24.魔法教育編:基本講座
本作品における魔法の基本の説明回です。
定番を少し外しています。
僕達13期生全員が、魔法障壁を使えるようになってから、遂に実際の魔法についての授業が開始された。
例年と比べると3カ月以上早いペースらしい。
普通なら、臨時教官であるブリアレス教官の任期終了頃に魔法障壁が使えるようになっていれば上出来だそうだ。
僕達は学塔にきてから一月半ぐらい。
たしかに早いかも。
「もっとも、まだまだ魔力循環や魔法障壁の練度を上げていかねばならん。
講座中も魔力循環を常に行うこと、それと」
リサ教官がいきなり手に持ったチョークを投げた。
4人に全員同時に
ん?投げたのじゃなくて、何かの魔術で飛ばしたのかな。
リサ教官の魔力が揺らいでいたし。
などと魔力の観察に気を取られていたので、チョークが額に直撃した。
怪我をするような威力は無いけど、意外と痛い。
アンとリラも額を押さえている。
アルだけは、飛んできたチョークを反射的に掴んでいた。
相変わらずの呆れた身体能力だね。
「こうやって、時々チョークを投げるので、魔法障壁で防げ。
アルがやったように、手で止めたり躱すのは駄目だ。
これは、咄嗟に魔法障壁を展開するための練習にもなるし、居眠り防止にもなるしな」
アンがびくりとしている。
「教官! あたしは寝ている方が魔力循環がはかどるので居眠りの許可をっ」
勿論、却下されました。
チョークに直撃された頭を抱えるアン。自業自得ってこういうことだよね。
リサ教官のチョーク攻撃を受けながら、僕達は魔法についての基礎を学ぶ。
学塔での教育に使う教科書は、領主様が監修したもので非常に判り易い。
しかも、各魔術の説明については術のイメージをしやすくなるように、魔晶粉を利用した魔法陣を乗せてある。
魔法陣に魔力を流すと、おぼろげながら術の感覚を感じることができるという特殊な教科書だそうだ。
リサ教官の話だと、以前教科書として使っていた教科書とはいうのは、昔の魔法使いが書き残した物がほとんどで、魔法についてわざと難しく、解釈を誤りそうになるような書き方がされていたらしい。もちろん、イメージを体験できるような魔法陣などついていない。
術の内容を理解するだけで、大変に苦労する代物だとか。
そして、王国の他領では未だに昔ながらの教科書が使われているとのことで、学塔用の教科書は領軍の機密扱いになっているそうだ。
なので、教科書は貸与しかしてくれない。
授業の初めに貸してくれて、終わりには返却する。
そういう仕組みになっていた。
自分の物にならないなんて、かなり残念だけど。
本好きのアンも残念がるかと思ったけど、アンは娯楽小説類しか読まないから、関係ないか。
最初に教えて貰ったのは、魔法の属性についてだった。
基本的な属性は、三元属性と言われる。物質を象る三つの属性だ。
すなわち、地、水、風。
地は大いなる大地の力を象徴し、水は溢れる海の力を象徴し、風は遍く大気の力を象徴する、というのが一般的な解釈らしいけど、領主様の教科書ではあっさりと纏められていた。
地=固体 水=液体 風=気体。
判り易いけど、身もふたもない。神秘性ってのも魔法には必要だと思うんだけどね。
教科書に書かれている一文。
『結局、温度によって状態が変化しているだけであって、すべては同じもの。どれかに適正があるのなら、他の三元属性も操れて当然である。
ゆえに、一属性しか操れない魔術師の方が意味不明なのであるが、複数の属性を操る方が難しいというのが、世界の一般的な常識であるようだ。
私には理解できないのだけど』
一属性しか操れないのが、魔術師。
三属性全てを操れるのが魔法使い。
僕達は魔法使い候補生なので、すべてを操れるようにならないといけないらしい。
とはいっても、得意な、もしくは適正の深い属性っていうのはあるもので、それが魔法の兆しで判断できるとか。
たとえば、僕は風の魔法に関した兆しがあった。
扇風機代りにしか使えない兆しだったけど。
アンは地。たしか、ほこりまみれになる兆しだったかな?
