軌道が変わった。
「出来たぞ!! さすが親友!!!」
喜んで抱き着いてきた。
やめろ、暑苦しい。
「ぐ、いい膝蹴りだぞ・・・」
最近の朝のトレーニングに、徒手格闘技も加わっているので反射的に膝蹴りがでてしまった。一体、領主様は魔法使いを何だと思っているのだろうね。
そして、杖術も含めて、そういう武術系の分野ではアルの実力は僕達の中では突出している。まともに攻撃が入ったのは、今回が初めてかも。
僕は、はっきり言って防御専門だしね。
「よし、この調子で頑張るぞー!!」
そして、あっさりとダメージから立ち直るアル。
武術の訓練としか思えない元属性操作の練習に戻る。
アンといいアルといい、僕やレラみたいな常識的な魔法使いの練習はできないのだろうか。
まあ、結果さえ伴えばいいのかもしれないけど。
教官サイド
レオ達4人の様子を見ながら、リサ教官は溜息をつく。
「レオがいると私の出る幕が無いな・・・。やはり、あいつの将来は教導部隊が相応しい」
「それよりも、今年度の儂が教える予定だった魔法障壁まで全員が習得してしもうた。
レオに至っては、自動展開まで使いこなしておるし。
いっそのこと、その先まで教えるべきであろうか・・・」
「身体強化は、下手をすると体を壊すので早いだろう」
「アルなら問題が無い気もするが。筋力系では無く神経系の強化なら、他の三人も大丈夫であろう」
「クレハ様に相談するしかないな。もうじき、お戻りになる」
「そういえば、今の時期は上納会で王都へ行かれておるか。
・・・戻ってこられるまでに、あの子たちは三元属性操作を全員が習得しそうであるな」
「普通は、丸一年かかるものだが。行く末が恐ろしい子供達だな」
教官達は顔を見合わせて溜息をついた。
優秀すぎる生徒というものも、扱いが大変だということを改めて実感したのであった。




