13.魔法教育編:魔力循環2
楽しい週末の予定も決まった所で、僕達は魔力循環についてリサ教官から説明を受けた。
リサ教官の小難しい喋り方を要約すると、魔力循環って魔力を周囲に放出することなく操る術技らしい。
循環の名前通り、放出した魔力を自分に戻して再放出することを繰り返すそうで、イメージ的には魔力で輪を作って体内と周囲でぐるぐる回す感じっぽい。
「おお、『チャクラ』の回転。厨二病キター」
アンが変な事を言っているけど、その台詞だけで僕もイメージが固まってしまった。
こういうのが異世転生者の知識によるものなのかな?
それなら、日本って異世界にも魔法が普及していたのかも。
…なんか、そんなわけないって、いう気持ちが沸いてきたのはなぜだろう?
おっと、リサ教官の話を聞かないと。
でも、魔力循環自体には、周囲に影響を及ぼすような効果は無いそうだ。
メリットは、魔力の消耗なしで魔力を動かすことを練習できること。
この魔力循環を継続することによって、魔法を使う時の魔力操作の精度の向上と、生体魔力の容量上昇が出来る。
昔は、魔法を実際に使う事でしか魔力の鍛錬は出来ないと思われていたらしい。
だけど、近年広まった魔力循環による鍛練法のお蔭で、魔法使いの能力は大きく向上したらしい。
ちなみに広めたのは、クレハ領主様。
「領主様って、まじチート」
うん、僕も同感だよ、アン。
あと、リサ教官。そこから領主様賛歌に入るのは止めてください。
「…そう言う訳では、クレハ様は術技と実績に優れた魔法使いというだけではなく、魔導理論にも秀でた素晴らしい方であることは、君達にもわかるだろう。しかも、さらに、それだけでは無く…」
「リサ教官殿、話がずれておる」
ブリアレス教官が止めてくれた。それにしても、退屈な話になると直ぐに寝るのも止めておけ、アル。
あ、殴られた。
「さて、早速だが魔力循環の練習を始める。最初は集中を高めなければできないであろう。
だが、慣れてくれば徐々に精神を集中させなくてもできるようになる。
優れた魔法使いは、日常生活においてどんな事をしていても常に魔力循環を行っている。
地味な努力こそが、将来のために必要なのだ」
ブリアレス教官は、昨日と同じように手を叩いた。
光のような何かが出てくるのを感じる。
「本来は、魔力循環中の魔力は感じづらいものだが、判り易くするために印象《光輝》づけておる。
開眼した諸君達であれば、問題なく見える筈だ」
ブリアレス教官の手が合わさった瞬間、魔力が放出されている。
魔力の一部が楕円形のように膨れているので、非常に判り易い。
放出された魔力は教官の頭付近から背骨を通るようにして体を廻り、再び手に戻っていた。
「見えたであろう。今の魔力の流れを魔力経路と呼ぶ。
魔力の動きを判り易くするためにワザと脈動させておったが、本来はこういう感じになる」
再び手を叩くブリアレス教官。魔力の流れに瘤が無くなりなだらかとなる。
この状態だと、教官の言うとおり魔力の流れが判りづらい。
「更に、効率をよくするためには皮膚の上を這わすように行う。こうなると、よほど集中せぬと魔力を感じる事は無理だ」
空中を流れていた魔力が、ブリアレス教官の体に近づき手を伝わるように流れが変わった。
こうなると、教官が自然に放出している魔力に紛れて、循環しているのかどうかが判りづらい。
僕には辛うじて感じる程度だ。あれ、でもこの感じ?
