26.番外編:王国総合教会
設定話が続きます・・・
世界設定をさりげなく伝えられる作者って凄いですね。
私には無理でした。。。。
王国総合教会。
王国で最大の宗教組織である。
というか、王国内において他の宗教組織はほぼ存在しない。
正確に言うと、はるか昔に他の宗教組織は全て総合教会に統合されてしまっていた。
ある意味においては、王家を凌ぐ巨大な勢力を誇る総合教会だが、彼等には政治的な野心など無い。
彼らの目的は只一つ。聖属性魔法の昇華であった。
「おお、英雄神様がおいでくださるとは。拙僧の如き一神官にとって畏れ多いことを。
ありがたやありがたや」
「ワザとらしいことは止めていただけませんか、枢機卿」
「いやいや、とんでもござらん。おお、このような所に立たせておいては申し訳ない。
これ、早く英雄神様をご案内せぬか。拙僧の部屋でよい。
教皇様に報告差し上げた後、直ぐに向かいますので。
少々お待ちくだされ」
クレハ・リ・トウゲンは王国総合教会の本教会を訪ねていた。
赤と金で彩られた巨大な入口の建造物が特徴的な場所である。
その巨大な建造物は、クレハの目から見ると派手な鳥居にしか見えないのだが。
以前、枢機卿に話した時はその単語は通じなかった。
ちなみに、その建造物の名は大天門と言われている。
この門が象徴することが、王国総合教会の教義をよく示している。
大天門は、天と地を繋ぐ門であり、善行を積んだものが行く先である天国への入口でもあり、悪行を積んだものが落ちる地獄への入口でもあり、戦乙女が待つ永遠の戦場への入口でもあり、輪廻転生の環に入るための入口でもあり、輪廻転生から解脱するための出口でもあり、光と闇の神が互いを見る窓でもあり、海と空の境にある夢幻郷への穴でもあり・・・・・・その後、数十にも及ぶ宗教的な事象を象徴しているとされる。
ちなみに他国の複数の宗教組織からの王国総合教会への見解は、
「無節操すぎる」
いかにももっともな見解であると、クレハも思う。
クレハの記憶にある前世の国での宗教感も、他国から見るとかなり変な状態だったが、この国の宗教と比べると、まだ大人しかったように思うのだ。
なにせ、まだ生きている自分が神様にされているのだから。
「いや、だからそれは違うといっておるだろう。あくまでもおぬしは英雄神の代理であって、別に神様そのままというわけじゃない」
「なら、神像の顔を私に似せるのは止めてくれ」
「それは、昔からの伝統だからな、無理じゃ」
「お年寄りに拝まれるのは辛いのだぞ。いたたまれなさを判れ」
部屋に戻ってきた枢機卿は、先ほどまでの恐縮した様子など一切みせずに、気軽にクレハに話しかける。
レイド・テラワラス枢機卿。王国総合教会を支えるテラワラス家の当主にて、若くして枢機卿の地位を手に入れた男。
そして、クレハと昔馴染みであることは、オルクス三世と変わらない。
他人の目があるところではともかく、気ままに振る舞える場所ではクレハときさくな関係を続けている所も一緒だ。
そしてクレハを当代の英雄神に仕立て上げた張本人でもある。
勿論、それは嫌がらせなどではなく、領地経営を始めたころのクレハを支援するためであったのだが。
当時は、少しでも支えとなればと思っていたが、今ではクレハが有名になりすぎたお蔭で、英雄神は総合教会の祀る神の中でも上位の信仰を集めるようになっている。
信仰心の稼ぎ頭だ。
「お蔭で、おぬしと縁の深い拙僧の聖なる業も力を増しておるし。
ありがたやありがたや」
「ほんと、聖属性って訳が判らない」
「おぬしとて使えるのに、相変わらずの言いぐさじゃな」
「別にどこかの神様を拝んでいる訳じゃないけどね」
「聖なる業を、神様を拝んで使えるようになるのなら、誰も苦労はせぬわなあ」
聖なる業といっても、所詮は魔法。技術を知らぬ人間に仕える訳がない。
などと、敬虔な信者には聞かせられぬ事を言うレイド・テラワラス枢機卿。
彼は、聖属性を魔法使いの観点から研究している研究者でもある。
そのせいで、不敬であるとして過去に教会を追放されかけた事もあったが。
いくら、節操の無い神様集めをしている教会といえども、許容できない事もあるようだと、その時クレハは思ったものだ。
その後、彼等は暫し雑談という名の情報交換を行う。
内容は多岐にわたる。
国内の貴族の派閥情勢から、他国の情勢。
教会内の勢力争いや信力争い。
この辺りの話は真面目っぽく行うが、途中から酒が入ってくる。
教会の戒律は、酒を規制したりしていない。
24柱の酒をつかさどる神様がいるぐらいだ。
酒が入ってくると、話題も緩くなっていく。
王都で見つけた酒の旨い店や、トウゲン領都で出来た料理の旨い店の話。
お互いの家族の話や愚痴。
「そういえば、おぬしの跡継ぎの息子、縁組はできたのか?
