17.番外編:楽しいお出かけ1
一巡りの6の日。
領都に来てから初めての学休みだ。
領都は海に面した港湾部と一体となった大きな街だ。
街の歴史は短いが、既に王国有数の都として栄えている。
トウゲン辺境伯領は、クレハ領主様が古代竜征伐の褒賞として、辺境切り取り次第の免状をもらって開拓した領地。
なんでも、トウゲン領となったこの地域の開拓は成り上がり潰しの罠ゲームとも言われていたらしいのだけど。
その理由が今は遺跡街となっている古代遺跡。
遺跡の影響で発生した魔獣・魔物が闊歩する開拓不可能な魔の地域として恐れられていた。
だが、領主様は遺跡を速攻で攻略することで問題の根幹を解決した。
仲間と一緒に空を飛んで行って、道中の危険を無効化したらしい。
しかも、そうやって手に入れた遺跡の開発を後回しにして、先に海岸まで到達して港に適した湾を発見すると、そこに領都の建設を行う事を決定した。
この時、何故、金のなる木である遺跡の開発を後回しにしてまで領都を優先したのかは謎とされている。
「それは、海産物が食べたかったからに違いないのだよ!」byアン
結果的には、港を使った海運にも成功したことで領内全体の開発が迅速に進むことになったので、今では領主様の英断と言われている。
そういうことで、領都は大きな街だ。しかも、王国の西の玄関口として他国との取引も急増しており、多くの人が訪れる活気あふれる街になっている。
領都に来てからずっと領館にいた僕は、そんな光景を見たことがないので、直接体験できる今回のお出かけは非常に楽しみだった。
もっとも、そんなに人が溢れるところに出たがらない奴もいる。
「うー、やだー、やっぱりアンは留守番するのだ」
最近、人見知りとか治ってきたので安心していたら、またぶり返したらしい。
僕は強引に部屋に突入した。
女の子の部屋に無理やり入るなんて、酷いことかもしれないけど、なにせ相手はアンだ。
それくらいしないと、話にならないし。
そういや、アンの部屋に入るのは初めてだった。
一瞬、迎えの馬車での出来事を思い出す。
あの時のインパクトと比べればどうってことは無い。
…と、思っていた頃が僕にもありました。
なにこれ?なんで一巡り経ってないのにこんなに部屋が汚れているの?
アンの部屋は、彼女が持ち込んだらしい本が床一杯に広がっていた。
整理しろよ。本が可哀そうだろう。
足元に柔らかい感触。
……下着を脱ぎ散らかすな。
「アン?」
「ひゅい、レオの顔が怖い!」
「どうやったら、こんなに散らかるの?」
「そ、それは…レオが片付けてくれないから?」
殴ってもいいよね?
でも、僕はぐっと我慢して、アンを部屋の外に放り出した。
「ああ、もう。今回だけだからな。なんで、トイレまでこんなに汚れているの。
まったく、もう……」
アンの部屋を片付けるのに、一時間掛かった。
まったく、信じられない。
「レオ君の面倒見の良さも信じられないの」
レラ、お願いだから、アンに女の子の慎みを教えてあげて。
「おお、レオすげーな。俺の部屋も片付けてくれ」
お断りだ。アル。
「ああ、居心地の良かったアンの部屋が・・」
とりあえず、頭にチョップ。
少しは反省とかしてほしい。
「なんというか…アンの面倒は、レオに任せておけばいいということだな」
リサ教官、見捨てないであげてください。このままだと、貴方以上の残念な女になりますよ、アンは。
何故か殴られた。解せぬ。
領都は広い。一日で回り切れる訳がない。
なので、見物に行くところを決める必要がある。
僕が希望したのは港だ。
アルケー村という内陸の村育ちなので、今まで海に縁が無かったし。
領館も海岸近くにあるから、学塔から海や港を見ることはできたけど。
やっぱり、巨大な帆船とか直接見てみたい。
領都は西の玄関口と言われるほど交易港で、国内の他の港からの船は勿論、海外からの交易船も立ち寄る場所なのだ。
わくわくするよね。
「ふむ、レオが子供らしい表情に…珍しいこともあるものだ」
「いや、子供であろう? 確かに珍しいが」
いや、教官達、僕の事を普段どんな目で見ているんですか。
僕は純粋可憐な9歳児ですよ。
「それは無いと思うのだよ」
人の腕にしがみ付いておきながら失礼なことを言うアン。
遺跡街の時と同じだね。あの時は酷い目にあったけど。
「動き辛いから離して」
「やだやだ。絶対離れないー」
「二人とも、仲がいいよね」
「だぞー」
「いつでも譲るけど」
「えーと、わたしは遠慮しとくね」
「俺はまっぴらだぞー」
「レラちゃん、酷い。一緒に寝た仲なのに」
「なんだよそれ、羨ましいぞ」
「それ、アンがリラの部屋で寝落ちしただけだろ。しかも床で」
「あの時は、ありがとうね。レオくん。わたしじゃアンちゃん重くて」
「アンは重くない!」
「俺に任せろよー」
「アルはいったん寝たら起きないから」
「次は起きるっ絶対っ!」
「お前ら、五月蝿い」
リサ教官に怒られた。
主にアルが叫んだせいだね。
港はごった返していた。
想像はしていたけど、それ以上に人が多い。
王国人とは違う人種の人達もたくさんいる。
なにより、異国情緒《・ ・ ・ ・》たっぷりの屋台とかがたくさん通りに並んでいる。
「何をいっておる。ほとんどは地元の屋台であろう。
確かに、数軒は異国の屋台《店》もあるが」
「よく見る屋台もあるけど、数がすごいぞー」
「レオは田舎者だから仕方ないのだ」
まあ、そうだけどね。どうせ、村から出たことの無かった田舎者だよ。
でも、僕の知っている屋台とは違う気がするんだよな。
ほら、タコ焼きとかイカ焼きとか、焼きそばとかさ。
「蛸? あれを食べるなど聞いたことが無いのだが」
「烏賊ならあるが、せっかくちゃんとした店を予約しているのだ。
立ち食いは止めておくのが良かろう」
どうやら、また変なことを言ったのかもしれない。
その後、人ごみに揉まれながら港を見物した。
帆船は大きいけど、基本的にマストは一本で帆も一枚しか無い。
帆船って船の上が帆だらけになるほど、たくさんあるってイメージがあったんだけど。
「大きな帆船なら、必ず魔法使いか風の魔術使いを雇っている。
魔術で風を制御するのだから、帆など一枚で十分であろう」
魔術に頼らない船ってのもあるらしいけど、どうしても操船のための装置が多く必要となるので荷物が積めなくなるため、交易船では有り得ない構造らしい。
他にも、港の沖に建てられている海上大灯台を見学したり、綺麗な小物を売っている店に立ち寄ったりしながら、ブリアレス教官が予約してくれた料理店へ到着した。
ちなみに、港街は柄の悪そうな水夫とかもたくさんいたけど、ブリアレス教官の熊顔を見ると全員が顔を逸らしていた。
体も熊並みにでかいし、怖いよね。
絡まれないのは有り難いから助かる。
ブリアレス教官の選んだ店は、洒落た感じの魚介料理の店だった。
リサ教官をデートに誘うために調べていたのかな。
そこに邪魔するなんて、駄目だよね。
「…ならば、遠慮すればよかろうものを」
ブリアレス教官が何かつぶやいている。
僕達、子供だからよくわからないけど。
でも、そんな僕達なんて比較にならない邪魔者がいらっしゃった。
店員さんに案内されたのは、店の最上級の部屋がある最上階。
そこには領主様が待っていた。




