11.魔法教育編:魔力感知
しばらく説明回っぽいのが続きます。
翌日、朝食を食べた後僕達は学塔の最上階にある教室に集められた。
ちなみに、食事は領館の賄専門の女中さんが作って持ってきてくれる。
メイドなのに若い娘じゃないなんて、領主様は判っていない!
とか、アンが言っていた。
ベテランの人の方が、料理が旨くていいと思うけど。
というか、萌メイドさんはどこーとか言わないで欲しい。意味が分からなくて、皆、引いちゃったし。
「さてと、君達同士での自己紹介は済んでいるようだな。
既に知っている筈だが、私が第13期領館付魔法使い候補生の担任を務めるリサ・ラ・ミラーだ。
君達とは6年間の長い付き合いになる。
私の使命は、君達を出来るだけ早く使える魔法使いに育て上げる事だ。
厳しく行くので、覚悟しておけ」
リサ教官は昨日と同じく、厳しそうな表情のまま語った。
鬼女教官だね。領軍所属って言っていたから、ここって学校というよりも軍隊形式なんだろうか。
その後、リサ教官の簡単な経歴などの紹介があった。
僕達で候補生を受け持つのは、3回目になるらしい。ということは…
「リサ教官殿は13年目の大ベテラン。皆も頼りにしてよかろう」
言おうと思って止めておいた事を言ったのは、熊男さんだった。
何故か、薄汚れているけど。
リサ教官が睨みつけているけど、気にした風は無い。
「同じく知っておるだろうが、儂はブレアレス・バーン。
担任のリサ教官殿と違い、半年の間、諸君を指導する臨時教官である」
リサ教官と同じく、熊男さんことブレアレス教官が簡単な経歴などの紹介を行った。
ブレアレス教官は、魔法使いが最初に覚えなければいけない魔力操作系統の術に特に優れているらしい。
そのため、臨時教官として招集されたそうだ。
常任の担任教官となるリサ教官と、臨時の教官の組み合わせで僕達に魔法使いとしての教育を行うのが学塔の方針のようだ。
それから、これからの教育予定についてとかの説明が続いた。
説明をしてくれたのは、担任教官のリサ教官。
魔法使いって、魔法の呪文を覚えて魔法を使っていれば成長するのかと思っていたけど、随分と違うようだった。
まずは、魔力に慣れることが第一。次に魔力を利用した魔力操作の技術を覚えることが第二。実際に魔法を操るのは、それらの過程を終了してからだそうだ。
他にも細かいことを説明していたけど、段々と難しい話になってきた。
というか、リサ教官が説明に熱が入り過ぎている。僕達9歳なんだから、そんな難しい話は判りません。
三属性とか付与属性とか、それの組み合わせがどうだとか、まだ一切習っていない僕達には理解できない。というより、先ほどの話だとそこに行くまでの前段階があるのだから、まだ早い話だと思います。
説明に付いていけなくて、アンとアルは居眠りしているし。
お前ら、初日くらいは緊張しろよと言いたい。
人数が少ないのだから、寝ているのなんて直ぐにばれるぞ。
「ということでだな、君達には三属性を極めることは勿論、更にこの先の聖属性にまで到達する可能性が…」
「リサ教官殿、熱く成りすぎであろう」
まったく、この魔法バカぶりは変わらぬ。と呟くブリアレス教官。
「それと、そこの二人、せめて眠気に逆らう素振りくらい見せろ」
ごつん、と拳を落とす。痛そうだな。
「は、アンは寝てないよ!」
「いてー、すげーいてー。え、そろそろ飯?」
お前ら、もう少しうまく誤魔化せよ。
リサ教官の目が怖い。
レラも怯えている。怯えている姿が可愛いけど。
金髪ロリポニーテールの破壊力は凄いね。
なんてことを考えていると、アンが睨んできた。
アルからは殺気すら感じる。
何、こいつら。バカ同士で、何か結託しているのかな?