レラは水。水って優しいイメージがあるから、レラにはぴったりかも。
アルは風。僕と同じだけど、同類に見られたく無い。
というような、三元属性について説明を受けている間に、僕達へのチョーク攻撃があった。
最初の時と違って、かなり手加減されていたと思った。
飛んでくるチョークの速度が遅い。
しかも、山なりでとんできたし。やっぱりリサ教官って優しいのかも。
わざとゆっくり投げてくれたんだよね。
と、思った僕が馬鹿でした。
全員、魔法障壁を張るのが間に合わなくて額に直撃。
そして、さっきより速度が遅いにも関わらず、衝撃は変わらない。
「三元属性に加えて、付与属性というものが存在する。
重、光、火の三つだ。
ちなみに、さきほどのチョークは 重 によって重さを増加させた。
皆も、実感できただろう?」
はい、たんこぶが出来ています。
重とは、重さを操る付与属性で、これによって重さを増したチョークは鉄製クラスの凶器に変化したらしい。
他の付与属性の光は、明度に関する付与属性。灯りに関する術は、三元属性と光の付与属性を組み合わせることで発動するとか。
火は熱に関する付与属性。
攻撃的な術の大半に使われている付与属性らしい。
ここまでの説明の間に2回のチョーク攻撃を受けた。
僕は一回目は直撃したけど、2回目は辛うじて魔法障壁を展開することが間に合った。
「・・・この段階で魔法障壁の展開が間に合うか。さすがというか、鍛えがいがあるというか、直接、魔術を叩き込んでもよいであろうか」
ブリアレス教官が何か言っているけど、気にしない。
というか、止めてください。死んでしまいます。
ちなみに、アルはチョークが直撃しても平気な顔をしている。きっと面の皮が厚いんだね。
アンとレラは直撃した額を押さえている。アンはともかく、レラの顔に痣が残ったらどうするんだ。
痣ぐらいで、レラの可愛さが減るとは思ないけど。
アンはあれぐらいで丁度いいかな。
「レオ、酷い」
「でも、アン。居眠り仕掛けていただろ」
「そ、そんなこことは無いのだよ。アンは、授業を受けるのがものすごく楽しみなのだ」
見え見えの嘘だね。
「そんなことはないのだ。その証拠に、アンはいいチョーク対策を思いついた!」
「へー」
「そこ、授業中の私語は禁止だ。いちゃつくのは授業が終わってからにしろ」
僕たちの会話のどこから、そんな成分を見つけたのだろうね。
年上の女性の考えって判らない。
チョークが山ほど飛んできた。
正直、死ぬかと思ったけど、魔法障壁が間に合った。
なるほど、必死になればどうにかなる。いい教訓だ。
「さてと、先ほど述べた属性の他にも、特殊な属性がある」
それは聖属性。名前は綺麗だけど、説明を聞くとえげつないことがわかる。
一言で言うと、人に影響を与える属性。
肉体にも精神にも。
良い方向で使うと、肉体の傷を癒す魔術が使える。
悪い方向で使うと、人を発狂させることが出来る。
この属性の適正がある人間を、王国総合教会は集めているらしい。
「聖属性は、人の思いが変質した魔力を扱う方法と言われている。自分の魔力と自然の魔力を合わせる三元属性とは、そこが違う」
そのために教会は、いろいろな神を生み出して人々が信仰するようにしむけているそうだ。
ちなみに、王国総合教会が崇める神というものは複数どころではなく大量に存在する。
神を生み出すというのは比喩ではなく、目立つ物すべてを神格化しようとする。
おそろしいほどの節操の無さで。
たとえば国王神。現国王のオルクス三世を神格化したものだ。
英雄神。王国の英雄である領主様ことクレハ辺境伯を神格化したもの。
アルケー村の教会だと、主神扱いになって祭られていたりする。領主様教って奴だね。
生きている内から神格化されるって、逆に迷惑だと思うけど。それをやってしまうのが王国総合教会というものらしい。
ここまでの話で飛んできたチョークは3本。
最初の一本は魔法障壁で防いだけど、後の二本は無理だった。
というか、明らかに速度が上がっている。
何故か、僕の時だけ。
もっと早く魔法障壁を展開しなければダメってことか。
アンは、すべてを魔法障壁で防いだ。
そして、顔を真っ青にして倒れる。
「アンの、完璧な作戦が・・・」
そりゃ、僕達の魔力量で常時魔法障壁を展開なんてしたら、あっという間に魔力欠乏になるよね。
少しは考えて行動してほしい。
もっと考えて無さそうなアルは、相変わらず額でチョークを受けていた。
というか、頭突きでチョークを粉砕して怒られている。
頭を使うってそういう意味じゃないから。
レラも全部失敗して、痛そうにおでこを押さえている。
ちょっと涙目で。
その仕草すら可愛いのが凄いね。