教皇様が気にしておられた」
「リックの事か。セバスが色々動いているが、王家の養女あたりで落ち着きそうかな」
「オリーの娘とはどうじゃ?」(オリーはオルクス三世の昔の愛称)
「さすがに、王家の直縁は周りが煩すぎるかな。それに、近臣が付いてくると、うちの領内の序列が面倒になる」
「おぬしでも気にするのじゃな」
「セバスが煩いからね。全く、実力も無い血筋だけって迷惑というより害毒だね」
「貴族嫌いは相変わらずじゃな。おぬしも仲間入りしているのだ。もう少し丸くなれ」
「うちの領内じゃ、貴族の意味が殆どないからなあ」
貴族に求められるものの内、文官的な能力や武官的な能力を持つ人材を、領民から集めることが可能となったトウゲン辺境伯領では、貴族的な人材が不要な統治体制が完成している。
その統治体制を支える施策の一つが、領内の幼い子供全てに教育を施す教会小屋制度であり、それには王国総合教会が深く関与していた。
「では、教皇様の孫娘あたりはどうじゃ?」
「さすがに、教会寄りになりすぎるだろう?」
クレハの第一夫人は、前教皇の娘の一人だ。
現教皇と前教皇は従妹同士なので、さらに教会の血を深めることになってしまう。
「拙僧に丁度良い娘がいれば良かったのだがなあ」
「レイド似の娘は、ちょっと・・・」
「おいおい。拙僧が気にしていることを・・・」
レイド・テラワラス枢機卿。渾名は高貴なネズミ。
それからも、旧知の仲で気軽な会話が弾む。
会話の内容は、頭の固い貴族や厳格な教会関係者に知られると、一悶着おこりそうな内容だが。
「ああ、聖審理官の派遣を頼みたいのだけど。いつぐらいなら大丈夫だ?」
「随分早くないか? いつもは早くても春の頃じゃ」
「今年の候補生は優秀でね。もう、魔法障壁まで習得したらしい。魔力量も審理を受けるのに十分だと報告がある」
「しかし、早すぎるだろう。今回は特に」
「期待の新人というやつだよ。将来は私を超える魔法使いになるかもね」
「おぬしを超える?
出来の悪い冗談じゃ。しかし、おぬしにそこまで言わせるとは・・・・・・聖属性の素質があれば、教会に預けぬか? 悪い様にはせぬぞ」
「だが、断る」
「だと思うたわ。だがの、おぬしの所には魔法使いが集まりすぎておろう。そろそろチョッカイを出してくる連中がおるぞ」
「うちに所属する魔法使いは、公表上は国軍の魔法使い所属人数を超えていないけどね」
クレハはにやりと笑う。
「紐付き冒険者を無視してくれるような木端貴族ばかりではないのだがな」
「なんのことだが、判りかねるね」
「こういう所は、貴族っぽくなりおって」
むしろ、政治家っぽくだけどな。とクレハは内心で呟く。
「で、都合はつくのかな?」
「それを見越しての献品だったのじゃな・・・。まあ、あれほどの魔宝晶石を貰っておいて、その程度の望みを適えられないというわけにいくまい」
「おお、さすがはレイド。話が早くて嬉しいよ」
王宮での冗長なやりとりにウンザリしていたクレハは、改めて友人の有り難さを感じる。
「久しぶりに、拙僧がお邪魔しよう。いやぁ、トウゲ領都も久々よの。
なにか目新しい物もあろうな」
「おまえが来るのかよ!
歓迎するぞ!!.」
「おお、大歓迎するがよいっ!!
こっちは、シスターの綺麗どころを連れていくぞっ!!」
「「わっははははは」」
酔っ払い共のテンションは上がっていく。
レイド・テラワラス枢機卿は、今のクレハにとって馬鹿話も出来る数少ない友人なのだ。