「魔力循環の経路って複数あるんだ」
ブリアレス教官の魔力経路は、3つに分かれていた。一本だけの流れじゃない。
「ほう、それが判るか。昨日、開眼したばかりだとは思えないな」
感心したようなリサ教官の声。なるほど、領主様が目を掛ける訳だと呟いている。
いや、領主様が僕達に目を付けているのは別の理由だと思います。
「修練を積んでいけば、一本の経路だけでは無く、複数の経路を維持することができる。
勿論、複数の魔力経路を用いた方が効果が高いであろう」
ブリアレス教官は手を叩くのを止めた。それでも魔力は循環している。
自然の状態での魔力循環を感じるのは難しいな
あ、経路が2本になった。
「…なんと、この状態でも魔力の流れを見えるとは。空恐ろしい子供だな」
ブリアレス教官も呟く。あれ?これって普通できないのかな。
「え、レオくん。見えてるの? すごーい」
「レオ、スゲーな。俺、最初のやつしか見えなかったぞ」
「レオのことだから、きっと適当な事をいっているだけなのだ」
レラは可愛らしく首を傾げ、アルはすげーすげーいいながら僕の肩を叩いてくる。
アンは暫く飴玉禁止だ。
「そんなー」
そして修練開始となった。
今まで順調だったうえ、教官達に褒められたので調子にのっていたのだと思う。
正直、舐めていてすみません。
「…アンになるとこだった……」
「吐く=あたしって方程式やめてー」
魔力の放出までは楽だった。
昨日、アンが過剰に放出しているのを見たから、なんとなく要領が判っていたことも大きい。
でも、その後が…
「体に戻すって、大変…」
床にぺたんと可愛らしく座って青ざめているレラ。
「・・・・・・・・・・・っ、っれぇー」
頑張り過ぎたのか、バカすぎて限界に気付かなかったのか。
魔力の使い過ぎで完全に倒れているアル。
そして、同じく気分が悪くなって、床に座り込んだ僕。
「なんで、アンは平気なんだ? さぼっているだろ」
「な、なにを、とんでもない言い掛かりをー」
アン、目が泳いでいるよ。
「べ、べつにアンは、昨日の事がトラウマになってやりたくないなんて思っていないのだ。そう、ちょっと今日は体調が悪いだけなのだよ」
「つまり、さぼっていたと」
「サボっていたんじゃなくて、明日頑張るために力を蓄えているのだ!」
「そう言う奴は絶対、明日もさぼる」
「ああぁぁ、聞こえない―っ」
調子のいい耳をお持ちの様で。
ほら、背後でリサ教官が説教の準備をしているぞ。行って来い。
その後、魔力が回復してから再挑戦したけど駄目だった。
途中から、こまめに魔力回復の休憩を取ったので僕達が倒れるようなことは無くなった。
なんでも、生体魔力容量の10~8割程度の状態が、魔力回復量が最も大きくなる状態らしい。
なので、休憩は早め早めにするほうが、練習につかえる総魔力量が多くなる上、疲れないとか。
そういうのは先に教えておいて欲しかったけど。
どうやら教官達は、僕達がこんなに早く魔力が枯渇するまでの魔力放出ができるようになるとは思っていなかったみたい。
昨日、アンがやらかしたのにね・
結局その日は僕達の誰も魔力循環を行えるようにはならなかった。
やっぱり魔法使いになるのって大変なんだな。
リサ・ラ・ミラーは溜息をついた。
「まさか、全員が魔法放出をできるようになっているとは。教官として自信を無くす」
「あの子たちの優秀さを見誤ったのは儂も同じ。そうまで気にすることはなかろう」
「とはいっても、アルなど後遺症が残りかねない量まで一気に魔力を放出していた。
直前で止められなかったのは私の責任だ」
「本人は平気そうだが、次回から気を配ろう」
「ああ、不幸中の幸いというやつだな」
修練で疲れてぐったりとした子供達を各自の部屋に運び込んだ後、教官達は大広間で喋っていた。
内容は、今日の授業の反省である。
「普通なら、魔力放出を出来るようになるだけで一月はかかるのだが」
「昨日の様子から、アン候補生だけを注意しておったからな。
まさか、全員が出来るようになっていようとは…
それに、レオ候補生の魔力感知も異常であろう。見せるつもりでもない他人の魔力循環など、儂でも経路の数までは判らん」
「ほう、魔力操作の名人ともあろう貴様がそう言うか」
「儂の得意なのは、魔法障壁ということもあるが…、どこかの鬼婆教官殿の御蔭で」
「まだ蒸し返すか。昔のことだろう、ブリアレス」
リサ教官が、教官としてトウゲン領に招待されたのは彼女が15歳の頃。
最初に受け持った学塔の候補生のなかの悪餓鬼の中にいたのが、9歳のブリアレス坊や。
彼等はそれ以来の付き合いである。
悪餓鬼の悪戯にたいして、シャレにならない魔法で容赦なく反撃していった結果、ブリアレスは魔法障壁の達人となっていた。
「しかし、こうまで候補生達の上達が早いとなると、早めに魔宝晶石を用意しておく必要があるかもしれんな。明日にでもクレハ様にお願いにいくとしよう」
「…今日も、執務室に行ったのであろう。領主様はお忙しい。頻繁に行くことは迷惑ではないかな」
「なに、クレハ様から教育の進捗を報告するように命じられているからな。
…それに、クレハ様にお会いできるのは嬉しいし」
リサ教官は、少し顔を赤らめる。
この人は昔からこうだなと、苦々しく思うブリアレスだった。