「それじゃあ、二人ずつ組みを作れ」
「やめてー。なにか嫌な記憶がー」
相変わらずアンが騒がしい。
4人しかいないから、ボッチになる心配はする必要はないんだけど。
更に騒ぎそうなので、とりあえずアンの手を握る。
ついでに、口に飴玉を放り込むと静かになった。
「うう、やっぱりレオはあたしの味方だよね」
「だが、断る」
「そんなー」
バカのアルは、しっかりとレナの手を握っていた。
というか、力を入れ過ぎだろう。レナの顔が歪んでるんだけど。
あ、殴られた。
「いてー、でも、いいパンチだ」
なのに、満面の笑みのアル。何、こいつ、そういう趣味なのか?
「アル!、力加減を考えてっ!!」
「? 力加減…、そういや兄ちゃんが結婚式した時、嫁さんがそう言ってたぞー
今晩は痛くしないでね、優しくしてねって…ぐはあ」
あ、リサ教官のボディブロウ。左で肝臓を打ち抜く一撃だね。
レラは真っ赤になってるけど、耳年増ってやつかな?
あ、もっと赤くなった。
「だから、そーいうの、声に出しちゃダメなのだよ」
と、アン。
声に出したつもりはなかったんだけどなあ。
まあ、昔から良く言われていたことだから、いまさら気にしないけど。
「さて、まずは基礎の基礎からだ。
究極の基礎こそ究極の奥義。
と、クレハ様は仰っていた。
まずは魔力感知と魔力循環だ。これが出来ないのでは魔法使いとして話にならない。
もっとも、領都に呼ばれた子供で取得できなかった者はいないからな。
最初は上手くいかなくても、焦る必要は無い。
では、ブリアレス教官」
「まあ、諸君たちは魔力感知に関しては問題ないのは判っているが」
ブリアレス教官は、手を叩いた。
手と手がぶつかり、ぽん、ぽん、という音がする。
「音に集中しろ、しかし、音だけに集中するな。音に集中してかつ気を逸らす。
あまり考える必要は無い、感じることが大切であろう」
ぽん、ぽんという音が続く。そういえば、この音は昨日聞いた音だ。
そう思った瞬間、視界が揺らいだ。微かな揺らぎ。
音に光が混じる。変な言い方だけど、そう表現するしかない不思議な感覚だ。
音に混じった光が、ブリアレス教官の手から出て、教官の頭に流れていくのが見えた。
「儂の手から出る光が見えたのなら、次は相方を見よ」
僕はアンを見る。アンも僕を見ていたということは、アンにもブリアレス教官の光が見えたのだろう。
「先ほどの光を思い出せ、だが、思い出し過ぎるな。
あくまで感じる事を主にせよ。
先ほどの光と、似たような光を、感じろ」
ぽん、ぽんという音が続き、ブリアレス教官の声が頭に響く。
揺らいだ視界がさらに揺らぐ、だが、その揺らぎは一瞬で収まっていく。
そして、視界がぼやけた。
いや、ぼやけた訳では無い。視界はハッキリしているのに、光る透明な膜が周囲を覆っているような不思議な感覚。
光の幕は濃淡を持ちゆっくりと流れていく、それがアンの体から出ているのに気付いた。
「相方から流れる光を感じたのなら、次は自分を見よ。臍の下あたりから溢れてくる光を感じろ」
ぽん、ぽんという音。ブリアレス教官の出す音は完全に光となった。
その光を感じながら、自分のお腹辺りを見る。
最初は変化が判らなかった。けれど、アンからでる光を目の端に止めているうちに、徐々に自分からも光が沸いていることに気付く。
そして、その光が自分の体を上っている。徐々に、しかし、確実に。
上っていった光が、喉を通り過ぎ、口を超え、目にたどりつき、脳に到着した時、再び世界が揺れた。
もう、光は見えない。
視界は元に戻っている。
だが、僕は見えない光のような何かを感じていた。目で見ているわけでは無い。
あえて言うなら、体全体で感じている。
視界に移る世界は今までと変わらない。
だけど、今まで感じなかった何かが、周囲にあることがわかる。
それは、周囲にあるもの全てから微弱に感じられる。
周囲の人たちからは、強く感じられる。
世にあまねく存在し、人が生み出す摩訶不思議な力。
魔力を感知する能力《術》を僕が身に着けた瞬間だった。
「昨日の様子見で、反応があったので習得は早いだろうとは思っていたが、さすがに早すぎであろう。まさか、一回目の開眼誘導で成功するとは」
「しかも、二人もだ。貴様を教えた時は、三日必要だったな」
「それでも早いと言われた覚えがあるがな、リサ教官殿」
僕と一緒に、アンも魔力感知を身に着けたようだった。
アルとレナは、ブリアレス教官の魔力を光として見ることは出来ているけど、自分の魔力を感じられるところまでは出来ていない。
「もしかして、アンって天才!?」
調子に乗っている奴がいるけど、教官達の会話からすると、あながち間違いでもないのかもしれないのが怖い。
「なんか、あたし、光っているし。眩しくないけど、なんか光ってる。
あ、こうするともっと光っておもしろい。
あれ?明るくないのに光っているて感じるっておかしくない?
