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2. プロローグ:旅立ちの前

 1か月はあっという間に過ぎた。

 田んぼの稲の収穫が始まる夏の終わりが、教会小屋での授業の最終日になる。

 そして、収穫が終わる秋の始めから教会小屋の授業が再開される。

 そういうことで、卒業式が終った僕は準備を済ませて領主様の迎えを待つ日が続いていた。

 ちなみに稲の収穫に合わせたカレンダーを作ったのは領主様で、いままであまり知られていなかった稲作による米の収穫を推奨しているのも領主様である。

 僕は米飯好きだから、非常に有り難い。

 小麦も嫌いじゃないけど、主食は米が最高だ。

 

「暑いからひっつくなよ」

「やだ、おにいちゃんといるー」


 妹のミオが張り付いてきて暑苦しい。

 僕と双子の妹だけど、子供っぽさがなかなか抜けないのか、昔からよく甘えてくる。

 そのことをいうと、「おにいちゃんが子供らしさがないのー」

 と、反論されるけど。

 まあ、ミオの言い分の方が正論だとは、僕も思う。

 そして、別れの時が近づいているのを察してから、甘えん坊に拍車が掛かっていた。

 その結果が、この暑い中の肉団子状態。

 甘えてくるミオは可愛いけど暑い。可愛いけど汗まみれだ。

 

「あとでちゃんと、風呂に行って汗をながすんだぞ」

「おにいちゃんと一緒に入るー」

「教会小屋を卒業したら、ちゃんと男女別に入らないと駄目」

「えー」


 村には、村人用の公衆浴場がある。

 これも領主様が就任してから、力をいれて普及させたものだ。

 風呂のお湯は、地下の深い所まで井戸を掘って汲み出している。

 つまり、温泉。

 領主様の趣味の一環で、噂だと領地に存在する温泉の数か所は領主様が自分の魔法で掘り当てたらしい。

 現在では温泉の掘削魔法技術を扱う専門家がいて、彼らの手によって領地中に温泉が普及しており、毎日入浴することが可能となっている。

 当然ながら、こんなことができるのは領主様の領地だけで、他領の人は王都の人間ですら水で体を拭くこと程度で、入浴なんて極たまにする贅沢なことらしい。

 僕は風呂に入るのが大好きだから、他領で生活するのは嫌だと思う。

 

「おにーちゃん、暑いから風起こしてよー」

「あれ、疲れるんだぞ」


 でも、ちゃんと風を吹かせてあげた。

 2歳の頃から使えるけど、威力なんて全く上がっていない。

 短時間だけ使える扇風機魔法が、僕の魔法の兆しだ。

 本当に、ちゃんと教育を受けたら凄い魔法が使えるようになるんだろうか。

 期待半分、不安半分なのが正直な気持ち。

 僕の魔法に対する興味は強い。

 なんか、魔法って聞くと昔からワクワクする。

 

「それにしても、いつ迎えの人が来るか正確な日が判らないって不便だよなあ」

「えー、当然でしょ。村に魔法使いの人いないんだから」


 すぐに他人に連絡がつかないのを不便と思う僕と、当然と思う妹。

 こういう感覚の差を、僕は生まれてからずっと抱いている。

 同年代の村の子供たちとの気持ちの差、心の距離は村を離れる今日まで開いたままだ。

 そのせいか、ぶっちゃけ、親しい友達はいなかった。

 別に寂しくなんてないけどね!



「レオくんの所も、まだ来てないの?」

 

 そんな僕に話しかけてきたのは、3軒隣のレイちゃんだった。

 僕と同じく魔法の兆しを持つ女の子。

 柔らかな栗毛の髪が特徴的。将来はきっと美人さんになるだろう。

 東にある門街で、魔法使いの教育を受けることが決まっている子だ。


「うん、レイちゃんの所もまだみたいだね」

「そうなの。レオくんの所はどうだった?うちはお父さんが泣いて大変だったの」

「・・・家族全員に賛成されたよ」

「レオくんはしっかりしてるからね。あたしみたいに心配されてないのよ」


 慌ててフォローしてくれるレイちゃん。

 彼女は魔法の兆しを持っている仲間として、同年代では唯一の友達だったりする。

 

「でも、レオくんいいなあ。領主様の所で勉強できるって」


 そして、彼女も領主様教の信者だ。


「あたしも、もっと使える兆しだったら良かった」


 悔しそうに笑うレイちゃん。ちなみに彼女の兆しは、コップに入れた水を逆さまにしても零れないというものだ。


「僕の兆しも使い道なんて少ないけどね」

「涼しくて、ミオは好きー」

「ミオは本当に、レオくんの事が好きよね」

 

 えへへと笑うミオ。

 やっぱり、僕の妹は幼げが抜けていないと思う。

 僕がいなくなったら、もう少しはしっかりとしてくるだろうか。

 今まで甘やかしてきた自覚はあるしね。




「あたし、一生懸命勉強して、領主様に認めてもらえる魔法使いになる」

 

 それからレイちゃんと話していると、彼女の目標がわかった。

 

「そして、あたしも領主様のお嫁さんにしてもらうの」


 領主様は貴族らしく複数の奥さんがいるらしい。

 いわゆるハーレム。リア充爆発しろ。

 

「でも、駄目だったら、リオくんのお嫁さんになってあげる」


 僕はキープですか。そうですか。まあ、子供のいう事だからね。

 無邪気なものです。別に腹が立ったりしませんよ。


「えー、おにいちゃんのお嫁さんはミオがなるー」

「兄妹は結婚できないよ」


 妹よ、なぜそこでショックを受ける。

 僕は妹の常識の無さに兄として少し心配になるのだった。

 

  


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