おかしいよね?
でも、面白いからいいのだ」
「少しは落ち着いたら?」
アンのテンションが高い。そして、アンから出てくる魔力がどんどん増えていた。
「おおー、あたし、今光り輝いている!」
僕の感覚だと、光るっていうより圧力の高い空気が集まっているような感じだけど。
個人個人によって感じ方が違うのかな?
「フィーバー!!」
何故か、天を指さしたポーズをとるアン。指の先から魔力が放出されている。
今までと比較にならないほど強く。
あれ?アンの顔色が悪い。
そして、アンが倒れた。
「「馬鹿者っ!!」」
教官達が叫ぶ。
僕は慌ててアンを抱え起こした。
青ざめたアンの体が冷たい。
でも、意識はあるようだ。
「うううう、きぼちわるぃぃ」
吐きそうな感じ。僕は慌ててアンから離れる。
嫌な記憶があるからね!
「レオ…酷い…」
なんといわれても嫌な物は嫌だ。
命に別状があるわけじゃなさそうだしね。
「魔力の過剰放出による魔力欠乏症だ」
アンの様子を見たリサ教官が言った。
アンはしっかりとリバースしてしまいました。後片付けは面倒だったとだけ言っておく。
「まさか、開眼したばかりで魔力放出までやるバカだったとは…
調子に乗るにもほどがある」
「慣れるまでは魔力放出は、そうとう体に負担になるであろうに。
普通なら、不快感がして、自分からやろうとはせぬものだが」
「なんか、調子にのってたからなあ。自業自得だね」
「スゲー光でてた。アン、スゲー」
「アンちゃん、大丈夫?」
リサ教官の説明だと、アンがやらかしたのは魔力放出による魔力欠乏症。
自身の生体魔力を使い過ぎた時に起きる現象らしい。
慣れれば、生体魔力量が1/3になるくらいまで使っても大丈夫になるらしいけど。
今日、魔力に開眼しただけのアンには負担が大きすぎて、1/2程度まで消費した時点で倒れたという話だった。
「早めに倒れたので、まだ安心であろう。限界まで消費をすると、後遺症が残る可能性もある」
「今の時期の諸君らが気にする現象では無い、筈だったのだが。
アンの様になりたくなければ、諸君たちも無理は禁物。精々注意するように」
「「「はい」」」
こうして、僕達はアンの貴重でもない犠牲によって教訓を得ることができたのだった。
あと、アンの魔力放出は無駄じゃなかった。
あまりにも大量に魔力を放出したので、アルとレラにもアンの魔力を見ることができたらしい。
それがきっかけで、二人とも夕方頃には魔力感知に成功し、開眼することができた。
よかったね、アン。
君の犠牲は無駄にならなかったよ。
そう言って、僕はアンに飴玉をあげるのだった。




